自閉症児が音声指示に従って行動するために〜ABAの聞き手行動〜

自閉症児へ家庭療育を行う時に
- 「おいで」と言われて親のところへ行く。
- 「止まって」と言われて止まる。
- 「コップを取って」と言われてコップを取る。
- 「水筒を持ってきて」と言われて水筒を持ってくる。
- 「ゴミ箱に入れて」と言われて物を捨てる。
等を教えることがあります。
これまでの記事では
等について説明しました。
これらは主に
子供が話し手になる時の行動です。
しかしコミュニケーションでは
自分から話すだけでなく
相手の言葉を聞いて
行動することも必要です。
ABAでは話し手の言葉をきっかけに
聞き手が行う行動を
聞き手行動(listener behavior)
とします。
例えば
- 親「タオルを持ってきて」
- 子供がタオルを持ってくる。
という行動です。
子供は言葉で
答えているわけではありません。
相手の言葉を聞いた後に
- 物を選ぶ。
- 移動する。
- 物を持ってくる。
- 行動を止める。
- 指定された場所へ置く。
等の行動をしています。
Cooperらは
話し手の行動と聞き手の行動を
区別して考え
それぞれについて
- 先行刺激(きっかけ)。
- 行動。
- 結果。
の関係を確認する必要があると
説明しています。
目次
1.聞き手行動は言葉を聞いて別の行動をする
例えば親が「座って」と言ったとします。
その後子供が椅子へ座れば
聞き手行動です。
一方
- 親「座って」
- 子供「座って」
と同じ言葉を繰り返したのであれば
これはエコーイックです。
同じように
音声模倣
- 親「真似して、靴」
- 子供「靴」
これはエコーイックです。
報告
- 子供が靴を見る。
- 子供「靴」
これはタクトです。
質問への応答
- 親「外へ行く時に履く物は?」
- 子供「靴」
これはイントラバーバルです。
全てに「靴」が関係していますが
何がきっかけになり
どのような行動が起きたかが
異なります。

2.「言葉を理解している」を観察できる行動に分ける
一般的には
- 言語理解。
- 受容言語。
- 指示理解。
等と呼ばれることがあります。
しかし「この子は言葉を理解している」
という説明だけでは
何ができるのかが分かりません。
家庭療育では例えば
- 「スプーン」と聞いて3つの中からスプーンを選ぶ。
- 「棚へ置いて」と聞いて玩具を棚へ置く。
- 「おいで」と聞いて親のところへ行く。
- 「止まって」と聞いて歩くことを止める。
等の観察できる行動として確認します。
家庭では「分かっているか」だけではなく
「どの言葉を聞いた後にどの行動が起きたか」
を確認します。
3.言えることと聞いて行動できることは別
例えば子供が靴を見れば「靴」
と言えるとします。
この場合靴を名称で言う
タクトはできています。
しかし親が「靴を持ってきて」
と言った時に
靴を持ってこられるとは限りません。
反対に「靴を持ってきて」と言われれば
正しく靴を持ってこられても自分から
「靴」とは言わない子供もいます。
つまり
- 言葉を聞いて物を選ぶこと。
- 物を見て言葉を言うこと。
は別の行動です。
Cooperらの課題リストでも
- エコーイック訓練。
- マンド訓練。
- タクト訓練。
- イントラバーバル訓練。
- 聞き手訓練。
はそれぞれ別の項目として
扱われています。
一つの行動を教えることで
別の行動も増える場合はありますが
自動的に全てできるようになるとは
限りません。
4.音声指示ではなく場面を見て行動していることがある
子供が指示された通りに
行動したように見えても
実際には音声指示ではなく
周囲の状況を手がかりに
行動している場合があります。
聞き手行動として正答に見える行動の中に
このような場面理解が
含まれていることがあります。
例えば机の上に
- ご飯。
- おかず。
- 箸。
- コップ。
等が用意されているとします。
さらに
- 食事の時間になっている。
- 家族が食卓へ集まっている。
- 椅子が用意されている。
- 親が食卓の近くにいる。
