自閉症児が親の指示に従えるようにするために〜ABAのコンプライアンストレーニング〜

自閉症児に同じ指示を出しても
- すぐに行動する時。
- 何度言っても動かない時。
があります。
例えば子供が「おもちゃを片づけて」
という言葉を理解し一人で片づけることも
できるとします。
それでも
- 動画を見る前には片づける。
- 入浴前には片づけない。
- 母親の指示では何度言っても動かない。
- 父親が強く言うと動く。
という違いが起こることがあります。
この場合は片づけ方を
知らないのではありません。
指示を受けた時に
決められた行動を始めることが
安定していない状態です。
指示を受けた後に
決められた行動を行うことを
コンプライアンスと呼びます。
目次
1.コンプライアンスは観察できる行動で決める
子供について
- 言うことを聞かない。
- 反抗的である。
- やる気がない。
と説明することがあります。
しかしこれだけでは何を教えればよいのか
分かりません。
例えば「座って」という指示を出した後に
- 1秒以内に椅子へ移動する。
- 椅子へ腰を下ろす。
- 親がいいよと言うまで座り続ける。
という形で行動ができているか
確認します。
指示に従ったかどうかは
- 返事をしたか。
- うなずいたか。
- 「分かった」と言ったか。
ではなく
実際に行動ができたかで判断します。
2.できないことと従わないことを分ける
子供が指示に従わない時はその行動が
一人でできるのかを確認します。
例えば「靴を履いて」と言われても
- 左右が分からない。
- かかとを入れられない。
- 靴ひもを結べない。
のであれば
コンプライアンスだけの
問題ではありません。
靴を履く技能を
教える必要があります。
まず
- その行動を一人でできるか。
- 指示の意味を理解しているか。
- 別の場面では行っているか。
を確認します。
指示を聞き取れているか確認するためには
話せる子であれば親の指示を復唱させる
話せない子であれば目を合わせてから
指示を出すことを意識します。
3.コンプライアンスが低いと発達検査の数値も低く出ることがある
発達検査や知能検査の結果は
子供が持っている能力だけを
そのまま示すとは限りません。
- 検査者の指示を聞く。
- 課題へ取り組む。
- 途中で止めずに続ける。
- 分からなくても一度試す。
- 決められた時間内に動く。
という行動も
検査結果に影響します。
例えばWISCの
処理速度をみる課題では
決められた時間内に
課題を進める必要があります。
子供に課題を行う能力があっても
- 途中で手を止める。
- 検査者へ別の話をする。
- 分かっていてもゆっくり進める。
- 何度も促されるまで再開しない。
という行動があれば
実際の能力より
低い数値になる可能性があります。
この場合は
- 処理速度そのものが低いのか。
- 課題へ継続して取り組まなかったのか。
- 指示を受けても開始しなかったのか。
を分けて考える必要があります。
普段の生活でも
- 一人ならできる。
- 好きな課題なら早くできる。
- 親が横にいればできる。
- 好子があればできる。
という状態では検査場面で能力を
十分に示せないことがあります。
発達検査の数値が低かった時に
その能力がない
とすぐに判断するのではなく
- 課題の理解。
- 開始までの時間。
- 途中で止まった回数。
- 促しの回数。
- 最後まで取り組めたか。
も確認する必要があります。
4.刺激性制御とコンプライアンスは同じではない
刺激性制御とは特定の言葉や音等が
行動の合図になっている状態です。
例えば「座って」という言葉で
椅子へ座る場合です。
しかし合図の意味を理解していても必ず行動するとは限りません。
- 好きな活動の前なら座る。
- 嫌な課題の前なら座らない。
- 何度も言われた後なら座る。
- 怒鳴られた時だけ座る。
ということがあります。
この場合「座って」という言葉は
理解しています。
しかし最初の指示に従うことは
安定していません。
刺激性制御は何を合図に行動するか。
コンプライアンスは
指示を受けた時に実際に行動を始めるか
という違いがあります。

