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自閉症児の適切行動を待つことで引き出す〜ABAの時間遅延法〜

自閉症児へ家庭療育を行う時に

  • 「ちょうだい」と要求する。
  • 「開けて」と援助を求める。
  • 挨拶をする。
  • 必要な時に助けを求める。
  • 自分から相手へ話しかける。

等を教えることがあります。
この時に親が毎回

  • 「何て言うの?」
  • 「ちょうだいって言って」
  • 「ありがとうは?」
  • 「開けてって言って」

等とすぐに教えていると
親からの言葉がないと
行動しない状態になることがあります。

そこで親がすぐに
プロンプトを出すのではなく少し待って
子供から行動が出る機会を作ります。

ABAではプロンプトを出すまでに
時間を空ける方法を
時間遅延法(time delay procedure)
と呼びます。

『はじめての応用行動分析』では
時間遅延法について
プロンプトそのものを変えるのではなく
プロンプトをすぐには与えず
その前に本人が
反応できる時間を作る方法と
説明されています。

また『行動分析学事典』では
機会利用型指導法の中で時間遅延法を使い
大人から制御力の強い
先行刺激をあまり出さずに
子供からの反応を待つことが
説明されています。

文献上の時間遅延法には
一定時間待った後に
プロンプトを提示する
手続きも含まれます。

一方この記事では
家庭療育での使い方として
機会利用型指導法と組み合わせ

子供から反応が出なければ
その場でさらに
プロンプトを追加するのではなく

「今回はその行動が起こるモチベーション=動機づけが低かった」
と考えてその学習機会を終了する方法を
中心に解説します。

1.機会利用型指導法と一緒に使う

時間遅延法だけを取り出して
「何でもとりあえず数秒待てばよい」
と考えるわけではありません。

家庭療育では前の記事で説明した
機会利用型指導法
組み合わせて考えます。

例えば子供が

  • お菓子の袋を見ている。
  • 袋へ手を伸ばしている。
  • 自分で袋を開けようとしている。
  • 開けられず親のところへ持ってくる。

という行動をしていたとします。

この時は「開けて」という要求を教える
良い学習機会になります。

親はすぐ「何て言うの?」とは言わず
少し待ちます。

その間に子供から「開けて」と出れば
袋を開けます。

『行動分析学事典』でも
機会利用型指導法は日常生活の中で
動機づけの高い状態を利用し
子供主導で進めることが
特徴とされています。

2.待つ前に行動のモチベーションがあるかを見る

重要なのは何も起きていないところで
突然待ち始めることではありません。

例えば子供が電車の玩具を

  • 見ている。
  • 手を伸ばしている。
  • 探している。
  • 親のところへ持ってくる。

等の行動をしているとします。

このような時に

親がすぐ「電車って言って」
とは言わず待ちます。

この場面では電車を得ることで
遊びを続けられるため電車を得ることの
好子としての価値が
高くなっていると考えます。

これは動機づけ操作と関係します。

家庭療育では「この子は欲しいはず」
と考えるのではなく

  • 対象を見ている。
  • 手を伸ばす。
  • 取ろうとする。
  • 親へ持ってくる。
  • 親へ近づく。

等の観察できる行動からその場面を
学習機会にできるかを判断します。

3.反応がなければその場では教えない

例えば子供の近くにジュースがあります。

子供が

  • ジュースを見ている。
  • ジュースへ手を伸ばしている。
  • 親へ近づいている。

等の行動をしていたため

親は「ジュースが欲しい」と考えて
少し待ちました。

しかしその後

  • ジュースを見なくなる。
  • 手を伸ばさなくなる。
  • 親から離れる。
  • 発声もしない。

という状態になったとします。

この場合家庭療育ではさらに

  • 「何て言うの?」
  • 「ジュースって言って」

プロンプトを出して
無理に要求させません。

今回はジュースを要求する行動の
モチベーションが低かったと考えて
その学習機会を終了します。

別の時間に子供が実際にジュースを見たり
手を伸ばしたりした時に
再度チャレンジします。

つまり時間遅延法を使う目的は
親が決めた課題を
何とか正答させることではありません。

子供から行動が起こりやすい場面で
親が先に答えを出さないことです。

4.反応がないこと自体を失敗と考えない

例えば親がジュースを用意し
子供が要求するか少し待ったとします。

最初は子供が

  • ジュースを見る。
  • コップへ手を伸ばす。
  • 親へ近づく。

等の行動をしていました。

しかし待っている間に

  • ジュースを見なくなる。
  • 別の場所へ移動する。
  • 別の玩具で遊び始める。

等の行動が見られたとします。

ここで「要求できなかった」
と考える必要はありません。

その時点ではジュースを得るために
要求する行動が起こる条件が
十分ではなくなった可能性があります。

そのため「ジュースって言って」
と要求させずその場では終了します。

プロンプトを使って
「ジュース」と言わせると

