自閉症児の適切行動を書面で明確に決める〜ABAの行動計画〜

自閉症児が成長すると
- 宿題を決めた時間までに終える。
- 動画を見る時間を守る。
- 決めた時間までに帰宅する。
- 翌日の準備を自分でする。
等、その場で毎回
親から指示されるのではなく
事前に決めたルールに沿って
行動することを求めることがあります。
ABAでは
- どのような行動をするのか。
- どこまでできたら達成なのか。
- 達成したらどのような結果が起きるのか。
等を事前に決め書面等にする方法を
行動契約(behavioral contract / contingency contract)
と呼びます。
『行動分析学事典』では
行動契約は随伴性契約とも呼ばれ
支援者と対象者が
標的行動の達成を目的として
契約する方法と説明されています。
Cooperらの
『応用行動分析学』でも
特定の行動を完了すると
特定の報酬を得られるという
関係を明確にした文書として
説明されています。
家庭療育では特に
- 口頭で伝えたルールを忘れやすい子供。
- 後からルールの内容を違うものとして主張することが多い子供。
- 言葉で示されたルールによって行動を変えられる子供。
に使いやすい方法です。
目次
1.行動契約は口頭の約束を残すことができる
例えば親が
「宿題が終わったら動画を見ていいよ」
と伝えたとします。
後になると子供が
- 「宿題より先に見ていいって言った」
- 「一問やればいいって言った」
等の違う内容を主張することがあります。
また親自身も何を約束したのか
忘れることがあります。
『はじめての応用行動分析』でも
口頭だけで随伴性を伝えると
大人が後から内容を忘れたり
子供が自分に都合のよいように
言い換えたりすることが
あるため契約として文書化する方法が
説明されています。
例えば
「19時までに学校の宿題を全部終えたらその後は自由時間」
と書いておけば後から双方で
確認できます。
2.文字を読めることは必須ではない
行動契約は文字が読める子供に
特に使いやすい方法です。
しかし文字を読めること自体が
必須というわけではありません。
Cooperらは読字能力は
行動契約が成功するための
必須条件ではないとしています。
重要なのは
- 文字。
- 口頭の説明。
- 絵。
- 写真。
- シンボル。
等で示されたルールによって
自分の行動を変えられることです。
そのため文字を読めなくても
- 「これをしたらこれが起きる」という関係を理解できる。
- 絵や写真で示したルールを理解できる。
- そのルールに沿って行動できる。
のであれば使用できる可能性があります。
また現在はiPad等で音声による読み上げも
簡単になっているので
聞いた言葉で理解できる子も
使いやすくなっています。
反対に文字を読めても書いてあるルールと
自分の行動の関係を理解できなければ
行動契約は使いにくくなります。
使用できる能力としては
「親が言ったことを復唱できる」
「文字を書けるか読める」
「音声指示に従って行動ができる」
と言うことが求められます。
逆に言うとこれらが難しい場合は
無理して使用する必要はあまりないです。
3.行動契約には3つの内容を入れる
Cooperらは行動契約の主要な内容として
- 課題の記述。
- 報酬の記述。
- 課題の記録。
の3つを挙げています。
例えば「宿題をする」
だけでは不十分です。
課題には
- 誰が。
- 何を。
- いつ。
- どの程度。
行うのかを具体的に書きます。
報酬にも
- 誰が。
- 何を。
- いつ。
- どれくらい。
与えるのかを書きます。
さらに実際に達成したかを
記録できるようにします。
Cooperらの例でも
契約に
- 課題。
- 報酬。
- 達成記録。
がそれぞれ明確に設定されています。

4.契約する行動は具体的にする
契約には
- 「ちゃんと勉強する」
- 「ゲームをやり過ぎない」
- 「いい子にする」
- 「家の手伝いをする」
等の曖昧な言葉を使わないようにします。
例えば「勉強を頑張る」ではなく
「平日は19時までに学校の宿題を全て終える」
とします。
「スマホを使い過ぎない」ではなく
「21時になったらスマホをリビングの充電場所へ置く」
とします。
さらに例外があるならその例外も契約へ
書いておくことを勧めています。
5.適切行動を強化する条件を決める
行動契約では
適切な行動をした後に何が起きるのかを
事前に決めることができます。
例えば
- 19時までに宿題を終える。
- 親へ終了を報告する。
- その後は自由時間になる。
という条件です。
この結果によって
19時までに宿題を終える行動が
増えたのであれば行動が強化
されたことになります。
6.不適切行動を弱化する条件も決められる
行動契約では適切行動の強化だけでなく
不適切行動に対する
結果を決めることもできます。
例えば
