自閉症児に教えるべき行動かを考える方法〜ABAの社会的妥当性〜

自閉症児への家庭療育では
- 癇癪が減った。
- 指示に従えるようになった。
- 一人で課題ができるようになった。
- 要求を言葉で伝えられるようになった。
等、行動が変化したかを
確認することが重要です。
しかし「行動が変わった」だけで
良い支援だったとは限りません。
例えば
- 癇癪は減ったものの親が毎日2時間特別な対応をしなければならない。
- 一人で課題はできるもののその課題は実生活ではほとんど使わない。
- 指示には従うようになったものの本人や家族にとって負担が非常に大きい。
という場合があります。
ABAでは
- その行動を目標にすることに意味があるか。
- その支援方法を本人や家族が受け入れられるか。
- 行動が変わったことで実際の生活が良くなったか。
を考えることを
社会的妥当性(social validity)
と呼びます。
『行動分析学事典』ではWolfの定義で
- 介入目的の社会的重要性。
- 介入手続きの社会的適切性。
- 介入効果の社会的重要性。
の3つから社会的妥当性を考えることが
説明されています。
Cooperらも
- 標的行動の社会的重要性。
- 手続きの適切性。
- 結果の社会的重要性。
の3つを評価すると説明しています。
家庭療育でかなり簡単に言えば
社会的妥当性は
「その行動を教えるコスパが見合っているか」
を考えることとも言えます。
例えば
- 100時間かけて教えるほど重要な行動なのか。
- 毎日30分親が付き添うほど生活上の利益があるのか。
- 高額な教材や大量の不自然な好子を使うほど改善する価値があるのか。
- 子供や家族へ大きな負担をかけてまで教える必要があるのか。
を考えます。
もちろん時間がかかるから教えない
という意味ではありません。
- 道路へ飛び出さない。
- 一人でトイレへ行く。
- 必要な時に助けを求める。
- 強い他害を減らす。
等は習得までに長い時間が必要でも
生活への影響が非常に大きいため
教える価値が高いことがあります。
反対に生活ではほとんど使わない行動を
長時間かけて教えるのであればその時間を
より生活に必要な行動へ
使った方がよいことがあります。
目次
1.行動が変わっただけでは十分ではない
例えば自閉症児が課題中に
10回離席していたとします。
支援を行った結果
離席が10回から1回へ減りました。
数字だけを見れば大きな改善です。
しかしその支援をするために
- 親が子供の横へ常に座る。
- 30秒ごとに記録する。
- 大量のポイントを渡す。
- 毎日特別なご褒美=好子を準備する。
という対応が必要だったとします。
親が「これは毎日続けられない」
という状態なら行動への効果はあっても
家庭で長期間行う方法としては
問題があります。
『行動分析学事典』でも
介入を行う家族や教師が
その方法を好まなかったり
実施する負担が大きかったりすると
効果がある方法であっても
正確に長期間続けることが
難しくなると説明されています。
家庭療育では「効果があるか」だけでなく
「家庭で続けられるか」まで確認します。

2.教えるコストと得られる利益を比べる
家庭療育では教えられる時間には
限りがあります。
一つの行動を教えるためには
- 親の時間。
- 子供の時間。
- 練習回数。
- 教材の準備。
- 記録。
- 好子。
- 親子双方の負担。
等が必要になります。
そこでその行動を習得した時に
得られる生活上の利益がそれらの負担に
見合っているかを考えます。
例えば子供が一人で
靴を履けるようになるまで
数週間練習が必要だったとしても
その後毎日の外出で
親の援助が不要になるのであれば
長期間にわたって利益を得られます。
一方で特定のカードを
完璧に分類する課題を毎日30分
半年間練習しても家庭や学校で
ほとんど使わないのであれば
同じ時間を
- 着替え。
- 要求。
- トイレ。
- 外出準備。
- 安全行動。
等へ使った方が生活への効果が
大きい可能性があります。
つまり「教えられるか」ではなく
「その時間と労力を使ってまで教える価値があるか」
を考えます。
『行動分析学事典』でも
複雑で時間のかかる手続きや
実施者の負担が大きい方法は
受け入れられにくく
持続的な実施も難しくなることが
説明されています。
Cooperらも社会的妥当性では
標的行動そのものが改善したかだけでなくその行動を標的にした
本来の生活上の理由まで
改善したかを見る必要があると
説明しています。
そのため家庭療育では
教えるコストが比較的小さく
生活への利益が大きい行動を優先する
という考え方が良いです。

