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自閉症児に一つ教えると一気に広がる行動について〜ABAの行動カスプ〜

自閉症児へ家庭療育を行う時には

  • 要求する。
  • 模倣する。
  • 文字を読む。
  • 一人で移動する。
  • 助けを求める。
  • 自分で予定を確認する。

等の様々な行動を
教えることがあります。

しかし同じ一つの行動でもできることが
一つ増えるだけの行動と
その行動を覚えたことで

  • 新しい場所へ行ける。
  • 新しい好子を得られる。
  • 新しい人と関われる。
  • 新しいことを学べる。
  • その後できることが大きく増える。

というように
一気にバリエーションが広がる行動が
あります。

ABAでは一つの行動を習得したことで
その行動そのものを超えて
新しい環境や新しい随伴性等へ
接触できるようになる行動を
行動カスプ(behavioral cusp)
と呼びます。

Cooperらは
Rosales-RuizとBaerの説明をもとに
行動カスプによって

  • 新しい環境。
  • 新しい好子や嫌子。
  • 新しい随伴性。
  • 新しい行動。
  • 新しい刺激性制御。

等へ接触するようになり
その行動自体の変化を
大きく超える結果が
生じると説明しています。

例えば

  • ハイハイする。
  • 読む。
  • 他人の模倣をする。

等が行動カスプの例として
挙げられています。

家庭療育では
「この行動を一つ教えることでその後できることがどれくらい増えるか」
を考えると何を優先して教えるかを
決めやすくなります。

1.行動カスプは一つ覚えることで世界が広がる行動

例えば赤ちゃんが
ハイハイできなかったとします。

ハイハイを
できるようになることだけを考えれば
新しく「床を移動する」
という一つの行動を
習得したことになります。

しかし実際にはそれだけではありません。

自分で移動できれば

  • 離れた玩具へ近づく。
  • 親のところへ行く。
  • 別の部屋を見る。
  • 新しい物へ触れる。
  • 様々な場所で遊ぶ。

等が可能になります。

つまり一つの行動を
一つ増やしただけではなく
その後に学習できる世界そのものが
広がっています。

2.できる行動が一つ増えるだけなら行動カスプとは限らない

新しく覚えた行動が全て行動カスプに
なるわけではありません。

例えば

  • 特定のカードを色ごとに分類できる。
  • 特定のパズルを一人で完成できる。
  • 縄跳びを10回跳べる。

という行動を習得したとします。

それ自体には
教える意味があるかもしれません。

しかし

その行動を覚えたことで

  • 新しい場所。
  • 新しい好子。
  • 新しい人との関係。
  • 新しい学習機会。

等へほとんどつながらないのであれば
行動カスプとしての
価値は高くない可能性があります。

家庭療育では
「新しい課題ができるようになった」
だけで判断せず
その後何ができるようになるのか
まで考えます。

3.新しい好子へアクセスできる行動は優先しやすい

行動カスプを考える上で重要なのが
その行動によって
新しい好子や随伴性へ接触できるかです。

例えば自閉症児が欲しい物がある時に
親の手を引くだけだったとします。

そこで

  • 「水」
  • 「動画」
  • 「手伝って」
  • 「開けて」

等の必要なことを相手へ伝える行動を
教えたとします。

すると要求することで

  • 水を得る。
  • 動画を見る。
  • 開けてもらう。
  • 手伝ってもらう。

等の様々な結果を
得られるようになります。

さらに

  • 家庭。
  • 保育園。
