自閉症児のモチベーションが高い場面を効果的に使う指導〜ABAの機会利用型指導法〜

自閉症児へ家庭療育を行う時に
- 「ちょうだい」と要求する。
- 「開けて」と援助を求める。
- 欲しい物の名前を言う。
- 自分から人へ話しかける。
- 必要な時に助けを求める。
等を教えることがあります。
このような行動は机上課題として何度も
練習することもできます。
一方で子供が実際に
- 飲み物を欲しがっている。
- 玩具で遊びたがっている。
- 容器を開けて欲しがっている。
- 動画を見たがっている。
瞬間を利用して
要求等を教える方法もあります。
ABAでは日常生活の中で生じる
学習の機会を利用して行動を教える方法を
機会利用型指導法(incidental teaching:IT)
と呼びます。
『行動分析学事典』では
機会利用型指導法について
子供の日常環境の中で生じる
言語を教える機会を利用し
機能的で自発的な言語使用を
発達・維持させる方法と
説明されています。
この方法を理解する上で重要なのが
動機づけ操作と前の記事で説明した
基軸行動の自己開始です。
子供が本当に何かを欲しがっている時は
その物を得るための行動が
起こりやすくなります。
さらに大人が「何て言うの?」
と毎回言うのではなく
子供から行動を始める機会を作ります。
この考え方は機軸反応訓練(PRT)
とも共通する部分があります。
目次
1.機会利用型指導法では動機づけが高い瞬間を使う
例えば普特に喉が渇いていない子供へ
親が「お茶って言って」と教えても
子供にとって水を要求する必要性は
あまりありません。
一方、外から帰ってきて
お茶を飲みたがっている時なら
お茶を得ることの価値が高くなっています。
この時に「お茶」と要求することを
教えれば
- 「お茶」と言う。
- お茶を飲める。
という関係を経験できます。
ABAでいう動機づけ操作(MO)は単に
「本人にやる気がある」
という意味ではありません。
ある結果の好子としての価値を変え
その結果を過去に得てきた行動の
生起にも影響する環境変化を
考えます。
家庭療育では
「今、この子にとって何の価値が高くなっているか」
を見ます。
2.要求を教えるなら本当に欲しい時に教える
例えば子供が普段から
電車の玩具でよく遊ぶとします。
机の前で
- 親「これ何?」
- 子供「電車」
と言えることと
実際に電車が欲しい時に
- 子供「電車」
と自分から要求することは別の行動です。
機会利用型指導法では電車で遊びたい時を
利用します。
- 子供が電車を探している。
- 親はすぐに渡さず少し待つ。
- 子供が「電車」と要求する。
- 電車を渡す。
とします。
ここでは子供自身が
電車を欲しがっているため要求するための
動機づけが既に存在しています。

3.大人が学習させたい瞬間より子供が学習しやすい瞬間を使う
家庭療育では親が
「今から言葉の練習をしよう」
と思った時間と子供がその言葉を
実際に必要とする時間が
一致するとは限りません。
例えば「開けて」を教えるなら
自由に開けられる状態で10回練習するより
本人が本当に開けたいけど開けられない
お菓子の袋や容器がある時の方が
「開けて」という行動の結果が
分かりやすくなります。
- 開けられない。
- 「開けて」と要求する。
- 開けてもらえる。
となります。
家庭療育では
親が教えたいタイミングではなく
子供の行動のモチベーション
が上がっているタイミングを利用する
ことを考えます。
4.機会利用型指導法では自己開始を増やしやすい
基軸行動の候補の一つに
自己開始(self-initiation)があります。
Cooperらは自閉症児に
自分から他者へ近づく等の
自己開始を教えることで
直接訓練していない会話等の他の行動にも
変化が広がる可能性を説明しています。
機会利用型指導法でもこの自己開始が
重要になります。
例えば
子供がお菓子を欲しそうにするたびに
親が「何が欲しい?」と聞いてしまうと
- お菓子を子供が見ている。
- 親が「何が欲しい?」と聞く。
- 「お菓子」と言う。
という流れになります。
一方親が少し待って
- お菓子が親の近くに置いてある。
- 自分から親へ近づく。
- 自分から発声する。
- 要求する。
という流れを作れば
本人から相手とのやり取りを
開始する機会を増やせます。
5.「何て言うの?」を減らすことに意味がある
例えば子供がジュースを欲しそうに
冷蔵庫の前へ来た瞬間に
親が毎回「何て言うの?」と聞きます。
子供が「ジュース」と言えば
一見すると子供が自分から
要求できています。
しかし「何て言うの?」
がないと要求しないのであれば
まだ大人からの
きっかけに依存しています。
機会利用型指導法では
大人から制御力の強い
先行刺激=プロンプトをすぐに出さず
(待つプロンプトを使う)
子供からの自発的な反応を待つことを
重視します。
『行動分析学事典』の指導例でも
子供が欲しい物を
大人が把握していても
5〜10秒程度待ち
自発的な要求の出現を待つ方法が
説明されています。
つまり
正しい言葉を言わせることだけでなく
子供が自分から行動を始めたのか
を見ることが重要です。
6.最初から完全な言葉を待つ必要はない
ただし自己開始を重視するからといって
完全な言葉が出るまで
ずっと待つ必要はありません。
例えばジュースを欲しい時に
子供が自分から「じゅ」と発声したなら
要求を始めようとした重要な反応です。
