自閉症児へ間違いを減らして教える〜ABAのエラーレスラーニング〜

自閉症児へ家庭療育を行う時に
- 新しい文字を教える。
- 「○○はどれ?」と物を選ばせる。
- 数字を見分ける。
- 新しい生活用品の名前を教える。
- 学習課題へ取り組ませる。
ことがあります。
子供がまだ正解を知らない課題では
何度も答えさせると
間違いが続くことがあります。
そこで最初から
正しい反応が起きやすいように
プロンプト等を使い
誤反応をほとんど起こさずに
学習を進める方法があります。
これを
エラーレスラーニング(errorless learning)
と呼びます。
『はじめての応用行動分析』では
正反応が起こるように
弁別刺激やプロンプトを利用する
指導手続きとして説明されています。
『行動分析学事典』では
無誤弁別学習という名称で
誤反応をほとんど生じさせずに
弁別を形成する方法として
説明されています。
ただし家庭療育でエラーレスラーニングは
基本的には使用をお勧めしません。
目次
1.エラーレスラーニングは間違える前に教える
例えば
- 靴。
- コップ。
- タオル。
を並べます。
子供はまだ「靴」を知りません。
通常なら
- 親「靴はどれ?」
- 子供がコップを選ぶ。
- 親「違うよ。靴はこれ」正解を指差して教える。
となります。
一方エラーレスラーニングなら
- 親「靴はどれ?」
- 同時に親が靴を指さす。
- 子供が靴を選ぶ。
等、間違える前に
正しい反応が起こるようにします。
その後プロンプトを減らして
最終的には
- 親「靴はどれ?」
- 子供が一人で靴を選ぶ。
状態へ移します。
文献でもエラーレスラーニングでは
正反応を促すプロンプトを使い
その後にプロンプトを
減らしていく方法が説明されています。
2.癇癪を防ぐためだけに使い続けない
エラーレスラーニングは
間違えると
- 泣く。
- 教材を投げる。
- 離席する。
- 課題を拒否する。
- 癇癪を起こす。
子供に使われることがあります。
誤反応が続くことで課題からの逃避や
問題行動につながる場合があることは
『行動分析学事典』でも
説明されています。
しかし家庭では
「間違えると癇癪を起こすから毎回エラーレスラーニングにする」
だけでは不十分だと考えます。
新しい課題のたびに親が答えを教えないと
課題へ取り組めないのであれば
課題の難しさだけではなく
コンプライアンスの問題も確認します。
例えば既に一人でできる
- 「座って」。
- 「手を叩いて」。
- 「これを箱に入れて」。
等の簡単な指示でも
- すぐ拒否する。
- 無反応になる。
- 離席する。
- 癇癪になる。
のであれば新しい課題の教え方以前に
指示に従う行動そのものを
増やす必要があります。
家庭ではこの場合
コンプライアンストレーニング
を先に行うことがお勧めです。
3.家庭では高確率指示連鎖を先に使う
学習時にいきなり難しい課題だけを
提示するより
私の方法では高確率指示連鎖を使います。
等と呼ばれています。
まず高い確率でできる
簡単な指示を数回出しその直後に
難しい指示=新規課題を
一つ出す方法です。
『行動分析学事典』では
高確率でできる課題を
数試行行った直後に
低確率の課題を提示することで
指示に従う行動の遂行率が高まり
課題開始までの時間や
課題終了までの時間も
短くなった研究が紹介されています。
4.新しい課題でもまず子供から反応させる
新しい課題だからといって親が最初から
子供の手を動かしたり
正解を指さしたりして教えることは
お勧めしません。
まず子供自身に反応する機会を作ります。
例えば
- 「6」
- 「2」
- 「5」
を並べます。
親
「6はどれ?」
と聞きます。
ここで親はすぐに「6」を指さしません。
まず子供が
- 選択肢を見る。
- 手を伸ばす。
- 指さそうとする。
- どちらかを選ぶ。
ことを待ちます。
完全な正反応だけではなく課題に対して
自分から反応を始めることも
重視します。
これはPRTの試み強化
とも関係します。
『行動分析学事典』でも
PRTでは正反応だけでなく
標的行動を行おうとした
試み反応も強化することが
説明されています。
「追加のプロンプトを出す前に子供自身がまず反応を開始する」
ことを重視します。
5.できなければ正解を教えてからもう一度一人で行わせる
エラーレスラーニングでは
最初に強いプロンプトを使い
徐々に弱くする
最大から最小プロンプト
が使われることが多いです。
『はじめての応用行動分析』でも
最初に十分な身体的プロンプトを使い
その後
- 部分的なプロンプト。
- ジェスチャー。
というように援助を減らす方法が
説明されています。
しかし家庭では強いプロンプトを
何段階も減らしていく方法を
基本にはお勧めしません。
例えば
親「6はどれ?」と聞き
子供が「2」を選んだとします。
その場合
- 親が正しい「6」を示す。
- 子供が正解である「6」を選ぶ。
- 親が選択肢を元へ戻し場所を変える。
- 親「6はどれ?」ともう一度聞く。
- 子供一人で選ばせる。
とします。
正解を教えることと子供一人で
正答することを分けます。
『行動分析学事典』にも
誤反応後に同じ課題を再度行う
矯正試行が弁別形成を促す方法として
紹介されています。
6.エラーレスラーニングが必要なら好子と動機づけも確認する
エラーレスラーニングは
離散試行型指導法(DTT)でも
使われやすい考え方です。
『行動分析学事典』のDTTでも誤反応や
誤反応が予測される場合には
プロンプト・フェイディングによって
正反応を引き出すことが
説明されています。