  • 学校。
  • 外出先。

等の使用できる場所も
広がる可能性があります。

このように一つ教えることで
多くの好子や環境へ
アクセスできるようになる行動は
家庭療育では行動カスプの候補として
優先しやすくなります。

4.自然に強化される行動はさらに使いやすい

行動カスプとして
教える行動を考える時にも習得後に
自然なご褒美によって維持されるか
=自然強化される行動か
を考えます。

例えば

  • 要求する。
  • 欲しい物を得る。
  • 文字を読む。
  • 必要な情報を得る。
  • 自分で靴を履く。
  • 外出する。

等です。

このような行動では

  • 特別なお菓子。
  • シール。
  • ポイント。

等を用意し続けなくても
行動そのものによって
生活の中にある好子へ
接触できます。

行動カスプを考える時は覚えた後に
「どうやってご褒美を与え続けよう」
ではなく
「この行動によって自然な好子を得られるか」
を確認します。

5.行動カスプには5つの判断基準がある

CooperらはBoschとFuquaの研究を紹介し
行動カスプを考える5つの基準として

  1. 新しい好子・随伴性・環境へアクセスできる。
  2. 社会的妥当性が高い。
  3. 他の行動の発達につながる。
  4. 不適切行動と競合する。
  5. 本人や周囲の多くの人へ重要な影響を与える。

ことを挙げています。

これらを多く満たすほど
行動カスプとしての価値が
高い可能性があります。

6.その後の学習機会が増える行動を優先する

例えば文字を読めるようになると単に
「文字が読める」だけでは終わりません。

文字が読めれば

  • 本を読む。
  • 看板を見る。
  • 予定表を見る。
  • 説明書を読む。
  • メッセージを読む。
  • 一人で学習する。

等、その後の学習機会が大きく増えます。

そのため
Cooperらが紹介している
Rosales-RuizとBaerの例でも
「読む」ことが
行動カスプの一例として
挙げられています。

7.問題行動と競合する行動も価値が高くなる

行動カスプを考える基準には
不適切な行動と競合すること
も含まれています。

例えば欲しい物がある時に

  • 大声を出す。
  • 親を叩く。
  • 物を取る。

という行動をしていた自閉症児が
「ちょうだい」
と言って要求できるように
なったとします。

要求することで
欲しい物を得られるようになれば
問題行動以外の方法で
目的を達成できます。

また様々な人へ要求できれば
その後の生活でも
使用する機会が増えます。

このように適切な行動を一つ教えることで
問題行動に代わる方法が増え同時に
新しい好子へアクセスできるなら
家庭療育では
優先順位を高くしやすくなります。

8.問題行動でもその後の行動を大きく広げることがある

行動カスプでは一つの行動を覚えることで

  • 新しい環境。
  • 新しい好子。
  • 新しい随伴性。
  • 新しい行動。

等へ接触できることを重視します。

この考え方は適切な行動だけを
見ていればよいわけではありません。

問題行動でも一つの行動を覚えたことで
新しい環境や好子へ
アクセスできるようになり
その後さらに別の問題行動が
増えることがあります。

例えば自閉症児が
玄関の鍵を自分で開けて家から勝手に出る
ようになったとします。

それ以前は家の外へ一人では
出られなかったため行動できる範囲は
家の中に限られていました。

しかし玄関の鍵を開けて
一人で外へ出られるようになると

  • 公園へ行って遊ぶ。
  • 店へ入る。
  • 店の商品を勝手に取る。
  • 食べ物を勝手に食べる。
  • 道路へ出る。
  • 好きな場所まで移動する。

