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自閉症児に教えると様々な場面で応用できるようになる行動について〜ABAの基軸行動〜

自閉症児へ家庭療育を行う時には

  • 要求する。
  • 質問に答える。
  • 模倣する。
  • 他人へ話しかける。
  • 課題をする。
  • 一人で遊ぶ。

等の様々な行動を
一つずつ教えることがあります。

しかし一つの行動を教えた結果
その行動だけでなく直接教えていなかった

  • 言葉。
  • 遊び。
  • 人とのやり取り。
  • 学習。
  • 適切行動。

等まで変化することがあります。

ABAでは一つの行動を習得することで
直接訓練していない
他の行動にも変化が広がる行動を
基軸行動(pivotal behavior)
と呼びます。

Cooperらは基軸行動について
一度学習すると直接訓練していない
他の適切行動にも変化や共変化を
もたらす行動と説明しています。

例えばCooperらは自閉症児が
自分から他者とのやり取りを始めること
=自己開始
を基軸行動の候補として
紹介しています。

自己開始が増えることで
直接訓練していない

  • 言葉。
  • 会話。
  • 社会的なやり取り。

等にも変化が広がる可能性があります。

1.基軸行動は一つ教えると他の行動まで変わる

例えば自閉症児が
親から「何が欲しい?」と聞かれれば
「水」と言えるとします。

この場合質問に答える行動は
できています。

しかし喉が渇いていても自分から相手へ
「水」とは言いません。

そこで
自分から相手へ働きかけを始める
ことを教えたとします。

すると「水」だけではなく

  • 「動画」
  • 「開けて」
  • 「手伝って」
  • 「見て」

等のそれまで直接
一つずつ教えていなかった場面でも

自分から相手へ働きかける行動が
増える可能性があります。

さらに

  • 要求する。
  • 報告する。
  • 質問する。
  • 人へ近づく。
  • 会話を始める。

等へも変化が広がる可能性があります。

このように教えた一つの行動が
他の多くの適切行動へ
影響する可能性があることが
基軸行動の特徴です。

2.一つできるようになっただけでは基軸行動とは言えない

例えば前述の「水」と言えるように
集中的に教えた結果水が欲しい時だけ
「水」と言えるようになったとします。

これは重要な学習です。

しかし

  • 動画。
  • お菓子。
  • 玩具。
  • 手伝い。

等についてはこれまでと
何も変わらなかったとします。

この場合教えた行動自体は増えていますが
直接教えていない
他の行動までは大きく変化していません。

そのため基軸行動を習得したとは
みなせません。

3.行動カスプと基軸行動は見る場所が違う

前の記事で説明した行動カスプ
基軸行動は似ています。

しかしチェックポイントが少し違います。

簡単に分けると

  1. 行動カスプ
    一つの行動を習得することで新しい環境・好子・随伴性等へ接触できるようになる。
  2. 基軸行動
    一つの行動を習得することで直接訓練していない他の行動まで変化する。

という違いです。

例えば

電車に乗れるようになって

  • 動物園。
  • 水族館。
  • 遠くの公園。

等の利用できる環境が増えるのであれば
行動カスプとして考えます。

一方自分から人へ
働きかけることを教えた結果
直接教えていない

  • 要求。
  • 質問。
  • 報告。
  • 会話。

等まで増えたのであれば基軸行動としての
特徴が見られます。

どちらも一つの行動の変化を超えて
大きな効果が生じる点では
共通していますが
行動カスプは他の適切行動へのアクセス
が増えるイメージ
基軸行動は全ての行動の基礎になる
イメージ
で考えるとわかりやすいです。

