自閉症児の不適切行動を弱める〜ABAの弱化とは〜

前回は強化について書きました。
強化とは行動の後に
特定の結果が起きて
その行動が増えることです。
反対に弱化とは
行動の後に特定の結果が起きて
その行動が減ることです。
弱化は以前は罰と呼ばれていましたが
「罰を与えても行動が減らなかった」
のように誤解が多かったことが理由かは
分かりませんが名称が変更されました。
ここで注意が必要なのは
弱化は単にペナルティーを与えること
ではないということです。
- 親が叱った。
- 注意した。
- 怒鳴った。
だから弱化になった
というわけではありません。
その後に同じような場面で同じ行動が
減った場合に弱化が起きたと考えます。
つまりABAでは
- 親が強く注意したか。
- 子供が泣いたか。
- 反省しているように見えたか。
ではなく
- その行動が次に減ったり弱まったりしたか。
- 同じ場面で起きにくくなったか。
を見る必要があります。
自閉症児に対して弱化を使わない子育ては
理想です。
確かに弱化は使い方を間違えると
親子関係が悪くなったり
別の問題行動が増えたりします。
ただし家庭の中で全く弱化を使わずに
生活を整えることは難しいです。
- 危険な行動。
- 他の人を傷つける行動。
- 物を壊す行動。
- 生活上どうしても減らす必要がある行動。
これらに対しては即座に行動を消すため
適切に弱化を使う必要がある場合も
あります。
大切なのは怒りで対応することでは
ありません。
- どの行動を減らすのか。
- どうやってその行動を減らすか。
- 代わりにどの行動を増やすのか。
を決めておくことです。
目次
1.弱化は行動が減ったかで判断する
例えば子供が食事中に
わざとコップの水をこぼして
遊んでいるとします。
親がその度に「やめなさい」「何してるの」
と注意していても
水をこぼす行動が続いているなら
その注意は弱化手続きになっていません。
むしろ親が反応してくれることで
行動が増えたり強まっている=強化
の可能性もあります。
一方で水をこぼしたら
- その場で布巾を渡されて床を拭かせられる
- 親と一緒に床を拭く。
- 拭き終わるまで食後席を立てない。
という対応をした後に
水をこぼして遊ぶ行動が減ったなら
弱化が起きている可能性があります。
弱化は大人のつもりではなく
子供の行動の変化で判断します。
2.嫌子とは何か
強化の記事で説明しましたが
好子は行動の後に与えることによって
行動が増えるものです。
好子=子供にとってのご褒美と考えて
差し支えないです。
一方、嫌子とは子供にとって
避けたいものや面倒なことです。
親が行動を弱化するために
意図的に与えているのであれば
嫌子=何らかのペナルティーと
考えると分かりやすいです。
ただし嫌子は
大人が決めるものではありません。
その子にとって
避けたい結果かどうかで決まります。
例えば
- やり直しをする。
- 片づけをする。
- こぼした物を拭く。
- 着席して課題をする。
- 親の注意を受ける。
等が嫌子として働くことがあります。
同じことでもある子には嫌子で
別の子には嫌子ではないこともあります。
重要なのは
嫌子を与えたかどうかではありません。
その結果によって
問題行動が減ったかどうかです。
また嫌子は
子供を苦しめるために
使うものではありません。
問題行動の後に
面倒な結果が起きることで
その行動を減らすために使います。
家庭で使う場合の嫌子は
安全で短時間で終わることや
生活上自然な後始末であることが
重要です。
3.弱化には嫌子出現と好子消失がある
弱化には大きく分けて
- 嫌子出現による弱化
- 好子消失による弱化
があります。
嫌子出現による弱化とは
行動の後に子供にとって
面倒なことや嫌なこと=嫌子があって
その行動が減ることです。
例えば
- わざと床に水をこぼしたら床を拭く。
- 食べこぼしを広げたら自分で集める。
- 靴を投げたら取りに行って全ての靴をそろえる。
- 使ったおもちゃを踏んだら洗わせてその場で箱へ戻す。
等です。
一方で好子消失による弱化とは
行動の後に子供にとって
良いこと=好子がなくなり
その行動が減ることです。
例えば
- ゲーム機を投げたら
その日はゲームを終了する。 - おもちゃで人を叩いたら
