ブログ

自閉症児が質問に答えることで日常のロールプレイングをする〜ABAのイントラバーバル〜

自閉症児へ家庭療育を行う時に

  • 「朝の挨拶は?」と聞かれて「おはよう」と答える。
  • 「物をもらった時は?」と聞かれて「ありがとう」と答える。
  • 「食事の前は?」と聞かれて「いただきます」と答える。
  • 「家を出る時は?」と聞かれて「いってきます」と答える。
  • 「家に帰った時は?」と聞かれて「ただいま」と答える。

等の言葉を教えることがあります。

これまでの記事では

  • 聞いた言葉を同じように繰り返すエコーイック
  • 欲しい物や援助を要求するマンド
  • 見つけた物や出来事を伝えるタクト

について説明しました。

今回説明するのは
イントラバーバル(intraverbal)
です。

例えば

  1. 親「朝の挨拶は?」
  2. 子供「おはよう」

というやり取りです。

親が言った「朝の挨拶は?」という言葉と
子供が言った「おはよう」という言葉は
同じ音声ではありません。

ABAでは相手から聞いた言葉をきっかけに
その言葉とは異なる言葉で
応答する行動をイントラバーバル
と呼びます。

『行動分析学事典』では
イントラバーバルについて

言語的な刺激によって起こり
先行する言葉とは
一対一に対応しない言語行動と
説明されています。

  • 「学校で何をしたの?」
  • 「どんな気持ち?」

等への応答もイントラバーバルの例として
挙げられています。

1.同じ「おはよう」でも言語行動は違う

例えば子供が「おはよう」
と言ったとします。

言葉だけを見ると全て同じです。

しかしABAでは

  • 何がきっかけで言ったのか。
  • その後に何が起きたのか。

によって言語行動を分けます。

例えば

音声模倣

  1. 親「真似して、おはよう」
  2. 子供「おはよう」

これはエコーイックです。

質問への応答

  1. 親「朝の挨拶は?」
  2. 子供「おはよう」

これはイントラバーバルです。

実際の挨拶

  1. 朝、子供が先生に会う。
  2. 子供「おはようございます」
  3. 先生「おはよう」

これは実際の人や時間帯等の
状況によって起きている挨拶です。

つまり
「朝の挨拶は?」に答えられることと
実際に先生へ自分から挨拶できることは
同じ行動ではありません。

2.家庭ではマンド以外の日常生活に必要な言葉から教える

家庭でイントラバーバルを教える時には
日常生活で使うマンド以外の言葉を
優先します。

例えば

  • 朝の挨拶は?→「おはよう」
  • 物をもらった時は?→「ありがとう」
  • 食事の前は?→「いただきます」
  • 食事の後は?→「ごちそうさま」
  • 家を出る時は?→「いってきます」
  • 家へ帰った時は?→「ただいま」

等です。

欲しい物を要求するマンドなら
本人が物を見たり
手を伸ばしたりしている場面を利用し
マンド・モデル法等で
教えることができます。

一方

  • 「おはよう」
  • 「ありがとう」

等は本人がその言葉を言いたくなるほどの動機づけがあるとは限りません。

そこで

「朝、先生に会ったら何て言うの?」

等と場面を言葉で再現し
必要な応答を練習します。

家庭では本人の興味が低い内容を
教えるのではなく興味が高くなくても
毎日の生活で必要な言葉に
絞って教えます。

3.知識問題は最初の優先課題にしない

イントラバーバルの教材では

  • 「犬は何て鳴く?」→「ワンワン」
  • 「牛は何て鳴く?」→「モー」
  • 「何歳?」→「5歳」
  • 「日本の首都は?」→「東京」

等の問題が使われることがあります。

これらもイントラバーバルとしては
成立します。

しかし家庭療育で
最初に優先する必要があるとは
限りません。

例えば子供が「犬は何て鳴く?」
に答えられない場合、犬への興味が低く
生活の中でその知識を
使う機会が少なかった可能性があります。

このような内容は一度覚えたとしても
その後に使う機会がなければ
忘れる可能性があります。

また「何歳?」への答えは
毎年変わります。

覚えた回答を
毎年更新しなければなりません。

面接や受診等で
必要になる場合には教えますが

毎日の生活で使う

  • 挨拶。
  • お礼。
  • 食事開始・終了の言葉。

等より先に教える必要はありません。

知識を増やす学習と

生活で必要な
コミュニケーションを教えることは
分けて考えます。

4.確認できない「好きな物」の質問は練習に使わない

例えば

  1. 親「好きな食べ物は?」
  2. 子供「カレー」

と答えたとします。

しかし親には子供が本当に
カレーが一番好きなのかを
客観的に確認できません。

毎回「カレー」と答えていても
現在の好みを報告しているのではなく
「好きな食べ物は?」と聞かれた時に
暗記した「カレー」を答えているだけの
可能性があります。

同じように

  • 「何色が好き?」
  • 「誰が好き?」
  • 「何が楽しかった?」
  • 「どっちの方が好き?」

等も本人の内的な状態に関するため
第三者が正誤を
直接確認しにくい質問です。

そのため家庭療育で最初に行う
イントラバーバルの練習では
このような質問は使用しません。

まずは答えが事実と一致しているか
親が確認できる質問から始めます。

5.ロールプレイングができることが大きな利点

イントラバーバルの大きな利点の一つが
実際の場面が起きる前に
ロールプレイングできることです。

例えば

  1. 朝、保育園へ到着した。
  2. 玄関へ入る前に親「朝、先生に会ったら何て言うの?」と質問する。
  3. 子供「おはよう」と言う。
  4. 親「おはよう、だね。じゃあやってきて」と言う。

