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自閉症児は訓練してもできないことがある自分の興味を共有する言葉〜ABAのタクト〜

自閉症児へ家庭療育を行う時に

  • 電車を見て「電車」と言う。
  • 犬を見て「犬」と言う。
  • 雨を見て「雨」と言う。
  • 飛行機を見て「飛行機」と言う。
  • 面白い物を見つけて親へ伝える。

等の言葉を増やしたいことがあります。

前の記事では
聞いた言葉と同じような音声を
発するエコーイックについて
説明しました。

例えば

  1. 親「真似して、電車」
  2. 子供「電車」

という行動です。

しかし「電車」と音声模倣できることと
実際に電車を見た時に
自分から「電車」と言うことは
同じ行動ではありません。

ABAでは

  • 目の前にある物。
  • 起きている出来事。
  • 人の行動。
  • 物の特徴。

等について記述したり報告したりする
言語行動をタクト(tact)と呼びます。

『行動分析学事典』ではマンドが要求する
言語行動であるのに対しタクト
自分が接している事象を
記述・報告する言語行動として
説明されています。

Cooperらも子供が車を見て「クルマ」
と言うことをタクトの例として
説明しています。

タクト指導の最終的な目的は
親の質問へ答えることではなく
実際の物や出来事によって
言葉が起こる状態にすることです。

1.同じ「電車」でも言語行動は違う

例えば子供が「電車」と言ったとします。

言葉だけを見れば全て同じです。

しかしABAでは

  • 何がきっかけで
    その言葉を言ったのか。
  • その後
    何が起きたのか。

によって言語行動を分けます。

例えば

音声模倣

  1. 親「真似して、電車」
  2. 子供「電車」

これはエコーイックです。

要求

  1. 子供が電車の玩具を見る。
  2. 子供「電車」
  3. 親が電車を渡す。

これはマンドです。

報告

  1. 子供が走っている電車を見る。
  2. 子供から「電車」と言う。
  3. 親「ほんとだ、電車だね」

これはタクトです。

同じ音声でも行動を起こしている条件が
異なります。

2.「これは何?」に答えることは純粋なタクトではない

物の名前を教える時に

  1. 親が犬を見せる。
  2. 親「これは何?」
  3. 子供「犬」

という練習をすることがあります。

しかし

親からの「これは何?」という言葉も
子供の「犬」を起こすきっかけに
なっています。

そのため誰からも聞かれず犬を見ただけで
自分から「犬」と言うタクトとは
分けて考えます。

質問だけを聞いて答える言語行動は
イントラバーバルとして考えられます。

『行動分析学事典』でも
「学校で何をしたの?」
等の質問へ答える行動は
イントラバーバルとして
説明されています。

ただし犬を実際に見ながら「これは何?」
と聞かれて「犬」と答える場合には
目の前の犬と親からの質問の
両方の影響を受ける
多重制御になる場合があります。

『行動分析学事典』でも現前する物と
質問の両方によって
応答が制御される場合があると
説明されています。

そのため「これは何?」という練習が
できることとタクトを自分から
使えることは同じではありません。

3.タクトは相手へ自分から伝える行動

家庭で増やしたいタクト
名称当ての正答ではありません。

例えば散歩中に子供が犬を
先に見つけました。

親はまだ気づいていません。

  1. 子供が犬を見る。
  2. 子供が親を見る。
  3. 子供が「犬」と言う。
  4. 親も犬を見る。
  5. 親が「ほんとだ、犬いたね」と返す。

というやり取りです。

子供が自分で見つけた物や出来事を
相手へ伝えています。

家庭では
「何かを見つけたので相手にも知らせる」
というコミュニケーションとして
タクトを考えると分かりやすくなります。

『行動分析学事典』でも話し手と聞き手が
同じ対象を共有し聞き手が「そうだね」
等と応じることによって
タクトが強化される関係が
説明されています。

4.タクトは共同注意と関係が深い

タクトを考える時には共同注意
との関係が重要です。

例えば

  1. 子供が犬を見る。
  2. 親を見る。
  3. 「犬」と言う。
  4. 親も犬を見る。
  5. 子供が再び犬を見る。

という場面では子供と親が
同じ対象へ注意を向けています。

また

  • 対象を見る。
  • 相手を見る。
  • 再び対象を見る。

という行動は参照視とも関係します。

『行動分析学事典』ではタクトが成立する
重要な前言語的行動として

  • 共同注意
  • 指さしの理解と表出
  • 参照視

等が挙げられています。

また自閉症児ではこれらの行動に
困難がみられる場合があることも
説明されています。

そのため「犬」という言葉を言えることと犬を見つけた時に人へ知らせることは分けて考える必要があります。

5.他者への興味が薄いとタクトは自然に出にくい

例えば子供が

  • 「犬」
  • 「電車」
  • 「飛行機」

等を音声模倣できるとします。

しかし普段

  • 親を見ることが少ない。
  • 親へ物を見せることが少ない。
  • 親へ近づいて報告することが少ない。
  • 対象と親を交互に見ることが少ない。
  • 親が反応してもやり取りが続かない。