という状態で
親「座って」
と言いました。
子供が食卓の椅子へ
座ったとします。
しかしこれだけでは「座って」という
音声指示を聞いて
行動したとは判断できません。
子供は
- 食事が並んでいる。
- 家族が食卓へ集まっている。
- いつもの食事時間になった。
等の周囲の状況を見て
食卓へ座った可能性があります。
見た目では
- 親「座って」
- 子供が座る。
という聞き手行動に見えます。
しかし実際には
- 食事が用意されている。
- 家族が食卓へ集まっている。
- 子供が食卓へ座る。
という関係かもしれません。
そのため家庭では一つの場面だけで
「座ってという言葉を理解している」
とは判断しません。
例えば
- 食事が用意されていない別の場面でも「座って」で座れるか。
- 食事が用意されていても何も言わなければどう行動するか。
- 同じ場所で「座って」と「立って」を聞き分けられるか。
- 母親以外の人から「座って」と言われても座れるか。
等を確認します。
実際の生活では
音声指示と周囲の状況の両方によって
行動することが多くあります。
しかし音声指示の理解を確認する時には
- 場面を見て行動したのか。
- 言葉を聞き分けて行動したのか。
を分けて考えることが重要です。
5.聞き手行動では親の言葉自体をなくさない
これまで説明したマンドやタクトでは
親が先に
- 「何て言うの?」
- 「電車って言って」
- 「これは何?」
等と言い続けると親からの言葉がない時に
自分から行動しなくなることがあります。
そのため親からのプロンプトを
減らすことが重要でした。
一方
聞き手行動では親の言葉そのものが
行動を起こすために必要な先行刺激です。
例えば
- 親「コップを取って」
- 子供がコップを取る。
という関係を教えています。
この場合「コップを取って」という言葉は
最終的になくすものではありません。
減らす必要があるのは
- 親がコップを指さす。
- 親がコップの方を見る。
- 親が子供の手をコップへ動かす。
- 正しい物だけを子供の前へ置く。
- 正しい行動をしている時に親が頷く。
等の追加されたプロンプトです。
最終的には親の言葉だけで
必要な行動が起きる状態を
目指します。
6.アイコンタクトをしてから指示を出す
家庭で子供へ指示を出す時には
最初に子供の注目を親へ向けます。
例えば
- 親が子供の名前を呼ぶ。
- 子供が親を見る。
- 親と子供のアイコンタクトが成立する。
- 親が短く指示を出す。
という順番です。
子供が
- テレビを見ている。
- 玩具へ注意を向けている。
- 親へ背中を向けている。
- 別の場所へ移動している。
状態で親が後ろから「水筒を持ってきて」
と言っても子供が指示を
聞いていない可能性があります。
その状態で行動しなかったとしても
- 指示を聞いていなかった。
- 指示を理解できなかった。
- 指示に従わなかった。
- 行動を一人でできなかった。
のどれなのかを判断できません。
そのため私の方法では
- 名前を呼ぶ。
- 子供が親を見る。
- アイコンタクトが成立する。
- 指示を一度出す。
という順番にします。
長時間親の目を見続けさせることが
目的ではありません。
指示を出す前に
子供の注目が親へ向いていることを
確認します。
7.エコーイックができる子には指示を復唱させる
エコーイックができる子供では
指示を出した後に
その内容を復唱させます。
例えば
- 親が子供の名前を呼ぶ。
- 子供が親を見る。
- 親「水筒を持ってきて」
- 親「お母さん、何て言った?」
- 子供「水筒を持ってきて」
- 親「そう、やってきて」
とします。
子供が「水筒を持ってきて」
と正しく復唱できれば親の指示を
聞き取れていなかった可能性を
減らすことができます。
反対に
- 何も答えない。
- 指示と違う言葉を言う。
- 指示の一部分しか復唱しない。
場合には子供が指示を
十分に聞き取れていなかった
可能性があります。
その場合は
もう一度子供の注目を得てから
再度指示を出します。