とします。

その直後に実際に先生へ会います。

子供が先生へ「おはようございます」
と言います。

このように

  1. 必要な場面を言葉で説明する。
  2. 質問へ答える。
  3. その直後に実際の場面で行動する。

という練習ができます。

ただ机の前で「朝の挨拶は?」
と繰り返すより必要な場面の直前に
ロールプレイングを行い
すぐに実際の行動へ
移す方が使いやすくなります。

6.質問に答えられても実際に使えるとは限らない

例えば

  1. 親「物をもらった時は何て言うの?」
  2. 子供「ありがとう」

と答えられたとします。

これはイントラバーバルとしては
できています。

しかし実際に玩具を受け取った時に
何も言わないのであれば「ありがとう」を
生活場面ではまだ使用できていません。

同じように「食事の前は?」と聞かれて
「いただきます」と答えられても
実際の食事場面で
言わないことがあります。

そのため質問への正答だけで
終了しません。

実際の生活場面では前の記事で説明した
行動連鎖中断法等を利用して

  • 物を受け取る場面で「ありがとう」と言う。
  • 食事開始時に「いただきます」と言う。
  • 食事終了時に「ごちそうさま」と言う。

という行動へ移します。

イントラバーバルは実際の行動を行う前の
確認やロールプレイングとして
利用します。

7.答えを言えない時は音声模倣で教える

例えば

親「朝の挨拶は?」と聞いても
子供が正解を答えられないとします。

この場合はまずは間違いでも良いので
何らかの回答をさせます。

これはPRTの試み強化自己開始
利用しています。

その後にプロンプトとして
音声模倣を利用できます。

例えば

  1. 親「朝の挨拶は?」
  2. 子供「ありがとう」
  3. 親「真似して、おはよう」
  4. 子供「おはよう」
  5. 親「おはよう、だね」

とします。

この段階の子供の「おはよう」は
親の音声を繰り返しているため
まずエコーイックです。

その後「朝の挨拶は?」という質問だけで
「おはよう」と答えられる状態へ
移します。

8.今日の出来事は親が確認できることから質問する

例えば

  1. 親「今日、学校で何した?」と聞く。
  2. 子供が「鬼ごっこ」と答える。

と言ったことがあるとします。

しかし親は学校にいなかったため
本当に鬼ごっこをしたか確認できません。

答えが正しいか
間違っているか分からなければ

適切な回答だけを強化することも
難しくなります。

間違った回答に「そうなんだ」
と返してしまえば事実と異なる回答を
強化する可能性もあります。

そのため
家庭療育で過去の出来事を
質問する時にはまず親が事実を
確認できる内容を使います。

例えば

  • 家庭で食べた昼食。
  • 親と一緒に行った場所。
  • 親と一緒にした遊び。
  • 写真を撮った活動。
  • 購入した物。

等です。

9.写真は答えた後の確認に使う

例えば昼食の写真が残っているとします。

親は写真を見せる前に
「昼ごはん何食べた?」と聞きます。

子供が「うどん」と答えました。

その後
親「写真で確認してみよう」と言って
写真を見せます。

親「うどんだったね」と確認します。

流れは

  1. 親「昼ごはん何食べた?」
  2. 子供「うどん」
  3. 親「写真で確認してみよう」
  4. 写真を見せる。
  5. 親「うどんだったね」

となります。

子供が「カレー」と間違えて答えた場合は
親「写真で確認してみよう。今日はうどんだったね」
と事実を伝えます。

大切なのは
最初から写真を見せないことです。

質問する前にうどんの写真を見せれば
写真を見て「うどん」と言うタクト
写真と質問の両方による
多重制御になる可能性があります。

先に質問へ答えその後
写真を確認に使います。

実践例

自閉症児が自分の名前を
言うことはできます。

しかし病院の受付で
受付の人「お名前を教えてください」
と聞かれると子供は親を見て
親が代わりに答えるのを
待っているとします。

そこで病院へ入る前に
ロールプレイングを行います。

親「受付の人に『お名前は?』って聞かれたら何て答えるの?」
子供「たなかたろうです」

親「たなかたろうです、だね。じゃあ受付で言ってみよう」

とします。

その後実際に受付へ行きます。

  1. 受付の人「お名前を教えてください」
  2. 子供「たなかたろうです」
  3. 受付の人が受付を進める。

という流れです。

ここでは

  1. 必要な場面を言葉で確認する。
  2. 子供が質問へ答える。
  3. 直後に実際の場面で同じ言葉を使う。

という経験を作ります。

名前は

  • 病院。
  • 習い事。
  • 初めて会う人。
  • 迷子になった時。

等でも必要になる可能性があります。

また年齢のように
毎年答えを変更する必要もありません。

慣れてきたら病院へ入る前の
「お名前は?と聞かれたら何て答えるの?」
という質問を減らします。

最終的には
受付の人から実際に聞かれた時に

親の事前練習がなくても
子供から答えられる状態を目指します。

参考文献

日本行動分析学会編
『行動分析学事典』丸善出版

P.A.アルバート/A.C.トルートマン著
佐久間徹・谷晋二・大野裕史訳
『はじめての応用行動分析』二瓶社

John O. Cooper
Timothy E. Heron
William L. Heward 著
中野良顯訳
『応用行動分析学 Applied Behavior Analysis 第2版』明石書店

メルマガをしています。

Back

お問い合わせ