のであれば自分が見つけた物を
わざわざ人へ伝えるタクト
自然には起こりにくい場合があります。

この場合言葉を知らないことだけが
原因ではありません。

「自分が見つけた物について人と共有する」
というやり取り自体が子供自身にとって
強いモチベーションにならない
可能性があります。

そのため
話すことのできる自閉症児であっても
自分からタクトをほとんど
使わないことがあります。

タクトは単なる「物の名前を覚える課題」
ではなく
共同注意や人との関わりと強く関連する
言語行動です。

6.タクトはマンドより習得しにくいことがある

マンド・モデル法の記事では
要求する言葉について説明しました。

例えば以下の通りです。

  • 「ジュース」と言えばジュースを飲める。
  • 「開けて」と言えば袋を開けてもらえる。

このようにマンドには
その言葉と直接対応した
分かりやすい望ましい結果=ご褒美
があります。

一方
犬を見て「犬」と言っても犬そのものを
もらえるわけではありません。

親が

  • 「ほんとだ」「犬いたね」と返す。
  • 一緒に犬を見る。
  • 会話が続く。

等が主な行動のモチベーション
になります。

『行動分析学事典』でも
タクトに対する結果として

  • 笑顔。
  • 「そうだね」。
  • 「なるほど」。

等の聞き手からの社会的な反応が
説明されています。

『はじめての応用行動分析』でも

  • 笑顔。
  • 興味を示す。
  • 言葉を返す。

等が社会的強化子として
機能する場合があると説明されています。

そのため
欲しい物を得るためのマンドより
自発的なタクト
習得しにくい場合があります。

7.タクトは練習だけでは作りにくい

タクト訓練という手続き自体はあります。

Cooperらも

  • 事物。
  • 行動。
  • 物の特徴。
  • 位置関係。
  • 抽象概念。

等を対象にしたタクト訓練を
説明しています。

しかし練習で

  1. 親「これは何?」
  2. 子供「犬」

を何回できたとしても日常生活で
犬を見つけた時に自分から「犬」
と言うとは限りません。

また

  1. 親「真似して、犬」
  2. 子供「犬」

と教えてもそれはエコーイックです。

タクトは親が決めた課題として
狙った瞬間に必ず起こさせることが
比較的難しい行動です。

8.自発的に話した時に相手が反応する経験を増やす

タクトをその場で教えることは難しくても
子供から自発的に言葉が出た時に
親がすぐ反応することで
人へ言葉を出す行動の発生確率を
上げることはできます。

例えば

  1. 子供が窓の外を見て「車」と言った。
  2. 親は「車いたね」と返して同じ車を見た。
  1. 子供が「鳥」と言った。
  2. 親も鳥を見て「ほんとだ」と返した。