そのおもちゃを一時的に片づける。 - 遊び中に友達を押したら
その遊びから短時間離れる。 - 食事中に動画を見続けてご飯を食べなかったら動画を一時停止する。
等です。
好子消失による弱化は
家庭ではよく使われています。
ただし大切なのは
親の怒りでその場のルールを決めて
長時間取り上げることでは
ありません。
何をしたら何がなくなるのかを
事前に決めておくことです。
4.使ってはいけない嫌子がある
嫌子を使う場合には
絶対に使ってはいけないものがあります。
虐待に当たるものです。
- 身体的な痛みを与える。
- 食事場面等で食べ物や飲み物を取り上げる。
- 暗い部屋へ閉じ込める。
- 暴言を言う。
これらはどんなに嫌子として
効果があっても使用が許可されません。
5.使える可能性がある嫌子は生活上自然な後始末にする
家庭で使える可能性がある嫌子は
生活上自然な後始末に近いものです。
例えば
- こぼしたら拭く。
- 散らかしたら片づける。
- 靴を揃え忘れたら玄関に戻って揃える。
- 乱雑に置いた物をもう一度丁寧に置き直す。
- 食器を置きっぱなしにしたら食卓へ戻って流しへ運ぶ。
等です。
ただしこの対応では
「親に注意されたら適切にすればいい」
と学習する可能性があります。
そのような場合には
子供が当初必要だった量ではなく
過剰に片付けや掃除をさせたり
同じ行動を何度もやり直させたりする
方法が使えることがあります。
例えば
- ドアを乱暴に閉めたら何回も静かに閉める練習をする。
- 物を投げて渡したら手渡しでやり直す練習を繰り返す。
- 家の中で走ってしまったら何度も歩いて往復する。
等です。
使ってよい可能性がある嫌子は
- 5分以内ぐらいの短時間で終わる。
- 生活上の後始末になっている。
- 虐待に該当しない
- 親の怒りで対応が変わらない。
この条件を満たすものに限ります。
6.嫌子には順化が起きる
嫌子には順化が起きることがあります。
順化とは
同じ刺激を何度も経験することで
反応が弱くなることです。
例えば親が何度も怒鳴ると
最初は子供が驚いて行動を止めるかも
しれません。
しかし毎日怒鳴られていると
子供は怒鳴り声に慣れていきます。
すると親は
- もっと大きな声で怒る。
- もっと長く説教する。
- 近くまで行って強く責める。
- 物を取り上げる。
- 腕をつかむ。
と対応を強くなっていくことがあります。
これは親の行動に
消去バーストが起きている状態と
考えることができます。
- これまで怒鳴ることで子供が問題行動を止めていた。
- しかし怒鳴っても子供が無反応になった。
- そのため親の怒鳴る行動が強く激しくなっていった。
この流れが起きることがあります。
この先に手が出てもおかしくありません。
そのため怒鳴ることを
日常の指示やしつけに使うことは
控えるべきです。
怒鳴ることは本当に危険な場面のために
取っておくべきです。
例えば
- 道路へ飛び出しそうになった時。
- 火や刃物に触りそうになった時。
- 他人を強く叩こうとした時。
このような安全に関わる場面では
大きな声で止める必要があることも
あります。
本当に危険な時に使用するためにも
普段から怒鳴らない支援をすることが
重要です。
7.弱化だけでは適切行動は増えない
弱化で問題行動は
一時的に減らせる可能性があります。
しかし弱化だけでは
子供に代わりの行動を教えることが
できないことが多いです。
例えば子供が勝手に他児の物を取り上げる
行動の場合は
- 勝手に他児の物を触らない
- 他児に「貸して」と言う。
- 貸してくれたら「ありがとう」と言う。
- 断られたら諦める
という行動が自然に増えるとは
限りません。
減らしたい問題行動があり
要求等の何らかの機能を持っている場合は
必ず代替となる適切行動も決めます。
- スマホを勝手に使うのではなく「使っていい?」と親に確認する。
- 台所に侵入して冷蔵庫を漁るのではなく「お菓子ちょうだい」と母親に言う。
- 勝手に玄関から出て行くのではなく「外行きたい」と親に許可をとってから靴を履く。
という行動を教えます。
弱化は問題行動を一時的に減らす
手続きです。
ですが代替行動がないとまた元に戻る
可能性が高くなるため