  • ジュースをもらいご褒美としての価値の低下↓
  • プロンプトを使うので自己開始の能力の低下↓

とご褒美の価値が下がり
尚且つ行動が上達しない
ということが起きます。

子供のモチベーションが高い場面に限り
時間遅延法を使いましょう。

5.「ありがとう」も相手から先に言わせない

例えば子供が親からおもちゃを
受け取ろうとしているとします。

子供は既に「ありがとう」
という言葉自体は言うことができます。

しかし毎回

  1. 親「ありがとうは?」
  2. 子供「ありがとう」

となっています。

この場合「ありがとうは?」
という親の言葉が行動のきっかけに
なっています。

そこで

  1. 親がおもちゃを子供に向けて持つ。
  2. 子供がおもちゃを引っ張る。
  3. 親はおもちゃから手を離さず少し待つ。
  4. 子供が「ありがとう」と言う。
  5. 親が「ありがとうだね」と言って玩具から手を離す。

とします。

親は「ありがとうは?」と先に言わず
子供から
「ありがとう」が出る時間を作ります。

最終的には親から何も言われなくても
物を受け取る場面で
「ありがとう」と言える状態を
目指します。

6.自分から行動しない時はプロンプト依存も確認する

自閉症児が

  • 「何て言うの?」と聞かれれば要求できる。
  • 「ありがとうは?」と言われれば「ありがとう」と言える。
  • 「開けてって言って」と言われれば「開けて」と言える。

にもかかわらず親から何も言われないと
自分から行動しないことがあります。

このように行動そのものは
既にできているのに
特定のプロンプトがある時にだけ
行動が起こりやすくなっている状態を

この記事ではプロンプト依存
として考えます。

『行動分析学事典』でも
プロンプト依存という用語が
扱われています。

例えば子供がお菓子の袋を
一人では開けられず
親へ持ってきたとします。

毎回

  1. 子供が袋を親へ渡す。
  2. 親が「何て言うの?」と聞く。
  3. 子供が「開けて」と言う。
  4. 親が袋を開ける。

というやり取りを
繰り返していたとします。

すると袋を一人では
開けられないことよりも
親からの「何て言うの?」
が「開けて」と言うための
強い手がかりになることがあります。

その結果

  1. 袋を開けられない。
  2. 親へ袋を渡す。
  3. 親が話すのを待つ。

という流れになり自分から「開けて」と
言わなくなることがあります。

親の「何て言うの?」から
行動を始めるのではなく
袋を開けられないという
日常生活の状況から
自分で要求できるようにします。

家庭では

  1. その行動を既にできるか。
  2. 行動のモチベーションがある場面か。
  3. 親のプロンプトがある時だけ行動していないか。

を確認します。

この3つが揃っている場合には
時間遅延法を利用して
親からのプロンプトより先に
子供から行動を始める機会を
増やすことを考えます。

7.自己開始を増やすために使う

時間遅延法を機会利用型指導法と
組み合わせる大きな理由の一つが
自己開始を増やすことです。

Cooperらは自閉症児へ
他者へ自分から近づく等の
自己開始を教えることを
基軸行動の候補として説明しています。

自己開始が変化すると直接訓練していない
会話等の他の反応にも
変化が広がる可能性があります。

例えば

  1. 子供がお菓子の袋を親へ持ってくる。
  2. 親が「何て言うの?」と聞く。
  3. 子供が「開けて」と言う。

よりも

  1. 子供がお菓子の袋を親へ持ってくる。
  2. 親が少し待つ。
  3. 子供から何らかの声を出す。
  4. 「開けて」と要求することを親が教える。

という流れを増やしていきます。

違いは誰が言葉のやり取りを
開始したかです。

時間遅延法は単に親の声かけを
減らすためではなく
親からのプロンプトより先に
子供から行動を始める機会を
作るために使います。

8.完全な正反応より自己開始を優先することがある

例えば最終的な目標が「開けて」
だったとします。

  1. 子供がお菓子の袋を親へ持ってくる。
  2. 親が何も言わずに待つ。
  3. 子供が「あ」と発声する。

言葉としては「開けて」ではありません。

しかし何も言われていない状態で
子供から発声したという点では
自己開始が起きています。

ここで「開けてだね」等と正しい言葉を
親が伝えた上で袋を開けます。

これは機軸反応訓練(PRT)の
試み反応の強化とも共通する考え方です。

家庭療育では完全な言葉を
親から言わせることよりまず子供から
働きかけが始まったことを
優先しましょう。

不完全な発声からでも
本人から始める経験を増やし
少しずつ正しい要求へ
近づけていくことができれば
プロンプトに依存せず
自分から行動する機会を
増やすことができます(シェイピング)。

9.時間遅延法とPRTには共通する部分がある

時間遅延法とPRTは
同じ方法ではありません。

しかし家庭療育で

  1. 行動のモチベーションが高い場面を利用する。
  2. 親がすぐにプロンプトを出さない。
  3. 子供からの自己開始を待つ。
  4. 不完全でも本人から始めた反応を利用する。
  5. その行動に自然に対応した結果を与える。