必要なら
親「ジュースだね」と正しい言葉を伝えて
ジュースを渡します。
何も反応が出なければその場面では
要求が強くないので
無理に行動を促す必要はありません。
このように子供の自分からの行動を待ち
モチベーションが低い場面では
無理に行わないことも
機械利用型のメリットです。
7.自然な好子をそのまま使える
機会利用型指導法では行動と関係のない
不自然な好子を新しく用意する必要が
少なくなります。
例えば
- 「電車」と言う。
- お菓子をもらう。
より
- 「電車」と言う。
- 電車で遊べる。
方が自然です。
同じように
- 「開けて」と言う。
- 開けてもらう。
- 「手伝って」と言う。
- 手伝ってもらう。
- 「公園」と要求する。
- 公園へ行く。
という結果を使えます。
機会利用型指導法では
行動に関連した多様な結果を使い
日常環境の中で
機能する行動を増やすことが
重視されています。
8.機会利用型指導法とPRTには共通する考え方がある
前の記事で説明した
機軸反応訓練(Pivotal Response Treatment:PRT)
でも
動機づけと自己開始は重要な領域です。
『行動分析学事典』では
PRTの機軸的な領域として
- 動機づけ。
- 多様な手がかりへの反応性。
- セルフマネジメント。
- 自己開始。
- 共感。
が紹介されています。
またPRTでは自然な生活場面で
- 子供の選択を利用する。
- 自然な好子を使う。
- 本人の試みた反応を強化する。
等、機会利用型指導法と
共通する考え方が多くあります。
そのため機会利用型指導法で使う
「動機づけが高い自然な場面を利用し本人からの行動を引き出す」
という考え方はPRTとも
共通する部分があります。
ただし機会利用型指導法とPRTは
同じ方法ではありません。
PRTは動機づけや自己開始等の
機軸的な領域へ働きかける
複数の手続きを含んだ
包括的な介入モデルです。
9.自発行動が少ない子では待つだけでは難しい
機会利用型指導法は本人からの行動を
利用する方法です。
そのため
- 人へほとんど近づかない。
- 欲しい物があっても働きかけない。
- 発声がほとんどない。
- 大人との相互作用が非常に少ない。
子供ではそもそも学習機会が
生じにくい場合があります。
『行動分析学事典』でも
自発的な言語行動が少ない子供では
強化を経験する機会そのものが
少なくなる可能性が指摘されています。
この場合「自発するまで待つ」だけでは
進まないことがあります。
必要なら
- 離散試行型指導法(DTT)。
- シェイピング。
- プロンプト。
等を使ってまず必要な行動自体を
教えることも考えます。
10.DTTで行動を作り機会利用型指導法で生活へ移すこともできる
『行動分析学事典』では一般的に
- 新しい行動レパートリーを形成する時には離散試行型指導法(DTT)
- 獲得した行動を日常環境で機能的に使用する時には機会利用型指導法
という使い分けが説明されています。
例えば「開けて」という言葉を
全く言えないのであればまず集中的に
言えるようにします。
その後本当に容器を開けて欲しい時に
自分から「開けて」
と使えるようにします。
つまりできない行動を作ることと
できる行動を本人から
生活の中で使うことは
分けて考えることができます。
11.家庭では「動機づけ→自己開始→自然な結果」で考える
家庭で機会利用型指導法を使う時は
次の3点で考えると
分かりやすくなります。
- 動機づけ操作
今本人が本当に欲しい物や活動があるか。 - 自己開始
大人が先に言わせず本人から働きかける機会があるか。 - 自然な好子
行動した直後に本人が求めていた結果を得られるか。
例えば
- 動画を見たくなる。
- 自分から親へ「動画」と要求する。
- 動画を見る。
という流れです。
ここで親が毎回
- 「動画見たいの?」
- 「何て言うの?」
と聞く必要がなくなっていけば
自己開始が増えていることになります。
実践例
自閉症児が電車の玩具を使って
よく遊んでいます。
電車の名前も言うことができます。
親が「これ何?」と聞けば
「電車」とも答えられます。
しかし電車を連結させる時には
自分から言葉で親へ要求しません。
電車を無言で親に手渡したり
無言で親を見たりします。
親が「何て言うの?」と聞くと
初めて「繋げて」と言います。
そこで家庭療育では「繋げて」
という言葉をさらに練習することより
自分から要求を開始することを
標的にします。
まず子供がバラバラの電車で
遊んでいる場面を利用します。
これはバラバラの電車のため
繋げるモチベーションが高い場面を
動機づけで意図的に作っています。
子供がいつもの方法で親に要求してきても
無言で待ちます。
子供が親を見て何らかの言葉を発したら
「繋げてだね」と正答を伝え
電車を繋ぎます。
- 電車が繋がっていない。
- 自分から親へ声で働きかける。
- 親が電車を繋げる。
- 繋がった電車で遊ぶ。
という流れを作ります。
参考文献
日本行動分析学会編
『行動分析学事典』丸善出版
P.A.アルバート/A.C.トルートマン著
佐久間徹・谷晋二・大野裕史訳
『はじめての応用行動分析』二瓶社
John O. Cooper
Timothy E. Heron
William L. Heward 著
中野良顯訳
『応用行動分析学 Applied Behavior Analysis 第2版』明石書店
メルマガをしています。





