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自閉症児に適切な要求言語を教える〜ABAのマンド・モデル法〜

自閉症児へ家庭療育を行う時に

  • 「ちょうだい」と要求する。
  • 「開けて」と援助を求める。
  • 「貸して」と言う。
  • 「手伝って」と助けを求める。
  • 欲しい物の名前を言う。

等を教えることがあります。

前の記事では子供から行動が
起こりそうな場面で
親がすぐに「何て言うの?」
と聞かずに待つ時間遅延法
について説明しました。

しかし

  • 子供がお菓子の袋を親へ持ってくる。
  • 親の肩を叩く。
  • 親を見る。
  • 何らかの声を出す。

等の自分から相手へ
働きかける行動はあっても

  • 「開けて」
  • 「ちょうだい」

等の適切な言葉を
まだ知らない場合があります。

このような時に
子供からの反応を待った後で
大人が適切な言葉の見本を示して
その言葉を使った要求を
教えることができます。

ABAでは要求する言語行動をマンド
と呼びます。

また要求場面で言葉のモデルを提示して
マンドを教える方法を
マンド・モデル法(mand-model procedure)
と呼びます。

『行動分析学事典』では適切なマンドが
自発されない場合に言語モデルを
プロンプトとして提示し
マンドの出現を促してその後プロンプトを
フェイドアウトする方法が
説明されています。

ただしこの記事では
家庭療育で使用する時には
最初から親が「開けて」と言って
それを繰り返させるのではなく

  1. 子供からの自発的な反応を待つ。
  2. 子供から何らかの自己開始や試みが出る。
  3. 親が「真似して、開けて」と音声模倣を指示する。
  4. 子供が「開けて」と音声模倣する。
  5. 要求した結果を得る。

という順番で使用することを考えます。

これは文献にある
マンド・モデル法そのものの
必須条件ではなく

  • 時間遅延法
  • 自己開始
  • PRTの試み反応の強化

等を組み合わせた
家庭療育での使い方です。

1.マンドは物の名前を言うことではない

まずマンドについて確認します。

例えば机の上に
ジュースの写真があります。

  1. 親「これ何?」
  2. 子供「ジュース」

と答えます。

一方

  1. 机の上にジュースが置いてある
  2. 子供が親に近づく
  3. 子供が自分から「ジュース」と言う
  4. 親が子供にジュースを渡す。

実際にジュースを
受け取ります。

同じ「ジュース」という発声でも
二つは同じ行動ではありません。

後者のように特定の結果を得るために
相手へ要求する言語行動がマンドです。

『行動分析学事典』でもマンドは
動機づけ操作のもとで
他者へ特定の結果を要求し
その結果が得られることで
強化される言語行動として
説明されています。

マンド・モデル法の目的は親の言葉を
上手に繰り返すことではありません。

最終的には必要な場面で
子供が自分から要求できることを
目指します。

2.子供から行動が始まった場面を利用する

マンド・モデル法では
何も起きていない時に
突然「開けてって言って」
と練習を始めるわけではありません。

例えば子供が

  • お菓子の袋を見る。
  • 袋へ手を伸ばす。
  • 自分で開けようとする。
  • 袋を親へ持ってくる。
  • 親を見る。

等の行動をしていたとします。

この場面なら袋を開けてもらう行動の
モチベーションが高いと考えられます。

ここで「開けて」
というマンドを教えます。

重要なのは親からではなくまず子供から
行動が始まっていることです。

『行動分析学事典』でも
機会利用型指導法では
子供の日常環境で生じる学習機会を利用し
機能的で自発的な言語使用を増やすことが
説明されています。

3.動機づけが高い場面だけを使う

マンド・モデル法でも動機づけ操作
を考える必要があります。

例えば子供が

  • ジュースを見る。
  • ジュースへ手を伸ばす。
  • 親へ近づく。

という行動を
している時なら

ジュースのマンドを
教える機会になります。

一方

  • ジュースを見ない。
  • 別の玩具で遊ぶ。
  • 親から離れる。

のであれば「ジュースって言って」
と練習を始めません。

親が教えたい時ではなく
子供から対象へ向かう行動が
起きている時を利用します。

4.必ず子供の自発反応を先に待つ

家庭でマンド・モデル法を使う時に
重要にするのが親のプロンプトより
子供の反応を先にすることです。

例えば子供がお菓子の袋を
親へ持ってきました。

ここですぐに親「開けてって言って」
とはしません。

まず待ちます。

例えば子供から
親を見て何らかの声を出す反応が
出るのを待ちます。

そして子供から「あー」
等の発声が出たとしたらここで初めて
親「真似して、開けて」
と指示します。

子供「開けて」と言えたら
「開けてだね」と親が繰り返してから
袋を開けます。

つまり

  1. 子供がお菓子の袋を親へ持ってくる。
  2. 親は何も言わず待つ。
  3. 子供が声を出し親を見る。
  4. 親「真似して、開けて」と音声模倣を指示する。
  5. 子供「開けて」と音声模倣する。
  6. 「開けてだね」と繰り返してから親が袋を開ける。

