自閉症児に言葉を真似させて教える〜ABAのエコーイック〜

自閉症児へ家庭療育を行う時に
- 「電車」と言う。
- 「開けて」と要求する。
- 「手伝って」と援助を求める。
- 「貸して」と言う。
- 「ありがとう」と言う。
等の言葉を
新しく教えることがあります。
しかし子供が
その言葉自体をまだ言えなければ
自分から言うことを待っているだけでは
行動は起こりません。
そこで親が「真似して、開けて」
等と見本を示して
同じように発音することを
教えることがあります。
ABAでは他者から聞いた音声と同じ
またはよく似た音声を発する行動を
エコーイック(echoic)と呼びます。
一般的には音声模倣と呼ばれる行動です。
『行動分析学事典』では
エコーイックについて
他者から提示された音声刺激と
形態的に一致した音声反応であり
提示された音声と自分が発する音声が
対応する行動として説明されています。
Cooperらも例えば大人が
「クッキー」と言った後に子供が
「クッキー」と言う行動を
エコーイックとして説明しています。
目次
1.言葉を真似できることと言葉を使えることは違う
例えば
- 親「真似して、電車」
- 子供「電車」
と言えたとします。
この場合「電車」という音声を
真似する行動はできています。
しかし別の日に電車の玩具が欲しい時
子供が何も言わず
親を待っているのであれば
「電車」を要求として
使えているとは限りません。
反対に電車を見て子供が自分から
「電車」と言って電車を得るのであれば
これは要求するマンドとして
機能しています。
Cooperらもエコーイックは
より複雑な言語行動を教えるために
重要な基礎になりますが最終的には
エコーイックで真似させることなく
対象物を名称で呼んだり
要求したりする状態へ
移すことを説明しています。
つまり音声模倣は
言葉を教えるための手段であり
親の言葉を真似すること自体を
最終目標にはしません。
2.家庭では「真似して」を入れて音声模倣させる
例えば親が「開けて」と言いました。
その直後に子供が「開けて」
と繰り返しました。
これは見た目だけなら
適切な音声模倣にも見えます。
しかし自閉症児では
- 親「どれが欲しいの?」
- 子供「どれが欲しいの?」
のように質問された言葉そのものを
繰り返すことがあります。
これは親が話す言葉全てを繰り返す
問題となる即時性エコラリアです。
そのため私の方法では単に
- 親「真似して、開けて」
- 子供「開けて」
とします。
「今は相手の言葉を真似する場面」
であることを分かりやすくします。
3.最初から完全な発音だけを求めない
例えば親が「真似して、あ」と言った時に
子供が「あ」と正確に
言えないことがあります。
この場合完全な発音が出るまで
何度も失敗させる必要はありません。
『はじめての応用行動分析』では
音声模倣をシェイピングする例として
最初は様々な発声を強化しその後
- 母音に近い音。
- より目標に近い音。
- 正確な音声模倣。
へ段階的に近づける方法が
説明されています。
例えば「あ」を目標にしていて
現在「あー」に近い発声が
できるのであればそこから始めます。
最初から100%正確な発音だけを
正解にする必要はありません。
4.言えない言葉を作る時には音声模倣を使う
以前の記事では時間遅延法を使い
親から先に言葉を出さないことを
説明しました。
しかし時間遅延法は既にできる行動を
自分から使うための方法です。
例えば「貸して」という言葉自体を
全く言えない子供へ何分待っても
「貸して」は出ません。
この場合はまず音声模倣等を使って
「貸して」という行動自体を
作る必要があります。
つまり
- 言えない→自己開始で何らかの自発的発声をした後に音声模倣等で教える。
- 言えるが自分から言わない→時間遅延法等を使う。
と分けて考えます。
5.要求を教える時はマンド・モデル法につなげる
音声模倣は単独で何十回も
練習するだけではなく
実際のコミュニケーションで
利用できます。
例えば子供がお菓子の袋を自分では
開けられないとします。
子供が袋を親へ持ってきて
親を見ながら「あー」と発声しました。
ここで
- 子供から働きかける。
- 親「真似して、開けて」
- 子供「開けて」
- 親「開けてだね」
- 親が袋を開ける。
とします。
これは前の記事で説明した
マンド・モデル法で音声模倣を
プロンプトとして
使用していると考えられます。
音声模倣できた後に実際に袋が開くことが
自然なご褒美を得る結果になります。
6.既に自分から言えるなら音声模倣させない
例えば子供がお菓子の袋を親へ持ってきて
自分から「開けて」と言いました。
ここでさらに
親「真似して、開けて」
子供「開けて」
と練習する必要はありません。
既に目的としていた
要求が自分から
起きているからです。
そのまま「開けてだね」と応じて
袋を開けます。
音声模倣はできない言葉を
教えるための方法です。
7.音声模倣ができたらプロンプトをなくす
例えば最初は
- 親「真似して、貸して」
- 子供「貸して」
- 玩具を貸してもらう。