8.正しく復唱しても行動しない時は二つに分ける
子供が
親「タオルを持ってきて」という指示を「タオルを持ってきて」
と正しく復唱できたとします。
しかしその後
タオルを持ってきません。
この場合「指示を聞いていなかった」
とは考えにくくなります。
次に確認するのは
- 指示された行動を一人でできない。
- 行動はできるが指示された時に行わない。
のどちらかです。
行動を一人でできない
例えば子供が
- タオルを探せない。
- タオルと別の物を区別できない。
- タオルを取って運べない。
- 親のところまで持ってこられない。
のであれば
行動そのものを
まだ一人でできない可能性があります。
この場合は
- 物を選ぶ。
- 手に取る。
- 運ぶ。
- 親へ渡す。
等の行動を分けて教える必要があります。
行動はできるが指示された時に行わない
別の場面では
一人でタオルを持ってこられるのに
親から頼まれた時だけ
行動しない場合があります。
この場合はコンプライアンス
の課題として考えます。
例えば
- 今行っている遊びを続けたい。
- 指示に従うと好きな活動が終わる。
- 行動しても本人にとって良い結果がない。
- 行動しなくても親が代わりに行う。
等が関係している可能性があります。
つまり
- アイコンタクトを確認する。
- 指示を出す。
- 指示を復唱させる。
- 実際に行動できるかを見る。
という順番にすることで
- 指示を聞いていない。
- 行動を一人でできない。
- 行動はできるが実行しない。
を分けて考えやすくなります。
9.毎日の生活や安全に必要な言葉を優先する
聞き手行動でも
何でも同じ優先順位で
教えるわけではありません。
例えば
- 動物の名前を聞いて正しい写真を選ぶ。
- 色の名前を聞いて正しいカードを選ぶ。
- 形の名前を聞いて正しい積み木を選ぶ。
等も聞き手行動として成立します。
しかし家庭療育ではまず
- 「止まって」と言われて止まる。
- 「待って」と言われて待つ。
- 「おいで」と言われて親のところへ行く。
- 「水筒を持ってきて」と言われて持ってくる。
- 「手を洗って」と言われて洗う。
- 「ゴミ箱に入れて」と言われて捨てる。
等、安全や毎日の生活で
使う行動を優先します。
教材で正答できることより
- 家庭。
- 保育園。
- 学校。
- 外出先。
で実際に使用する言葉を先に教えます。
10.最初は短い一つの指示から教える
例えば親が「お風呂に入って」
と言ったとします。
この指示には
- 部屋へ行く。
- タオルを探す。
- タオルを持ってくる。
- 服を脱ぐ。
- 洗濯かごへ入れる。
- お風呂に入る。
という複数の行動が
含まれています。
途中で行動できなくても
どの部分が難しかったのかを
判断しにくくなります。
最初は
- 「タオルを持ってきて」
- 「服を脱いで」
- 「かごに入れて」
等、一つずつ教えます。
一つの指示で
安定して行動できるようになった後に
複数の指示へ増やします
(チェイニング)。
長い指示へ従うためには
言葉を聞き分けることだけでなく
- 指示を覚えておく。
- 行動を順番に行う。
- 途中で別の活動へ移らない。
等も必要になります。
11.正しい物を選べたかは複数の選択肢で確認する
例えば子供の前に
コップだけを置きます。
親「コップを取って」
子供がコップを取りました。
しかし目の前にコップしかなければ
「コップ」という言葉を
聞き分けたのではなく唯一ある物を
取った可能性があります。
そこで例えば
- コップ。
- スプーン。
- タオル。
を並べます。
親「コップを取って」と言い
正しくコップを選べるか
確認します。
またコップを毎回右側へ置いていると
「コップ」という言葉ではなく
右側の物を取ることを
覚える可能性があります。
そのため
- 物を置く位置を変える。
- 選択肢の組み合わせを変える。
- 同じ種類の別の物も使う。
ことを行います。
正答したかだけではなく
何を手がかりに正答したのかを
確認することが重要です。
12.プロンプトで教えた後にもう一度一人で行わせる