という順番です。

毎回

  1. 子供の自発反応。
  2. その後に親のプロンプト。

という順番を守ります。

5.音声模倣は「真似して」を入れて教える

ここでもう一つ
家庭療育で区別したいことがあります。

例えば親が子供に「開けて」と言います。

直後に子供が「開けて」と繰り返します。

ABAでは他者の音声刺激と似た音声を
直後に発する行動をエコーイック
と言います。

「真似して」の言葉が重要な理由は
子供の意図的ではないおうむ返しを
強める可能性があるからです。

「開けて」と親が見本を示し
子供が「開けて」と言えることは
この段階では問題がありません。

ですが
「どれが欲しいの?」のように
親が質問をしている状況でも
「どれが欲しいの?」とそのまま
繰り返してしまう可能性が高いです。

よって
子供に正しい言葉を教える時は常に
「真似して」という指示語を
入れるようにしましょう。

6.言葉を知らなくても自己開始を先にする

「開けて」という言葉を
全く知らない子供なら
最初から親が「真似して、開けて」
と教えた方が早いように思えます。

しかし私の方法では
言葉を知らない場合でも
まず自己開始を優先します。

例えば子供が袋を親へ持ってきて
親を見ます。

親は何も言わずに待ちます。

すると子供が「あー」と声を出しました。

この「あー」は「開けて」
という正しい要求言語ではありません。

しかし親から何も言われていない状態で
子供から相手への働きかけが
始まっています。

そこで初めて親は「真似して、開けて」
と言います。

子供が「開けて」と音声模倣したら
親は「開けてだね」と言ってから
袋を開けます。

つまり正しい言葉を知らないからといって
自己開始を飛ばして
親から言葉を出しません。

まず

  1. 本人から働きかける。
  2. その後に適切な言葉を教える。

という順番にします。

7.「言えない」と「自分から言わない」は分ける

例えば子供が自分から「開けて」
と言わない場合でも
状態は同じではありません。

「開けて」という
発声自体をまだできない場合は
本人からの自己開始を待った後
親が「真似して、開けて」
と音声模倣を教えます。

一方

  1. 親「何て言うの?」
  2. 子供「開けて」

と言えるのであれば「開けて」という
言葉自体は既に覚えています。

この場合はさらに「真似して、開けて」
と音声模倣させるより時間遅延法を使って
親から何も言われる前に
自分から「開けて」
と言う機会を増やします。

家庭療育では「自分から要求しない」
という結果だけではなく

  • 行動自体を知らないのか。
  • 知っているけれど自分から使わないのか。

を分けて考えます。

8.最初の試みを消さず適切な言葉へつなげる

例えば

  1. 子供がお菓子の袋を親へ持ってきた。
  2. 親は何も言わず待った。
  3. 子供が「あー」と自分から発声した。

ここで「違うよ」「開けてでしょ」
とはし親は言いません。

まず本人からやり取りを始めたことを
利用します。

その後
親「真似して、開けて」
子供「開けて」と音声模倣ができてから
袋を開けます。

この考え方はPRTの試み反応の強化
とも関連します。

自発的な発声が出た場合は試み反応として
積極的に利用します。

重要なのは正しい言葉が出る前の
本人からの働きかけをなかったことに
しないことです。

9.プロンプト・フェイディングでは言葉の一部を手がかりにしない

マンド・モデル法では最終的に
親からの言葉をなくす必要があります。

これはプロンプト・フェイディング
と関係します。

文献では例えば「りんご」
という音声プロンプトを
「りん」
「り」
のように
短くしていく方法が説明されています。

しかし私の方法では
マンドの音声プロンプトについて
この方法は基本的に使いません。

例えば「開けて」を教える時に

  1. 親「あ」
  2. 子供「開けて」

という手順で教えたとします。

しかし「あ」から始まる言葉には
「開けて」だけでなく
「ありがとう」「あそぼう」「あか」
等もあります。

親の「あ」という音声が
特定の一つのマンドを
出す手がかりになると
別の言葉を教える時に
使い分けが難しくなる可能性があります。

そのため「あ」「開け」等
言葉の一部分をプロンプトとして
残していくのではなく
次の順番で教えます。

  1. 子供から何らかの発声が出る。
  2. 親「真似して、開けて」
  3. 子供「開けて」。
  4. 「開けてだね」と親が繰り返す。
  5. 親が袋を開ける。
  6. 次の機会でもまず子供からの発声を待つ。
  7. 最終的にモデルなしで「開けて」と言う。