という状態だったとします。
これをずっと
続けるわけではありません。
「貸して」を
言えるようになってきたら
次は親が少し待ちます。
子供から「貸して」と言えればそのまま
玩具を貸します。
つまり
子供の間違った自発音声→親の音声→「貸して」
という関係から
玩具が必要
→自分から「貸して」
という関係へ
変えていきます。
これは
プロンプト・フェイディング
や刺激性制御の転移
と関係します。
エコーイックを
作ることだけではなく
最終的に
親の音声がなくても
日常生活の状況に応じて
言葉を使えることが重要です。
8.言葉の最初の一音だけをプロンプトにし続けない
例えば「開けて」を教えるために
親「あ」
子供「開けて」
と教えているとします。
この方法では「あ」が「開けて」
を言うための
手がかりになる可能性があります。
しかし「あ」から始まる言葉には
- 「ありがとう」
- 「あそぼう」
- 「あか」
等もあります。
そのため私の方法では
- 「あ」
- 「開け」
等、言葉の一部分を親が出し続ける方法は
基本的には使いません。
最初は
親「真似して、開けて」
と完成した音声モデルを出します。
言えるようになったら親のモデル自体を
なくします。
- 完成した言葉を音声模倣する。
- 親が待つ。
- 自分から完成した言葉を使う。
という形へ移します。
9.音声模倣が難しい子供には別の方法も使う
親が「真似して、電車」と言っても
子供が全く
音声模倣できない場合があります。
この状態で「電車」を何十回も
聞かせるだけでは
行動を作れないことがあります。
前の記事で説明した
フリーオペラント法ではまず
- 「あ」
- 「う」
- 「ば」
等、子供から出る自発的な発声そのものを
増やしていきます。
『行動分析学事典』でも佐久間氏の
フリーオペラント法では子供の発声を
セラピストが即座に模倣し
自発発声を増やした後に
エコーイック形成へ発展させる方法が
説明されています。
つまり音声模倣ができないのに
音声模倣だけを
繰り返す必要はありません。
まず現在できる発声を増やすことから
始める方法もあります。
10.音声模倣はDTTと日常生活の両方で使える
音声模倣そのものを
新しく教える場合には
離散試行型指導法(DTT)を使って
集中的に練習することもできます。
例えば
- 親「真似して、あ」
- 子供「あ」
- 強化する。
という課題を複数回行います。
一方、実際に言葉を使う場面では
机上で言えるだけでは不十分です。
最近の機会利用型指導法の記事でも
- 新しい行動レパートリーを作る時にはDTT
- 獲得した行動を日常環境で機能的に使う時には機会利用型指導法
という使い分けを説明しました。
家庭でも
- 音を作る練習。
- 言葉として使う練習。
を分けて考えます。
11.何回真似できたかより生活で使えたかを見る
家庭療育で最終的に重要なのは実際に
- 電車が必要な時に「電車」と言ったか。
- 開けられない時に「開けて」と言ったか。
- 助けが必要な時に「手伝って」と言ったか。
ということです。
Cooperらもエコーイックを
- マンド。
- タクト。
- イントラバーバル。
等のより複雑な言語行動を教えるために
重要な基礎として位置づけています。
音声模倣の正答率だけではなく
その言葉が生活の中で
機能しているかを確認します。
実践例
自閉症児が公園のブランコへ座ります。
しかし一人ではブランコを大きく
動かせません。
これまで子供はブランコへ座ると
親を見るだけでした。
「押して」という言葉もまだ言えません。
そこで
子供がブランコへ座り親を見て「あー」
と発声した時に親が「真似して、押して」と言います。
子供が「押して」
あるいは現在の能力に応じて
それに近い発声をしたら
親は「押してだね」と繰り返してから
すぐブランコを押します。
最初は
- 子供がブランコへ座る。
- 親を見る、または発声する。
- 親「真似して、押して」
- 子供「押して」
- 親がブランコを押す。
という流れです。
「押して」を
安定して言えるようになったら次から親は
すぐに音声モデルを出しません。
少し待ちます。
子供から「押して」と言えたらそのまま
ブランコを押します。
最終的には
- 子供がブランコへ座る。
- 自分から「押して」と言う。
- 親がブランコを押す。
という状態を目指します。
つまりエコーイックを教える目的は
親の言葉を上手に真似できるようにする
ことだけではありません。
まだ言えない音声を作りその音声を
- 要求。
- 報告。
- 会話。
等の生活で使える言葉へ
移していくことが重要です。
参考文献
日本行動分析学会編
『行動分析学事典』丸善出版
P.A.アルバート/A.C.トルートマン著
佐久間徹・谷晋二・大野裕史訳
『はじめての応用行動分析』二瓶社
John O. Cooper
Timothy E. Heron
William L. Heward 著
中野良顯訳
『応用行動分析学 Applied Behavior Analysis 第2版』明石書店
メルマガをしています。