家庭でDTTをしていて
- 無反応が多い。
- 毎回プロンプトしなければ反応しない。
- 好子を見せても課題へ取り組まない。
- ほぼ全ての新しい課題でエラーレスが必要になる。
のであれば私はエラーレスの
プロンプトを増やす前にそもそも
「モチベーションが高い場面で学習を行っているか」
を確認します。
親が
「お菓子が好きだからこれを好子にしよう」
と考えていても
課題後の行動が増えなければ
その場では好子として
機能していない可能性があります。
7.モチベーションが低いならその場で教えない方法もある
機会利用型指導法では
子供の動機づけが高い日常生活の場面を
学習機会として利用します。
『行動分析学事典』でも
機会利用型指導法は日常生活の中で
動機づけが高い状態を保ち子供主導で
学習を進めることが特徴とされています。
そのため家庭では子供がほとんど
課題へ反応しない時に
エラーレスラーニングを使って
何とか反応させるという方法を
使用しなくてよいのです。
例えば
- 電車への関心が高い時に
電車に関する言葉を教える。 - お菓子の袋を
自分で開けようとしている時に
「開けて」を教える。
等、そもそも行動が
起きやすい場面を利用します。
モチベーションが低いなら
その場では教えない
という選択もあります。
8.不自然な好子を用意した机上学習自体を減らす
家庭療育では毎回
- シール。
- ポイント。
- お菓子。
等の不自然な好子を別に用意して
机上課題を行う必要がありません。
例えば
- 子供が「開けて」と言えたら親が袋を開ける。
- 「貸して」と子供が言えたら必要な玩具を親が貸す。
- 予定表を読めたら子供が一人で次の活動へ進める。
等、行動の直後に自然に続く
モチベーションを利用できます。
PRTでもDTTで使用される
任意に設定された結果より
行動の機能に対応した自然な結果を
利用することが重視されています。
家庭では
「好子を用意して課題をやらせる」
こと自体を減らせないかも考えます。
9.エラーレスラーニングはコンプライアンスの代わりにはならない
例えば子供が新しい課題を
少し間違えただけで毎回
- 離席する。
- 教材を投げる。
- 癇癪を起こす。
とします。
そこで親が毎回最初から正解を指さし
間違わないようにしたとします。
その課題はできるかもしれません。
しかし次に別の新しい課題を出した時には
また同じようにエラーレスラーニングが
必要になります。
家庭ではまず
既にできる簡単な指示を使って
- 指示を聞く。
- 行動する。
- 終わったら報告する。
というコンプライアンスを増やします。
その上で新しい学習課題へ進みます。
Cooperらでも高確率要求連続は
従いやすい要求を
難しい要求の直前に提示し低確率要求への
従順反応を高める方法として
説明されています。
家庭ではエラーレスラーニングを
癇癪対策として使い続けないように
します。
10.間違いを完全になくすこと自体を目標にしない
エラーレスラーニングという名前から
「子供には絶対に間違えさせない方がよい」
と考える必要はありません。
『はじめての応用行動分析』でも
無誤学習には誤反応に伴う問題を
起こしにくくする利点がある一方
現実生活では間違いは避けられず
誤りへ対応する行動も学ぶ必要があると
説明されています。
『行動分析学事典』でも
誤反応がない状態が
常に望ましいわけではなく
無誤弁別学習で獲得した行動の
新しい場面への般化にも課題があることが
指摘されています。
家庭では間違えないことではなく
- 子供がまず自分で試す。
- できればその行動を強化する。
- できなければ正解を教える。
- もう一度一人で行う。
ことを重視します。
実践例
自閉症児がひらがなの読みを
練習しています。
現在
- あ。
- い。
- う。
は安定して読めます。
これから「さ」を新しく教えます。
いきなり「さ」
だけを何度も出すのではなく
最初に高確率指示連鎖を利用します。
- 親が「あ」を見せる。
- 子供「あ」と読む。
- 親が「い」を見せる。
- 子供「い」と読む。
- 親が「う」を見せる。
- 子供「う」と読む。
既にできる課題を連続して行った後
「さ」を見せます。
親は
- 子供が「さ」と言おうとする。
- 別の音でも自分から発声する。
等、まず反応を始めることを待ちます。
正しく「さ」と言えれば
そのまま正答として扱います。
「き」等と間違えた場合には
- 親「これは、さ」と正しい音を教える。
- その後一度カードを隠す。
- もう一度「さ」を見せる。
- 今度は親が答えを言わず子供一人で「さ」と言えるか確認する。
一人で言えたらそこで終了します。
もし新しい文字を出すたびに
- 教材を投げる。
- 離席する。
- 癇癪になる。
のであれば子供の要求時等の
モチベーションが高い場面を利用して
教えることを優先します。
家庭ではエラーレスラーニングを
新しい課題の基本にするのではなく
- コンプライアンス。
- 高確率指示連鎖。
- 子供からの反応開始。
- 試み反応の強化。
- 動機づけの高い学習機会。
- 正解を教えた後の再試行。
を組み合わせるようにします。
参考文献
日本行動分析学会編
『行動分析学事典』丸善出版
P.A.アルバート/A.C.トルートマン著
佐久間徹・谷晋二・大野裕史訳
『はじめての応用行動分析』二瓶社
John O. Cooper
Timothy E. Heron
William L. Heward 著
中野良顯訳
『応用行動分析学 Applied Behavior Analysis 第2版』明石書店
メルマガをしています。