という使い方をするとPRTの考え方とも
共通する部分があります。

特に「正しい言葉を言わせられたか」
だけではなく
「親から言われる前に子供から働きかけたか」
をチェックすることが重要です。

10.モチベーションが低い行動には時間遅延法を使わない

時間遅延法はどの場面でも使えばよい
方法ではありません。

例えば朝の準備中に子供が着替えを止めて
ぼーっとしているとします。

子供は着替えを続ける行動を
始めていません。

ここで親が
「自分から動くまで時間遅延法で待とう」
と考えて待っても
効果は期待しにくいです。

この場面では着替えを進めることより
何もせずにいることの方が子供にとって
都合が良いです。

ここで待つ時間を増やしても
自分から着替えを再開する
モチベーションが
高くなるとは限りません。

このような場面では
時間遅延法によって待つより
必要な音声指示等を出して
行動を開始させる方が
適切な場合があります。

つまり時間遅延法
自発的に行うモチベーションが低い行動を自分から始めさせるための
方法ではありません。

11.「できない」と「プロンプト依存」と「モチベーションが低い」を分ける

時間遅延法を使う時には
子供が自分から行動しない理由を
確認することが重要です。

例えば「開けて」と言わない場合でも
大きく分けると

  1. 「開けて」という行動自体ができない。
  2. 「開けて」は言えるが親からのプロンプトがないと言わない。
  3. その時は開けてもらう行動のモチベーションが低い。

という違いがあります。

1の場合は待っても
「開けて」は出ません。

別の学習場面で

等を利用して必要な行動自体を
先に教えることを考えます。

2の場合は行動自体は既にできるので
プロンプト依存を減らすために
時間遅延法を利用できます。

3の場合はさらに待ったり
プロンプトを出したりせず
その学習機会を終了します。

12.家庭では行動が起きそうな時だけ待つ

家庭での使用では時間遅延法を
「親が黙って待つ方法」と考えるより
「子供から行動が起きそうな時に親が先に言わない方法」
と考える方が分かりやすくなります。

例えば

  • 子供がお菓子の袋を親へ持ってきた時に「開けて」が出るか待つ。
  • 子供が電車を見ながら親へ近づいた時に「貸して」が出るか待つ。
  • 子供がおもちゃへ手を伸ばして受け取ろうとした時に「ありがとう」が出るか待つ。

等です。

反対に

  • 着替えをせずぼーっとしている。
  • 宿題を始めず座っている。
  • 片づけを止めて独り言を言っている。

という時に自分から再開するまで
待つための方法ではありません。

実践例

自閉症児が電車の玩具で
よく遊んでいます。

二つの電車を自分では連結できません。

これまでは

  1. 子供が電車を親へ渡す。
  2. 親が「何て言うの?」と聞く。
  3. 子供が「繋げて」と言う。
  4. 親が電車を繋げる。

という流れでした。

子供は「繋げて」という言葉自体は
既に言えます。

しかし親が「何て言うの?」
と言うまでいつも待っています。

この場合「繋げて」を言えないのではなく
親からのプロンプトが
「繋げて」と言うための
強い手がかりになっていると
考えられます。

そこで機会利用型指導法時間遅延法
組み合わせます。

子供がバラバラの電車を
親へ持ってきた時に
親はすぐ「何て言うの?」
とは聞きません。

何も言わずに待ちます。

子供が自発的に「繋げて」と言えたら
すぐに電車を繋げます。

  1. 電車が繋がっていない。
  2. 子供が電車を親へ持ってくる。
  3. 親が少し待つ。
  4. 子供から「繋げて」と言う。
  5. 親が「繋げてだね」と言って電車を繋げる。
  6. 子供が繋がった電車で遊ぶ。

という流れです。

もし子供から「つ」等の発声だけが
出たとしても自己開始を増やすことを
優先しているため親が「繋げてだね」
と伝えて電車を繋げます。

これはPRTでいう試み反応の強化
とも共通する考え方です。

一方

  • 子供が電車を親へ持ってこない。
  • 電車も見ていない。
  • 別の玩具で遊んでいる。

のであれば親から「繋げてって言って」
と練習を始めません。

その場面では連結を要求する行動の
モチベーションが低いと考え
別の機会を待ちます。

家庭で時間遅延法を使う時は
何でも待つのではなく子供から既に
行動が始まりかけている瞬間に
親が先回りして
プロンプトを出さないことが重要です。

そして「言えるのに自分から言わない」
場合には本人の能力だけではなく
親からのプロンプトが
行動のきっかけになっていないか
プロンプト依存の可能性についても
確認することが重要です。

参考文献

日本行動分析学会編
『行動分析学事典』丸善出版

P.A.アルバート/A.C.トルートマン著
佐久間徹・谷晋二・大野裕史訳
『はじめての応用行動分析』二瓶社

John O. Cooper
Timothy E. Heron
William L. Heward 著
中野良顯訳
『応用行動分析学 Applied Behavior Analysis 第2版』明石書店

メルマガをしています。

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