自分から話したことで
相手が反応する経験を増やします。

ただしここでも何が
子供のモチベーション=強化として
働いているかを見る必要があります。

9.強い関わり遊びを毎回与えるとマンドになる可能性がある

例えば子供が「犬」と自分から言うたびに
親が必ず

  • くすぐる。
  • 抱っこする。
  • 高い高いをする。

等をしたとします。

子供にとってこれらの関わり遊びが
強い好子であれば「犬」という発声が
犬を報告するためではなく

  • くすぐってもらう。
  • 抱っこしてもらう。

ためのマンドとして
機能する可能性もあります。

日常生活の言語行動は一つの機能だけで
制御されているとは限りません。

『行動分析学事典』でも

日常会話では純粋なマンドや
純粋なタクトだけではなく
複数の刺激や結果による多重制御
起きることが説明されています。

10.親から自然な言葉のモデルをたくさん聞かせる

タクトを増やすために
毎回「これは何?」
と質問する必要はありません。

親自身が生活の中で
自然に言葉を使います。

例えば犬を見た時に
親「あ、犬だね」と言います。

ここでは「真似して、犬」
とは言っていません。

すると子供が自分から「犬」
と繰り返したとします。

親の「犬」の直後に
同じ言葉を言っているため
この時点ではエコーイックとして
考えられます。

ただし課題として
音声模倣させたわけではありません。

日常会話の中で自然に発生した
エコーイックです。

親は「犬いたね」と返してそのまま犬を
一緒に見ます。

11.自然なエコーイックからタクトへつなげる

最初は

  1. 犬を見る。
  2. 親「あ、犬だね」
  3. 子供「犬」
  4. 親「犬いたね」

だったとします。

この時の子供の「犬」は親の音声によって
起きているためエコーイックです。

しかし別の日に

  1. 犬を見る。
  2. 親は何も言わない。
  3. 子供から「犬」と言う。
  4. 親「犬いたね」

となれば親の音声モデルではなく
犬という非言語刺激によって
言葉が起きています。

Cooperらもタクト指導では
エコーイック・プロンプトを利用し
最終的にはそれを撤去して
非言語刺激だけで
言語反応が起きる状態へ
移すことを説明しています。

家庭では正式な課題として
何度も模倣させるだけでなく

  • 自然な会話で言葉のモデルを聞く。
  • 自然なエコーイックが出る。

その後

  • 親が先に言わなくても同じ場面で言葉が出る。

ということが期待できます。

12.以前聞いた言葉が後から出てきても利用する

自閉症児に関わらず子供は
以前聞いた言葉を時間が経ってから
同じような状況で
繰り返すことがあります。

例えば絵本で犬を見ながら
親から「犬だね」
と何度も聞いていた子供が
後日公園で犬を見た時に
自分から「犬だね」と言ったとします。

以前聞いた言葉の再現に近い形で
出ている可能性はあります。

しかし

現在の犬を見た場面で
その発声が起き

親へ伝える行動として
使われているのであれば
親は「犬いたね」と自然に反応します。

ただし自然なモデリングをすれば
遅延性エコラリアを経由して
必ずタクトになるという方法が
確立されているわけではありません。

家庭で利用できる一つの学習機会として
考えます。

13.本読みは自然なモデリングを行いやすい

家庭でタクトにつなげるために
使いやすい場面の一つが本読みです。

絵本には

  • 動物。
  • 電車。
  • 食べ物。
  • 動作。
  • 色。
  • 大きさ。

等、親が自然に言葉にできる対象が
何度も出てきます。

しかも
「これは何?」と問題を出さなくても
親が普通に本を読むだけで言葉のモデルを
提示できます。

そのため課題として
名称を答えさせるより自然なモデリングを
たくさん行いやすい場面です。

実践例

自閉症児と一緒に
乗り物の絵本を読んでいます。

子供は

  • バス。
  • 電車。
  • 消防車。

等のページをよく見ています。

普通に本を読みます。

バスが出てきたら
親「あ、バス走ってるね」と自然に
話しかけます。

子供が「バス」と自分から
繰り返したとします。

これは親の「バス」という音声の直後に
似た音声を出しているためこの段階では
エコーイックです。

親は「バスだね」と返して
本読みを続けます。

最初は

  1. 子供がバスの絵を見る。
  2. 親「あ、バス走ってるね」
  3. 子供「バス」
  4. 親「バスだね」
  5. 本読みを続ける。

という流れです。

別の日に同じバスのページを開きました。

今度は親から「バス」とは言わずに
少し待ちます。

子供から「バス」と言えたとします。

今回は直前に親から「バス」という
音声モデルがありません。

バスの絵を見たことで子供から
「バス」を言えています。

親は「バス走ってるね」と返します。

ここでは

  1. バスの絵を見る。
  2. 子供から「バス」と言う。
  3. 親が反応する。
  4. 一緒にバスを見る。
  5. 本読みが続く。

という関係になりタクトとして
強化していくことができます。

つまり本読みでは

  1. 親から自然に話しかける。
  2. 自然な言葉のモデルを聞く。
  3. 子供から自然なエコーイックが起きる。
  4. 別の機会では親が先に言わない。
  5. 子供からタクトが出れば親が自然に反応する。

という順番で経験を増やします。

参考文献

日本行動分析学会編
『行動分析学事典』丸善出版

P.A.アルバート/A.C.トルートマン著
佐久間徹・谷晋二・大野裕史訳
『はじめての応用行動分析』二瓶社

John O. Cooper
Timothy E. Heron
William L. Heward 著
中野良顯訳
『応用行動分析学 Applied Behavior Analysis 第2版』明石書店

メルマガをしています。

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