「21時を過ぎてもスマホを使い続けた場合は翌日の動画時間から10分減らす」
と予め契約したとします。
その結果
21時以降もスマホを使う行動が減れば
好子を失うことによる弱化になります。
Cooperらの行動契約のガイドラインでも契約通り課題を完了しなかった場合に報酬を与えないことや場合によって
レスポンスコストとして報酬を失う条件を
設定する方法が示されています。
ただし弱化を使う場合も後から大人が
思いつきで決めるのではなく
最初から契約内容に入れておきます。
7.契約書にないペナルティを後から追加しない
例えば契約には
「21時になったらスマホを終了する」
としか書かれていないとします。
子供が21時10分まで動画を見たため
親がその場で「明日はスマホ禁止」
「今週のお小遣いもなし」
と追加することは避けます。
行動契約では
- 何をすれば。
- どのような結果になるのか。
- 例外は何か。
を事前に明確にすることが
重視されています。
そのため家庭療育では
契約書にないペナルティを
その場で追加しない
というルールにした方が
分かりやすくなります。
8.行動契約は一方的に押しつけない
親が「今日から毎日30分勉強する」
「できなかったらゲームなし」
と全て決め子供に署名だけさせる
方法ではありません。
Cooperらは大人が一方的に
契約を作ることも可能ではあるものの
当事者全員が積極的に契約作りへ
参加した方が一般に効果的であると
説明しています。
例えば
- 親「夕食までには宿題を終えてほしい」
- 子供「帰ったら30分遊びたい」
のであれば
「帰宅後30分遊んで17時30分から宿題」
等の双方が納得できる条件を
決めます。
9.契約する行動は既にできるものにする
行動契約はできない行動を
できるようにする方法ではありません。
Cooperらも契約の対象となる行動は
本人の行動レパートリーに
既に存在する必要があり
まだできない行動なら
等を先に使うべきと説明しています。
例えば
一人で解けない算数問題について
「毎日20問解く」と契約しても
計算能力自体は上がりません。
一人でできないなら先にその行動を
教えます。
10.最初から高い基準を契約しない
これまでほとんど一人で宿題を
始めなかった子供へいきなり
「これから毎日17時に宿題を始める」
と契約すると失敗が続くことがあります。
『はじめての応用行動分析』でも
最初の契約では大きな変化を求め過ぎず
目標に近づいた行動から
強化することが勧められています。
最初は
- 月曜日だけ。
- 週3日だけ。
- 一つの課題だけ。
等からでも構いません。
安定した後に少しずつ基準を上げます。
両親が揃っている時等
親が余裕を持って対応できる時を選んで
実施していくことを先にやりましょう。
11.行動契約とトークンシステムは組み合わせられる
Cooperらの『応用行動分析学』では
- 随伴性契約
- トークンエコノミー
- 集団随伴性
を同じ章で扱っています。
これらは別の方法ですが組み合わせて
使用することができます。
例えば契約として
「19時までに宿題を終える」と決めます。
そして達成した日に
- シール。
- チェック。
- ポイント。
等をつけます。
一定数貯まったら好きな活動等と
交換します。
この場合行動契約とトークンエコノミー
を組み合わせています。
Cooperらは契約上のチェックマーク等がすぐには得られない後の報酬と
現在の行動を結びつける役割を持つことも
説明しています。
12.家庭ではトークンシステムを最初から使わないことも考える
行動契約とトークンエコノミーを
組み合わせることはできます。
例えば
- 19時までに宿題を終える。
- シールを1枚もらう。
- シールを5枚集める。
- 動画やお菓子等の好子と交換する。
という方法です。
Cooperらもトークンエコノミーによって
行動が改善した研究を紹介しています。
しかし家庭療育では
最初からトークンを使わないことも
考えます。
トークンを使えば
- シール。
- ポイント。
- スタンプ。
等を貯めることで最初は比較的簡単に
行動を増やせることがあります。
一方で問題になるのがその行動を長期間
どのように維持するかです。
例えば
- 宿題をしたらシール。
- 歯磨きをしたらポイント。
- 着替えたらスタンプ。
という状態を作ると
トークンや交換先の好子が
ある時には行動してもそれをなくした時に
行動しなくなることがあります。
また交換先として
- 動画。
- お菓子。
- 玩具。
等を繰り返し使うと
同じ好子を得続けることで価値が下がる
飽和が起きることもあります。
Cooperらもご褒美=好子の有効性は
飽和によって低下すると
説明しています。
すると家庭では
- 最初のお菓子では動かなくなる。
- 動画を見る時間を長くする。
- 新しい玩具を用意する。
- 必要なポイント数を調整する。