つまり

  1. 最初は何らかの自己開始を待つ。
  2. その後完成した言葉を明確な音声模倣課題として教える。
  3. 最後に音声模倣の指示自体をなくす。

の順番で教えていきます。

『行動分析学事典』でも最終的には
プロンプトを撤去し自然な状況で
標的行動が生起する状態へ
移す必要があると説明されています。

10.時間遅延法とマンド・モデル法を使い分ける

時間遅延法マンド・モデル法はどちらも
要求場面で使用できます。

『行動分析学事典』でも
機会利用型指導法の中で時間遅延法や
マンド・モデル法を併用する方法が
説明されています。

家庭では「開けて」という言葉を
既に言えるのであれば親は待って
自分から言う機会を作ります。

これは時間遅延法です。

一方「開けて」という言葉を
まだ言えないのであればまず本人からの自己開始を待ちます。

何らかの働きかけや発声が出た後で
親「真似して、開けて」と教えます。

これがこの記事でのマンド・モデル法
の使い方です。

どちらの場合も最初に親から
言葉を出さないことは共通しています。

11.最終的には自然な強化随伴性で維持する

マンド・モデル法で重要なのは
言葉を教えた後です。

例えば

  • 「開けて」と要求したら袋を開けてもらえる。
  • 「手伝って」と言ったら手伝ってもらえる。
  • 「貸して」と言ったら可能な場面ではおもちゃを貸してもらえる。

このように日常生活の中に
もともと存在しているご褒美で
行動が維持される状態を
目指します。

これは自然な強化随伴性と関係します。

『行動分析学事典』では日常に存在する
自然な強化随伴性を利用する方が
新しく人為的な随伴性を配置するより
般化維持の点で効果的・効率的だと
説明されています。

13.マンドは必ず音声言語である必要はない

マンドは必ず音声言語である
必要はありません。

『行動分析学事典』では
マンドの反応形態として

  • 音声言語。
  • 身振りやサイン。
  • 書字。
  • VOCA。
  • PECS。

等が挙げられています。

また子供の言語発達レベルに合わせて
標的となる反応形態を選ぶことが重要だと
説明されています。

Cooperらも音声言語だけでなく

  • 手話。
  • 絵。
  • 書き言葉。

等をマンドとして
使用できるとしています。

そのため身振りやサインを
使うこと自体が間違いではありません。

一方、身振りやサインを習得することが
音声言語を獲得するための
必須ステップではないです。

またこのような簡単とされる
サイン自体にも模倣等のスキルが
必要になります。

要求のサインを簡単に
習得できる子供なら音声言語を比較的
簡単に獲得できる能力が高い子です。

一方、サインの習得自体が難しく子は
能力が低く言語を容易には獲得できない
子です。

つまり使いこなせる子は必要性が薄く
使いこなすことが難しい子は
必要性が高いというジレンマが起きます。

サインを覚えることが難しい場合は
音声言語への前段階として新しいサインを
必ず教える必要はありません。

私の方法では

  1. 子供が欲しいおもちゃを見る。
  2. 親へ近づく。
  3. 親を見て「あー」と発声する。
  4. 親「真似して、電車」
  5. 子供「電車」
  6. 親が電車を渡す。

とします。

音声模倣が難しい子は「あ」等の
発音できる音から教えていきます。

その後適切な音声を音声模倣によって教え
さらにシェイピングによって
より適切な音声へ近づけていきます。

実践例

自閉症児がシャボン玉で
よく遊んでいます。

親がシャボン玉を吹くのを止めると

子供は

  • シャボン玉の容器を見る。
  • 親へ近づく。
  • 親を見る。

という行動をします。

しかし「もう一回」という言葉は
まだ言えません。

ここですぐ「もう一回」という言葉を
教えません。

まず親は無言で待ちます。

子供が親を見ながら「あー」と発声したら親「真似して、もう一回」
と音声模倣を指示します。

子供が「もう一回」あるいは現在の
音声模倣能力に応じて
それに近い発声をしたら親がシャボン玉を
もう一度吹きます。

  1. シャボン玉が止まる。
  2. 子供が容器を見る。
  3. 子供が親へ近づく。
  4. 親は何も言わず待つ。
  5. 子供から発声等の自己開始が出る。
  6. 親「真似して、もう一回」
  7. 子供が音声模倣する。
  8. 親がシャボン玉を吹く。

という流れです。

参考文献

日本行動分析学会編
『行動分析学事典』丸善出版

P.A.アルバート/A.C.トルートマン著
佐久間徹・谷晋二・大野裕史訳
『はじめての応用行動分析』二瓶社

John O. Cooper
Timothy E. Heron
William L. Heward 著
中野良顯訳
『応用行動分析学 Applied Behavior Analysis 第2版』明石書店

メルマガをしています。

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