5.動機づけ操作とコンプライアンスを分ける
子供が指示に従うかどうかには
行動後に得られる結果の価値も
影響します。
例えば
- 片づけたら動画を見られる。
- 片づけてもすきではない入浴が始まる。
では片づける行動の
起こりやすさが変わります。
これは動機づけ操作の影響です。
しかし生活では
強い好子がない時にも
行う必要がある行動があります。
- 着替える。
- 歯を磨く。
- 車に乗る。
- 道路で止まる。
- 食器を運ぶ。
等です。
全ての指示にお菓子、動画、おもちゃ
を用意すると好子がない時には
動かない状態になる可能性があります。
新しい行動を教える初期には
好子を使うことがあります。
一方で習得済みの生活行動は
特別な好子がなくても
指示で開始できることを目指します。

6.短い指示を使うのは初期だけにする
コンプライアンスを教え始める時は
- 立って。
- 座って。
- コップを置いて。
- 読んで。
等の短く具体的な指示を使います。
一つの指示で一つの行動を求めることで何をすればよいのかが
分かりやすくなります。
しかし短い指示だけをずっと使い続けると少し言い方が変わっただけで
行動できなくなる可能性があります。
例えば「座って」なら動けても
- 「自分の椅子に座ろう」
- 「そこへ腰かけて」
- 「先生の話を聞くから席へ戻って」
という指示では動かないことがあります。
最初は短い指示で正しい行動を教えますが
安定してきたら
- 言い方を少し変える。
- 指示を出す人を変える。
- 距離を変える。
- 場所を変える。
- 前後の文章を少し長くする。
- 二つの行動を含む指示へ進む。
という練習を行います。
例えば「コップを置いて」が安定したら「コップを置いてお茶を入れて」
という指示へ広げます。

7.指示を出す前に行動できる状態を作る
子供が別の部屋にいる時に親が
「早く片づけて」
と遠くから呼ぶことがあります。
しかし子供が
- 指示した人を見ていない。
- 動画を見ている。
- 音が聞こえにくい場所にいる。
- 何を片づけるか分からない。
という状態では
指示に従いにくくなります。
指示を出す前に
- 子供の近くへ行く。
- 子供に呼びかけ親を見させる
という準備をします。
指示を出した後に
環境を整えるのではありません。
行動しやすい状態を作ってから
一回だけ指示を出します。
ただしこの近い距離や分かりやすい環境も
ずっと固定するものではありません。
近くでの指示に
安定して従えるようになったら
- 少し離れた場所。
- 他の活動をしている時。
- 物の位置が変わった場面。
- 他の人からの指示。
へ広げます。
8.同じ指示を何度も繰り返さない
子供が動かないと親は
- 片づけて。
- 片づけよう。
- 早く片づけて。
- 聞こえているの。
- 片づけなさい。
と様々な指示を繰り返すことがあります。
この対応を続けると
- 最初の指示では動かなくてよい。
- 何度も言われてから動けばよい。
- 怒鳴り声が聞こえたら動けばよい。
と学習する可能性があります。
指示は一回にします。
その後は決めた時間だけ待ちます。
行動が始まらない場合は
指示を言い換え続けるのではなく
子供の体を持って正しい行動をさせます。
その後再度子供一人で行動できるか
確認します。
9.最初は従いやすい指示から始める
コンプライアンスを高めるために
- 入浴。
- 歯磨き。
- 遊びの終了。
- 難しい学習。
等の子供が避けている行動から
始めることがあります。
しかし最初から難しい指示ばかり出すと
難易度が高くなりすぎます。
最初は
- 手を上げて。
- ここに置いて。
- 一枚めくって。
- コップを渡して。
- 立って。
等の短時間で終わり
ほぼ確実にできる行動から始めます。
簡単な指示に従う行動が安定してから
- 少し長い行動。
- 好子が弱い場面。
- 避けている生活行動。
へ広げます。
10.モチベーションが高い場面から低い場面へ広げる
コンプライアンスを高めるためには
強い好子がある時だけ
指示に従わせるのではなく
少しずつモチベーションが
低い場面でも行動できるよう
習慣化する必要があります。
最初は日常の自発的な要求場面を
使います。
例えば子供が
お菓子を欲しがっている時に
「ちょうだい」
と自発的に言うことを目指します。
この場面では子供がお菓子を
欲しがっているため自発要求行動が
起こりやすくなります。
次に避けることのできない
日常生活の場面へ広げます。
例えば
- 食事前に「いただきます」と言う。
- 入浴後に「出たい」と言わせる。
等です。
このような場面では不自然なご褒美を
用意せず指示に従うと
生活が次へ進むようにします。
最後にモチベーションがない場面での
課題場面へ進みます。
例えば
- 朝親にあったら「おはよう」と言う。
- 親が出る時に「いってらっしゃい」と言う。
等です。
この段階では特にご褒美がなくても
指示を受けたら行動できることを
目指します。
順番は
- 欲しい結果がある場面で指示に従う。
- 避けられない生活場面で指示に従う。
- 日常と直接関係のない課題場面でも指示に従う。
という流れです。