弱化で不適切行動がなくなった時点で
適切行動を教えることを始めます。
8.嫌子を探すより指示に従いやすい状態を作る
問題行動が続くと何を嫌子にすればよいか
どんな結果を足せば減るか
と考えてしまうことがあります。
しかし嫌子を探すことを
支援の中心にしない方がよいです。
そもそも子供が親の指示に
従いやすい状態を作ることで
問題行動は起きにくくなります。
そのために使う方法の一つが
コンプライアンストレーニングです。
コンプライアンスとは
指示に従う能力のことです。
コンプライアンストレーニングでは
子供がすぐにできる指示から始めます。
例えば
- 手をタッチして。
- 座って。
- 立って。
- コップを持って。
- 本を渡して。
等の簡単な指示です。
最初は子供の近くで
短い指示を一つだけ出します。
子供ができたら
すぐに「そうだよ」と伝えます。
できない場合は
同じ指示を何度も繰り返しません。
すぐに身体プロンプトで
行動を始めさせます。
このように
- 指示を聞く。
- すぐ行動する。
という流れを作ります。
注意点としてはご褒美を使用しない
ことです。
特にモチベーションがない状態でも
他者の指示に従う練習をすることで
様々な場面での指示への応答が
向上することを目指します。
親の指示に従う経験が増えると
問題行動が起きる前に
適切行動を始めやすくなります。
嫌子を強くするよりも
指示に従いやすい状態を作る方が
家庭では安全で現実的です。
9.弱化を使う時は基準を事前に決める
弱化を使う場合は
その場で判断しない方がよいです。
その場で決めると
親の疲れや怒りによって
対応が変わりやすくなり
結果として子供がルールを理解しづらく
なります。
例えばゲームのルールなら
- ゲーム機を投げたら5分間ゲームを制止する。
- 暴言を吐いたり奇声を出したりしたら落ち着くまでゲームを制止する。
- 泣いても延長はしない。
- 負けて相手を叩いてしまったらその日はゲームを許可しない。
このように決めます。
大切なのは
問題行動の後に
親が怒ることではありません。
問題行動の後には
決まった結果が起きることです。
実践例
他者が使っている物を
勝手に取り上げる子の場合です。
例えば親がスマホを使っている時や
親が子供用のおもちゃを持っている時に
子供が勝手に触ることがありました。
親が
- 「やめて」
- 「今使っているよ」
- 「勝手に取らないで」
と注意しても
同じ行動が続いていました。
この場合
- 他者の物に勝手に触る。
- 注意されても触り続ける。
- 場合によってはその物で遊べてしまう。
という流れになっています。
これでは他者の物を勝手に取る行動が
続きやすくなります。
そこでルールを決めます。
親が使っているスマホやおもちゃに
勝手に触った場合は
子供が今使っているおもちゃも含めて
いったん全て取り上げます。
その後5分間は
遊びの場から離れてもらいます。
長時間にすると練習機会がなくなるため
短時間にして繰り返すようにします。
勝手に他者の物を取った後には
遊びが続かないことを
明確にするための短時間の対応です。
この場面では
- 親の物を勝手に触る行動の後に遊びが中断される。
- 今使っているおもちゃも一時的に使えなくなる。
- 遊びの場から話される。
という結果が起きます。
これは好子消失による弱化として
働く可能性があります。
ただしこの対応だけでは
適切行動は増えません。
他者の物に勝手に触る行動が完全に
なくなってから次に教えるのは「貸して」と要求する行動です。
まずは大人相手に練習します。
- 子供が親が使っているおもちゃを触らずに一定時間過ごせたら貸す。
- 1の条件+音声模倣で「貸して」と言う言葉を教えて言えたら貸す。
- 子供が自分から「貸して」と言えたら貸す。
- 3の条件でもすぐには貸さず「ちょっと待ってね」と伝えて待たせて勝手におもちゃを触らなければ貸す。
このように教えると適切なものの借り方と
例えすぐ貸してくれなくても諦められる
ようになります。
大人相手に安定してできるようになったら
子供相手でもできるかを確認します。
うまくいかなかった場合は大人相手に
練習をしてから再度実践させましょう。
メルマガをしています。