3.自然強化される行動を優先する
社会的妥当性を考える時には
その行動を習得した後
自然な好子によって維持される行動なのか
を考えることも重要です。
例えば
- 自分で靴を履く→外出できる。
- 自分で食事をする→好きな量や物を自分のペースで食べられる。
- 必要な物を言葉で要求する→必要な物を得られる。
等は自然な好子を得られる行動です。
『行動分析学事典』でも
日常に既に存在する
自然な強化随伴性を利用する方が
人為的な随伴性を新しく作るより
効果的で効率的であり
自然な随伴性で維持される行動を
標的にすると般化・維持する可能性が
高くなると説明されています。
家庭療育では
「どうやってご褒美を与え続けるか」
を考える前に
「この行動は覚えた後に自然に強化されるか」
を確認します。

4.毎日使うスキルは教える価値が高くなりやすい
同じ難易度の行動でも一年に一度しか
使わない行動と毎日使う行動では
習得によって得られる利益が
大きく違います。
例えば
- トイレへ行く。
- 着替える。
- 食事をする。
- 要求する。
- 手を洗う。
- 外出準備をする。
等は日常生活で何度も使います。
仮に習得までに100時間かかったとしても
その後毎日使用するのであれば
教えた時間に対して得られる利益は
大きくなります。
社会的妥当性を考える時には
できるようになること自体ではなく
習得後に何回スキルを使う機会があるか
まで考えます。

5.今だけ必要なスキルは優先順位が低くなることがある
今必要だからといって必ずしも
家庭療育で長時間かけて
教える優先順位が高いとは限りません。
例えば
- 縄跳び。
- 制作活動
- 特定の学年だけで行う学習課題。
- 学校行事だけで必要になる特定の動作。
等は現在は必要でもその後の生活では
ほとんど使わないことがあります。
重要なのは「学校で今やっているから」
だけで教えることに長時間かかるスキルを
教えないことです。
6.将来も使うスキルから優先する
家庭療育で
何を教えるか迷った場合には
その行動を5歳、10歳、15歳、20歳、30歳
になっても使う可能性があるか考えてみます。
例えば
- 要求する。
- 拒否する。
- 助けを求める。
- トイレへ行く。
- 着替える。
- 食事をする。
- 危険を避ける。
- 待つ。
- お金を使う。
- 自分の予定を確認する。
等は年齢が上がっても
必要になる可能性があります。
このような行動は現在の生活を
楽にするだけでなく将来必要になる
親や支援者からの援助も
減らせる可能性があります。
Cooperらは重要な標的行動を考える際に
- 新しい強化や環境へアクセスできるようになる。
- 他の行動の発達につながる。
- 不適切な行動と競合する。
- 本人や周囲へ大きな影響を与える。
等の特徴を持つ行動カスプという考え方も
紹介しています。
一つ教えることでその後できることが
大きく増える行動は優先順位を
高くしやすくなります。