4.自分から始める行動は重要な基軸行動の候補

Cooperらは自閉症児の
自己開始(self-initiation)
を基軸行動の候補として紹介しています。

例えば

  • 親から「何が欲しい?」と聞かれて答える。
  • 「先生に挨拶して」と言われて挨拶する。
  • 「手伝ってって言って」と言われて要求する。

ことはできても自分からは
始めない子供がいます。

この場合相手からの働きかけがあれば
行動できますが開始するためには
毎回他人からのきっかけが
必要になります。

そこで必要な時に

  • 自分から親へ近づく。
  • 自分から発声で要求する。
  • 自分から相手の顔を見る。

等を教えます。

自己開始が様々な場面で増えれば
親から一つずつ指示しなくても
本人から環境へ
働きかける機会が増えます。

Cooperらは基軸行動を教える利点として訓練していない場面や
訓練していない反応にも
効果が広がる可能性を説明しています。

5.機軸反応訓練(PRT)は基軸的な領域へ介入する方法

『行動分析学事典』では自閉症児への
包括的な介入モデルとして
機軸反応訓練(Pivotal Response Treatment:PRT)
が紹介されています。

PRTでは一つ変えることで
標的にしていない他の機能や反応領域まで
広範囲に変化する「機軸的な領域」
へ介入します。

機軸的な領域として

  • 動機づけ。
  • 多様な手がかりへの反応性。
  • セルフマネジメント。
  • 自己開始。
  • 共感。

の5つが紹介されています。

ただし基軸行動という概念と
PRTという介入プログラムは
同じものではありません。

PRTは基軸行動の考え方を
自閉症支援へ応用した複数の手続きを含む
介入モデルです。

6.PRTでは子供の選択を利用する

『行動分析学事典』ではPRTの特徴として
子供自身に

  • 何をして遊ぶか。
  • どの玩具を使うか。
  • 課題をどの順番でするか。
  • どこでするか。
  • どの文房具を使うか。

等を選択させる方法が説明されています。

家庭療育でも全てを大人が決めるより

  • 「車と電車どっちで遊ぶ?」
  • 「本とパズルどっちからする?」

等の子供が選べる部分を
作ることができます。

これは「好きなことだけさせる」
という意味ではありません。

必要な学習の中にも
本人が選択できる部分を入れて
参加する行動を増やしやすくします。

7.できた時だけでなく適切に試した行動も強化する

PRTでは完璧な正反応だけではなく
適切な方向へ試みた反応を強化すること
(試み強化)も重視されています。

『行動分析学事典』では

  • 社会的な関わり。
  • 機能的な遊び。

等を試みた反応も強化することが
PRTのガイドラインとして
示されています。

例えば「手伝って」と言えることを
目指している時に最初から完全に
言えることだけを求めず

  • 「て」
  • 「てつだ」

等、明らかに
要求しようとしている反応から
強化することがあります。

その後少しずつより適切な反応へ
変えていきます。

これはシェイピングに似た考え方です。

8.自然な好子で強化する

PRTは日常生活の自然な文脈で
自然な結果のご褒美を利用することを
重視しています。

『行動分析学事典』でもDTTでは
行動と直接関係のないご褒美=好子が
使われる場合がある一方

PRTでは玩具を適切に要求したら
その玩具で遊べる等
行動に対応した
自然な好子を使うことが
説明されています。

例えば
「ボール」と言ったらお菓子を与える
よりも
「ボール」と言ったらボールを渡す
方が行動と結果の関係が自然です。

家庭療育では

  • 特別なお菓子。
  • シール。
  • ポイント。

等の不自然な好子を増やす前に
本人がその行動をしたことで
自然に得られる結果を
利用できないか考えます。

9.できる課題と新しい課題を混ぜる

PRTでは既にできる課題(維持課題)と
これから教える課題(獲得課題)を混ぜて
実施することも特徴です。

『行動分析学事典』では

  • 子供の選択。
  • 自然な結果による強化。
  • 試み反応の強化。
  • 維持課題と獲得課題の混合。
  • 課題の多様化。

という5つが
動機づけを高めるための
手続きとして紹介されています。

例えばまだ難しい課題だけを
10問連続で行わせるのではなく

  1. 一人でできる課題。
  2. 新しく教える課題。
  3. 一人でできる課題。
  4. 新しく教える課題。

と混ぜます。

10.同じ課題だけを繰り返さない

例えば「赤い車を取って」
という課題だけを何十回も繰り返せば
その組み合わせには
答えられるようになるかもしれません。

しかし実生活では

  • 赤いコップ。
  • 大きい車。
  • 小さい靴。
  • 青い袋。

等の複数の特徴を
見なければならないことがあります。

PRTでは多様な玩具や課題を使い
複数の手がかりへ反応することを
重視しています。

学習の段階で般化を強く意識している
ことがわかります。

家庭でも

  • 同じ教材。
  • 同じ聞き方。
  • 同じ場所。

だけで正答することより様々な条件で
必要な情報を見て行動できることを
目指します。

11.PRTは効果を期待できるが実践する難易度は高い

PRTはうまく実施できれば自閉症児の

  • 言葉。
  • 自発的なコミュニケーション。
  • 社会的なやり取り。

等に効果が広がることが
期待できる方法です。

『行動分析学事典』でもPRTによって
正反応が増えただけでなく
自発的に話す言葉が増え臨床場面以外にも
般化した研究が紹介されています。

しかし効果が期待できる方法
=簡単に実施できる方法ではありません。

PRTでは一つの場面の中でも

  • 子供の注意を確認する。
  • 子供自身に選択させる。
  • 自然な好子を使う。
  • 適切に試みた反応も強化する。
  • 維持課題と獲得課題を混ぜる。
  • 課題を多様にする。
  • 自発的なやり取りが起きる機会を作る。