例えば
- 親が子供の名前を呼ぶ。
- 子供が親を見る。
- 親「タオルを取って」
- 子供がコップを取った。
とします。
この場合親がタオルを指さします。
子供が指さしを見て
タオルを取ることができました。
しかしここで
課題を終了しません。
指さしによって
正しい行動を教えただけだからです。
もう一度
最初の状態へ戻します。
- タオルとコップを元の位置へ戻す。
- 親が子供の名前を呼ぶ。
- 子供が親を見る。
- 親「タオルを取って」
- 子供が今度は一人でタオルを取る。
- 親が強化する。
という流れにします。
つまり
- 間違える。
- 指さし等で正しい行動を教える。
- 課題を元に戻す。
- 同じ指示をもう一度出す。
- プロンプトなしで適切な行動を取らせる。
という順番です。
指さしによって
正答できたことだけで終わると
次の場面でも
親の指さしを待つ可能性があります。
正しい行動を教えた直後に
一人で成功する機会を
作ることが重要です。
もう一度行っても
正答できない場合には
何度も同じ課題を
繰り返すのではなく
- 選択肢を減らす。
- 言葉を短くする。
- 物の区別を先に教える。
- 行動を小さく分ける。
等を考えます。
13.行動した後は「できた」と報告させる
指示された行動が終わった後には
子供から
- 「できた」
- 「終わった」
- 「持ってきた」
等の報告をさせます。
例えば
- 親「洗濯物をかごに入れて」
- 子供が指示を復唱する。
- 子供が洗濯物をかごへ入れる。
- 子供が親のところへ戻る。
- 子供「できた」
- 親が実際に確認する。
- 親「入っているね」
とします。
行動後に報告させることで
- 子供がどの時点で課題を終えたと考えたか。
- 指示された行動を最後まで行ったか。
- 親へ確認を求められるか。
が分かりやすくなります。
また子供が別の行動をした後に「できた」
と報告した場合には
親が実際の結果を確認して
適切な行動をもう一度教えられます。
14.人・場所・言い方が変わっても行動できるようにする
例えば母親から「水筒を持ってきて」
と言われれば
行動できるようになったとします。
しかし
- 父親。
- 先生。
- 祖父母。
から言われても
同じようにできるとは限りません。
また家庭ではできても
- 保育園。
- 学校。
- 祖父母宅。
- 外出先。
ではできない場合があります。
家以外でできない場合は
親に対して
- すぐに行動を行う。
- 次の行動まで行えるようにする。
- できたらすぐ報告する。
等、難易度をあげて行っていきます。
これにより家族・家庭以外でも行動できる
般化が進んでいきます。
実践例
自閉症児が家族と買い物へ行く
準備をします。
買い物に必要なエコバッグは
玄関近くの棚にあります。
子供はエコバッグを見れば「エコバッグ」
と言うことができます。
しかし親から「エコバッグを持ってきて」
と言われても持ってきません。
そこで家庭療育では
「エコバッグを持ってきて」
という言葉を聞いて正しい物を選び
親のところへ持ってくる
聞き手行動を教えます。
最初は子供の目の前に
- エコバッグ。
- 傘。
- タオル。
を置きます。
親は
- 親が子供の名前を呼ぶ。
- 子供が親を見る。
- 親「エコバッグを持ってきて」
- 親「お母さん、何て言った?」
- 子供「エコバッグを持ってきて」
- 親「そう、やってきて」
- 子供がエコバッグを持ってくる。
- 子供「できた」
- 親がエコバッグを確認する。
- エコバッグを持って買い物へ行く。
となります。
参考文献
日本行動分析学会編
『行動分析学事典』丸善出版
P.A.アルバート/A.C.トルートマン著
佐久間徹・谷晋二・大野裕史訳
『はじめての応用行動分析』二瓶社
John O. Cooper
Timothy E. Heron
William L. Heward 著
中野良顯訳
『応用行動分析学 Applied Behavior Analysis 第2版』明石書店
メルマガをしています。