等、それまで接触できなかった
環境や好子へ接触できる可能性が
一気に広がります。

例えば

  1. 一人で家から出る。
  2. 店へ行く。
  3. 好きな食べ物を見つける。
  4. 勝手に取って食べる。

という経験をすれば
家から出ることだけでなく

  1. 店へ行く。
  2. 商品を取る。
  3. 食べる。

という新しい問題行動まで
増える可能性があります。

つまり「鍵を開けられるようになった」
という一つの行動だけではなく
その行動によりその後どのような環境や
随伴性へ接触できるようになったか
まで確認します。

9.本人だけでなく周囲への影響も考える

例えば自閉症児が一人で
着替えられるようになったとします。

本人は自分で服を着て
外出できるようになります。

それだけでなく親が毎朝
着替えを手伝う必要も減ります。

さらに

  • 保育園。
  • 学校。
  • 祖父母宅。
  • 旅行先。

等でも周囲の大人からの
援助が減る可能性があります。

行動カスプを考える基準には
その行動の変化によって
影響を受ける人の数やその重要性
も含まれています。

家庭療育では子供一人の行動だけではなく
その行動を教えることで

  • 親。
  • 兄弟。
  • 先生。
  • 支援者。

等の行動まで
どのように変わるかを考えます。

10.行動カスプと社会的妥当性は関係する

前の記事で説明した社会的妥当性では
その行動を

  • 教える価値があるか。
  • 方法を続けられるか。
  • 生活が実際に良くなったか。

を考えます。

行動カスプもこれと強く関係します。

例えば100時間かけて
一つの教材だけで使う行動を
教える場合と
100時間かけて
自分から助けを求められるように
する場合では
習得後に得られる利益が
大きく異なる可能性があります。

行動カスプの判断基準にも社会的妥当性
が含まれています。

そのため家庭療育での
教えるコスパを考える時にも
行動カスプかどうかは
一つの判断材料になります。

11.行動カスプと基軸行動は同じではない

行動カスプと似た概念に
基軸行動(pivotal behavior)
があります。

Cooperらは基軸行動について
一度学習すると直接訓練していない
他の適切行動まで変化する行動と
説明しています。

簡単に分けると

  1. 行動カスプ
    一つの行動を覚えることで新しい環境や好子や随伴性へ接触できるようになる。
  2. 基軸行動
    一つの行動を教えることで直接教えていない別の行動まで変わる。

という違いがあります。

12.行動カスプという名前だけで優先順位を決めない

ある行動が行動カスプになり得るとしても必ず教える必要がある
という意味ではありません。

例えば読むことは多くの新しい環境へ
アクセスできる行動ですが
現在

  • 危険な飛び出しが頻繁にある。
  • 一人でトイレへ行けない。
  • 必要な時に助けを求められない。

のであれば安全行動や生活スキルを
先に教える方がよい場合があります。

重要なのは「行動カスプだから教える」
ではなく

  • 今必要か。
  • 将来も必要か。
  • 毎日使うか。
  • 自然な好子があるか。
  • 新しい環境へつながるか。
  • 他の行動の発達につながるか。
  • 本人や家族への利益が大きいか。
  • 教えるコストに見合うか。

をまとめて考えることです。

実践例

自閉症児が電車やバスに乗ると

  • 大声を出す。
  • 床へ寝転ぶ。
  • 降りようとする。
  • 親を叩く。

等の行動が起きるため家族での移動は
ほとんど車だけだったとします。

そのため子供が好きな

  • 動物園へ行く。
  • 大きな公園へ行く。
  • 水族館へ行く。
  • 好きな店へ行く。

等の場所にも車で行ける範囲でしか
移動できませんでした。

そこで家庭療育では
電車やバスに乗って目的地まで移動する
ことを教えます。

最初は

  1. 一駅だけ電車に乗る。
  2. 空いている時間帯を選ぶ。
  3. 降りる駅まで座って過ごす。

達成しやすい条件から練習します。

安定したら

  • 乗る時間。
  • 乗る路線。
  • 利用する交通機関。

等を少しずつ広げていきます。

その結果電車やバスに
大きな問題行動を起こさずに
乗れるようになったとします。

すると単に「電車に乗れる」
という一つの行動が
増えるだけではありません。

公共交通機関を利用できることで

  • 好きな公園へ行く。
  • 動物園へ行く。
  • 水族館へ行く。
  • 遠くの店へ行く。
  • 新しい場所へ遊びに行く。
  • 将来一人で移動する。

等それまで利用できなかった
様々な環境へ
アクセスできるようになります。

さらに

  1. 電車に乗る。
  2. 好きな場所へ行く。
  3. 好きな活動をする。

という生活の流れができれば

目的地で遊べること自体が
電車やバスへ乗る行動の
自然な好子になることもあります。

参考文献

日本行動分析学会編
『行動分析学事典』丸善出版

P.A.アルバート/A.C.トルートマン著
佐久間徹・谷晋二・大野裕史訳
『はじめての応用行動分析』二瓶社

John O. Cooper
Timothy E. Heron
William L. Heward 著
中野良顯訳
『応用行動分析学 Applied Behavior Analysis 第2版』明石書店

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