等、好子やトークンシステム自体を
維持するための対応が
必要になることがあります。
さらに最終的にはトークンがなくても
同じ行動ができる状態へ
フェイディングする必要があります。
Cooperらもトークンを徐々に減らし
最終的には日常場面と同じような
強化スケジュールで
行動できる状態へ移すことを
説明しています。
家庭療育では後からトークンを
なくすことを考えるくらいなら
最初からトークンを使わずに
教えられないかを先に考えます。
例えば
- 宿題を終える。
- その後は自由時間になる。
- 外出準備を終える。
- 外出する。
- 食器を片づける。
- 食事が終了する。
等、その行動の後に
生活の中で自然に起きる結果が
ある場合があります。
このような行動であれば
わざわざ不自然なご褒美を使用しなくても
生活の流れの中で
行動を習慣化できる可能性があります。
そのため家庭で行動契約を使う場合も
最初に
- トークンなしで行動契約だけを使えないか。
- 生活の中にある結果を利用できないか。
を考えます。
トークンシステムは
効果がない方法ではありません。
しかし開始することよりも
長期間維持し最終的にトークンを
なくすことの方が
難しくなる場合があります。
そのため家庭療育では
必要性が高い場合を除き
最初から使わないことを基本に考えます。
13.契約そのものが目的にならないようにする
行動契約では
- 紙。
- チェック表。
- シール。
- サイン。
等を使います。
しかし契約書を作ること自体が
目的ではありません。
確認することは契約前より標的行動が
増えたかです。
14.最終的にはセルフマネジメントへつなげる
Cooperらは行動契約を子供の自己管理を
教える方法としても扱っています。
最初は大人が契約内容を多く決めます。
その後契約の内容を決める部分を
少しずつ子供へ移します。
最終的には
- 自分が行う課題。
- 自分が設定する基準。
- 自分で行う記録。
等を本人が管理する
セルフマネジメント
へ移すことができます。
等を本人が管理する
セルフマネジメント
へ移していきます
さらに自分で課題や条件を決める
自己契約(self-contract)
へ発展させることもできます
例えば最初は親と
「19時までに宿題を終える」
と契約します。
安定したら
- 自分で開始時間を決める。
- 時計を確認する。
- 自分で宿題を始める。
- 終了したことを確認する。
という部分を本人へ移します。
最終的には行動契約がなくても
自分の生活を自分で管理できることを
目指します。
実践例
小学校高学年の子供は親から言われれば
宿題を一人でできます。
しかし帰宅すると
- 動画。
- ゲーム。
- 漫画。
等を続け親が何度も「宿題は?」
と言わなければ始めませんでした。
また朝に「今日は18時までに宿題」
と伝えても後になると
「そんなこと言っていない」
「夕食までって言った」
と主張することがありました。
そこで口頭だけの約束ではなく
行動契約を作ります。
親と子供で話し合い課題を
- 帰宅後30分は自由時間にする。
- 17時30分になったら宿題を始める。
- 19時までに学校の宿題を全て終える。
- 終わったら親へ報告する。
と決めます。
結果は「宿題が終わった後は自由時間」
とします。
この場合特別なお菓子や玩具を
追加する必要はありませんが
ゲームや動画を寝る時間まで
好きに見られるようにしました。
契約書には
- 月曜日。
- 水曜日。
- 金曜日。
の達成欄を作ります。
達成した日は自分で丸をつけます。
その後子供が
「今日は18時30分までって言っていた」
と主張しても親と言い争うのではなく
契約書を確認します。
また宿題を始めなかったからといって
親がその場で「今日はゲームも禁止」等
契約にない条件を追加しません。
条件を変更するなら次の契約を作る時に
話し合います。
契約によって親から何度も
声をかけられなくても17時30分に
宿題を始めることが安定してきたら
次に開始時間を
本人が決めるようにします。
最終的には
- 契約書がなくても自分で予定を決める。
- 時間を確認する。
- 宿題をする。
- 終了を確認する。
という状態を目指します。
行動契約は単に
「約束したから守りなさい」と子供を
管理する方法ではありません。
- 何をするのか。
- どの程度行うのか。
- 達成したら何が起きるのか。
- 達成できなかったら何が起きるのか。
を事前に明確にし大人も子供も
後から勝手に
条件を変えないための方法です。
参考文献
日本行動分析学会編
『行動分析学事典』丸善出版
P.A.アルバート/A.C.トルートマン著
佐久間徹・谷晋二・大野裕史訳
『はじめての応用行動分析』二瓶社
『応用行動分析学 Applied Behavior Analysis 第2版』明石書店。
メルマガをしています。