等の複数の手続きを同時に使います。

そのため

  • 「子供に選ばせればPRT」
  • 「自然な好子を使えばPRT」

というほど単純ではありません。

  • 子供がその瞬間に何へ注意を向けているのか。
  • 何を欲しがっているのか。
  • どの程度の反応なら強化するのか。
  • 何を維持課題にして何を獲得課題にするのか。
  • どの程度援助するのか。

等を子供の行動を見ながら
その場で判断する必要があります。

PRTは「一つの技法を覚える」
というよりも複数のABAの手続きを
自然なやり取りの中で使い分ける方法
と考えた方が分かりやすいです。

そのため家庭療育で
完全なPRTを実施しようとすると難易度は
比較的高くなります。

家庭療育ではPRTを知ったからといって
「明日からPRTを全部やろう」
とする必要はありません。

例えば

  • 子供に選ばせる。
  • 自然な好子を利用する。
  • できる課題と新しい課題を混ぜる。
  • 同じ課題だけを繰り返さない。
  • 適切に試みた反応も強化する。

等、PRTで使用される考え方を
家庭でできる範囲で
利用することはできます。

12.基軸行動なら本当に他の行動まで変わったかを見る

家庭で例えば自分から要求することを
教えたのであれば確認することは
要求が増えたかだけではありません。

直接教えていない

  • 自分から人へ近づく。
  • 自分から質問する。
  • 自分から報告する。
  • 会話を始める。
  • 他の場所でも働きかける。

等まで変化したかを見ます。

つまり
教えた行動以外に変化が起きたか
を確認して初めて基軸行動としての価値を
判断しやすくなります。

13.基軸行動だから必ず最優先というわけではない

一つ教えることで多くの行動へ
変化が広がるなら非常に効率の良い
標的行動になる可能性があります。

しかし基軸行動だから
必ず最優先というわけではありません。

例えば現在

  • 道路へ飛び出す。
  • 強い他害がある。
  • 一人でトイレへ行けない。
  • 食事が一人でできない。

等の生活や安全へ
大きく影響する問題があるならそちらを
優先する場合があります。

家庭療育では

  • 今必要か。
  • 毎日使うか。
  • 将来も必要か。
  • 自然強化されるか。
  • 社会的妥当性が高いか。
  • 本人や家族への利益が大きいか。
  • 他の行動まで変化する可能性があるか。

をまとめて考えます。

基軸行動は教えるコスパを高くする
一つの考え方として使います。

実践例

自閉症児が親から促されたら
言葉で答えることはできます。

例えば場面に応じて

  1. 親「何て言うの?」
  2. 子供「お水ちょうだい」
  1. 親「何て言うの?」
  2. 子供「いただきます」

とは答えられます。

しかし自分からヒントなしで
親に話しかけることは
ほとんどありませんでした。

要求時は親の顔を見て声をかけられるまで
じっと待っています。

親が気づいて

  • 「どうしたの?」
  • 「何が欲しい?」
  • 「手伝って?」

と聞くことで初めて言葉を
使っていました。

そこで家庭療育では特定の言葉を
一つずつ大量に教えるより
要求時に自分から声を発する
ことを優先して教えます。

例えば

  • いただきますの場面
  • お菓子を欲しがる場面
  • テレビをつけて欲しい場面

で子供が自分から声を出すまで
親は知らんぷりします。

子供がなんでも良いので自発的に声を
出すことができたら

  • 「いただきますだね」
  • 「ちょうだいだね」
  • 「つけてだね」

と言葉が間違っていても正答を教えて
要求に応えました。(試み強化)

こうすることで
それまで練習していなかった場面でも
要求時に自分から言葉を話して
何らかの要求を出すこと
等が増えたとします。

この場合一つの言葉を
習得しただけではありません。

「自分から相手とのやり取りを始める」
=自己開始という行動の変化によって
直接訓練していない他の適切行動まで
変化が広がっています。

このように家庭療育では
一つずつ全ての行動を教えるだけではなく
一つ教えることで
他の行動まで変わる可能性がある
基軸行動を探して教えることも重要です。

参考文献

日本行動分析学会編
『行動分析学事典』丸善出版

P.A.アルバート/A.C.トルートマン著
佐久間徹・谷晋二・大野裕史訳
『はじめての応用行動分析』二瓶社

John O. Cooper
Timothy E. Heron
William L. Heward 著
中野良顯訳
『応用行動分析学 Applied Behavior Analysis 第2版』明石書店

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