7.最初にその目標が本当に必要かを考える
社会的妥当性の一つ目は
目標の社会的重要性です。
つまりその行動を
わざわざ教える必要があるのか
を考えます。
例えば
- 自分でトイレへ行く。
- 危険な場所で止まる。
- 必要な物を要求する。
- 着替える。
- 食事をする。
- 他人の物を勝手に取らずに要求する。
等はできるようになることで
生活が大きく変わる可能性があります。
一方
- 数字として測りやすいから。
- 教材があるから。
- 学校で今やっているから。
- 周囲の子供ができているから。
という理由だけで標的行動を
決める必要はありません。
Cooperらも何でも行動変容の
対象にすればよいのではなく
本人や周囲にとって社会的に重要な行動を
標的にする必要があると説明しています。
8.定型発達児と同じにすること自体を目標にしない
例えば
「同じ年齢の子供は全員できているから」
という理由だけで自閉症児にも
同じ行動を求めることがあります。
しかし定型発達児と
同じように行動すること自体が必ずしも
家庭療育の目標ではありません。
『行動分析学事典』でも
一般的な集団との比較を
社会的妥当性の参考にする方法が
ある一方で標準的な集団が
必ずしも社会的に妥当とは
限らないことが指摘されています。
例えば
- 同年代と同じ時間椅子へ座っている。
- 皆と全く同じ遊びをする。
- 周囲と同じ順番で物事を行う。
等についてはそれが本人の生活に
どのような利益をもたらすのかを
考えます。
9.問題行動を減らす時も本来の目的を確認する
例えば自閉症児が買い物中に
大声を出す行動を1回から0回へ
減らせたとします。
これだけを見れば支援は成功しています。
しかし本来の目的が
「家族で買い物へ行ける」だったなら
確認することは大声が0回になったか
だけではありません。
- 家族で買い物へ行けるようになったか。
- 店に滞在できる時間が伸びたか。
- 親が以前より買い物をしやすくなったか。
- 子供が必要な物を適切に要求できるようになったか。
まで確認します。
Cooperらは標的行動が改善しても
その行動を標的にした本来の理由が
改善していなければ
社会的妥当性という点では
十分ではないと説明しています。
つまり生活を変えるために
行動を変えます。
10.支援方法そのものが受け入れられるかを確認する
社会的妥当性の二つ目は介入方法の適切性
です。
例えば同じ行動を改善できる方法が
AとBの二つあったとします。
Aは
- 毎日1時間必要。
- 複雑な記録が必要。
- 大量の不自然な好子が必要。
- 親が常に子供の横へいる必要がある。
方法です。
Bは
- 生活の流れに組み込める。
- 短時間でできる。
- 簡単な記録だけでよい。
- 自然な好子を利用できる。
方法です。
同じ程度の効果なら家庭ではBの方が
続けやすい可能性があります。
『行動分析学事典』でも
- 複雑な方法。
- 長時間を要する方法。
- 罰的な方法。
- 理解しにくい専門用語で説明された方法。
等は受け入れられにくいことが
説明されています。
家庭療育では可能な限り
- 簡単。
- 短時間。
- 生活の中で実施できる。
方法を優先します。
11.結果は標的行動だけで判断しない
社会的妥当性の三つ目は
結果の社会的重要性です。
例えば
「要求時に『ください』と言える」
ことを教えたとします。
訓練場面では10回中10回
言えるようになりました。
しかし家庭では
- お菓子が欲しい時。
- 動画が欲しい時。
- 遊んで欲しい時。
には以前と同じように大声を出している
のであれば課題としては
できるようになっていても生活上の問題は
十分改善していません。
Cooperらも
- ソーシャルスキルを教えたなら実際の社会生活が改善したか。
- 安全行動を教えたなら実際に安全性が
高まったか。 - 言語行動を教えたなら実際の他者との交流が変わったか。
まで確認する必要があると
説明しています。
できる課題が増えたかだけではなく
生活がどう変わったかを確認します。
12.家庭療育では本人と家族の生活が楽になったかを見る
例えば問題行動が1日20回から
5回へ減ったとします。
これは重要な変化です。
しかし同時に
- 親からの声かけが50回から10回になった。
- 外出できる場所が増えた。
- 兄弟と同じ部屋で過ごせる時間が増えた。
- 食事にかかる時間が60分から30分になった。
- 朝の準備が親の手伝いなしでできるようになった。
等の家庭生活全体が
どう変わったかも確認します。
家庭療育では本人の適切行動を
増やすと同時に家族が行う支援を
減らしていくことも
重要な目標になります。
13.維持されること自体も重要な評価になる
一度できた行動がその後
全く使われなくなるなら
長期間かけて教える価値は
低くなる可能性があります。
『行動分析学事典』では
自然な社会環境から
継続的に強化されることによって
行動が維持されているならその行動には
社会的価値があると考える見方も
紹介されています。
そのため「療育中にできた」だけではなく
一カ月後、半年後、一年後にも実生活で
使っているかを確認します。
実践例
自閉症児が家庭で30分間鉄棒の練習を
毎日行っていたとします。
学校では鉄棒の授業があり本人だけ
ほとんどできません。
練習すれば数カ月後には
逆上がりができる可能性があります。
一方、同じ子供は朝になると
- 「着替えて」
- 「ランドセル持って」
- 「靴下履いて」
- 「水筒持って」
等親から10回以上声をかけられなければ
登校準備ができません。
家庭療育としてどちらへ時間を使うか
考えます。
鉄棒は現在の学校の授業で
必要なスキルです。
しかし今後何十年間も
毎日必要になる可能性は
高くありません。
一方で自分で必要な物を確認し時間までに
外出準備を終える行動は
- 学校。
- 外出。
- 仕事。
- 旅行。
- 日常生活。
等、将来さまざまな場面で
使う可能性があります。
さらに一人で準備できれば
親からの声かけが減り
本人も自分で目的の場所へ
出発できます。
つまり自然な好子があり毎日使い
長期間使う可能性が高い
行動です。
そこで家庭療育では鉄棒より先に
「7時45分までに一人で登校準備を終える」
ことへ時間を使います。
玄関に
- ランドセル。
- 水筒。
- 帽子。
という短い確認表を置きます。
自分で確認して準備が終われば
予定通り学校へ出発します。
評価するのは確認表を上手に使えたか
だけではありません。
- 一人で準備できる日が増えたか。
- 親の声かけが減ったか。
- 予定時間に家を出られるようになったか。
- 他の外出準備にも使えるようになったか。
- 数年後も必要になるスキルか。
まで考えます。
参考文献
日本行動分析学会編
『行動分析学事典』丸善出版
P.A.アルバート/A.C.トルートマン著
佐久間徹・谷晋二・大野裕史訳
『はじめての応用行動分析』二瓶社
John O. Cooper
Timothy E. Heron
William L. Heward 著
中野良顯訳
『応用行動分析学 Applied Behavior Analysis 第2版』明石書店
メルマガをしています。