11.指示に従った直後の結果を変える
子供が一回目の指示で動いても
何回も同様の指示を出してからようやく
動いても
結果が同じであればコンプライアンスは
よくなりません。
一回目の指示で動いた時には
すぐに課題が終わるけれど
できなかった場合は再度すぐにできるまで
行動をやり直すようにルールを決めます。
こうすることで一回目の指示で
行動できることが増えます。
12.拒否後に条件を良くしない
子供が課題を拒否した後に
- 一問だけでいいよ。
- 終わったらお菓子をあげる。
- 今日は特別に動画を見せる。
- 親が半分やるよ。
と条件を変えることがあります。
これを繰り返すと
- 最初の条件では動かない。
- 拒否する。
- 親が条件を良くする。
- 良くなった条件で行動する。
という流れが
作られる可能性があります。
- 課題の量。
- 親の担当。
- 子供の担当。
- 行動後の結果。
は始める前に決めます。
問題行動や拒否が
起きた後に変更しません。
13.コンプライアンスは般化と同じ意味で使われることがある
コンプライアンスは
一つの指示に一度で従えたか
だけを表すものではありません。
様々な場面で同じように指示へ従えるか
という意味で使われることがあります。
この点では
般化と同じ意味になります。
例えば子供が母親からの「座って」
という指示には従えても
- 父親。
- 先生。
- 支援者。
- 祖父母。
から同じ指示を出された時に
従えないことがあります。
この場合は座ることが
できないのではありません。
母親以外の人からの指示に従う行動が
般化していません。
コンプライアンスを確認する時は
- 一人の指示に従えるか。
- 一つの場所で従えるか。
- 一つの言い方で従えるか。
だけでは不十分です。
確認することは
- 指示する人が変わっても従えるか。
- 場所が変わっても従えるか。
- 言い方が変わっても従えるか。
- 周囲に音や人がいても従えるか。
- 好子が弱い場面でも従えるか。
- 初めて行う活動でも従えるか。
等です。
実践例
食事後に自分の食器を台所へ運ぶ行動を
教える場合です。
子供は食事が終わると
- 席を立つ。
- おもちゃの場所へ行く。
- テレビを見る。
という行動をしていました。
親が
- 食器を運んで。
- 片づけて。
- 自分の物を持ってきて。
と何度も言うと数回目の指示で
食器を運ぶことがありました。
子供は一人で
食器を持って歩くことができ
台所の置き場所も理解しています。
この場合は食器を運ぶ技能ではなく
最初の指示で行動を開始することを
教えます。
最終的な目標を食事が終わった後に
「食器を運んで」という一回の指示で
五秒以内に食器を持ち決めた場所へ置く
と決めます。
最初のステップは親が重ねた食器を運ぶ
とします。
- 食事が終わったら親は子供の近くへ行く。
- 子供がこちらを見たことを確認してから「食器を運んで」と一回だけ指示する。
- 子供が皿へ手を伸ばしたら「そうだよ」と短く伝える。
- 皿を台所へ置いたら食事が終わり動画を見ることができる
もし指示に従うことができなければ
すぐに食器を手渡し台所に
持っていくことをさせてから
再度一人でできるまでやり直します。
この条件で安定したら
- 声掛けなし。
- 親が別の場所にいる時。
- 父親から指示された時。
にも行えるか確認します。
メルマガをしています。





