自閉症児に物・写真・文字の関係を教える〜ABAのマッチング〜

自閉症児へ家庭療育を行う時に
- 「靴はどれ?」と聞かれて靴を選ぶ。
- 靴を見て同じ靴の写真を選ぶ。
- 靴の写真を見て「靴」という文字を選ぶ。
- 「水筒」という文字を見て水筒を選ぶ。
- 同じ種類の物を合わせる。
等を教えることがあります。
前の記事では文字を見て同じ文字を書く
テキスト・コピーイング
について説明しました。
今回説明するのは
ある刺激を見たり聞いたりした時に
複数の選択肢の中から対応する物を選ぶ
マッチング(matching-to-sample:MTS)
です。
例えば子供の前に
- 靴。
- コップ。
- スプーン。
があります。
- 親が「靴はどれ?」と質問する。
- 子供が3つの中から靴を選ぶ。
この場合親からの「靴はどれ?」
という音声と実物の靴との
対応関係を学習しています。
『行動分析学事典』でも
大人からの音声に対して
対応する車や電車等を選択できることが
音声刺激と視覚刺激との関係の成立として
説明されています。
目次
1.マッチングは同じ物を選ぶだけではない
マッチングというと「同じ物を探す課題」
を考えやすいです。
例えば
- 赤いコップを見せる。
- 赤いコップ・青いコップ・スプーンを並べる。
- 同じ赤いコップを選ぶ。
という課題です。
これは同一マッチングです。
『行動分析学事典』でも
見本と物理的に同じ
あるいは似ている刺激を
選択する方法が説明されています。
しかし家庭療育で使うマッチングは
同じ物を選ぶだけではありません。
例えば
- 親「靴はどれ?」
- 子供が実物の靴を選ぶ。
では音声と実物は
物理的には同じではありません。
また
- 靴の写真を見る。
- 「靴」という文字を選ぶ。
場合も写真と文字は
見た目が全く異なります。
それでも学習によって対応する関係を
作ることができます。
2.聞き手行動もマッチングとして教えられる
以前の記事では聞き手行動
について説明しました。
例えば
- 親「スプーンはどれ?」
- 子供が複数の物の中からスプーンを選ぶ。
という行動です。
この場合「スプーン」という音声と
実物のスプーンとの
対応関係が必要になります。
『行動分析学事典』でも
音声と物との対応関係を
増やしていくことで語彙を増やせることが
説明されています。
そのため家庭で行う「○○はどれ?」
という課題は言葉と物との関係を教える
マッチングとして利用できます。
3.一つしかなければ言葉を聞き分けたとは判断できない
例えば
- 机の上に靴だけがある。
- 親「靴はどれ?」と子供に聞く。
- 子供が靴を取る。
しかしこれだけでは「靴」という言葉と
実物の靴を対応させられたとは
判断できません。
目の前に靴しかないからです。
そこで
- 靴。
- コップ。
- タオル。
を並べます。
親「靴はどれ?」と聞きその中から
靴を選べるか確認します。
また毎回
- 靴は右。
- コップは中央。
- タオルは左。
という配置では「靴」という言葉ではなく
位置を覚える可能性があります。
そのため選択肢の位置は変えます。
Cooperらもマッチング課題では
選択肢の位置を変えることで
特定の位置ばかり選ぶ反応を
防ぐ方法を説明しています。
4.実物と写真を対応させる
家庭で使いやすいマッチングの一つが
実物と写真の対応です。
例えば
- 水筒。
- コップ。
- 帽子。
の実物を並べます。
- 子供へ水筒の写真を見せる。
- 子供が実物の水筒を選ぶ。
これができると
- 写真を使った予定表。
- 持ち物表。
- 収納場所の写真。
- 活動を示す写真。
等を実際の物や活動と
対応させやすくなります。
写真を見ても
それが実物を表していることが
分からない子供へ
いきなり写真だけを見せて
「これを持ってきて」としても
行動できない場合があります。
まず実物と写真との関係を教えます。
5.写真と文字を対応させる
次に写真と文字を
対応させることもできます。
例えば
- 子供へ靴の写真を見せる。
- 選択肢として靴、傘、本という文字を並べる。
- 子供が「靴」を選ぶ。
ここでは文字を声に出して読むことが
目的ではありません。
靴の写真と「靴」という文字が
対応していることを教えています。
反対に「靴」という文字を見せて
- 靴の写真。
- 傘の写真。
- 本の写真。
から靴の写真を選ぶことも教えられます。
『行動分析学事典』でも絵を見て
対応する漢字を選ぶマッチングを
日常生活へ組み込んだ研究が
紹介されています。
このような学習はテクスチュアルや
テキスト・コピーイング
等の文字学習にも
つなげることができます。
6.最初は同じ物を重ねるところから始める
マッチングがまだ難しい子供では
最初から「靴はどれ?」と3つの物から
選ばせる必要はありません。
まずは非常に分かりやすい
「同じ物と同じ物を合わせる」
ところから始めます。
例えば
お椀
- 親がお椀を一つ置く。
- 子供へ同じお椀を渡す。
- 子供が二つのお椀を重ねる。
コップ
- 親がコップを一つ置く。
- 子供へ同じコップを渡す。
- 子供が同じコップのところへ重ねる。
積み木
- 積み木を置く。
- 子供へ同じ積み木を渡す。
- 同じ積み木の上へ重ねる。
とします。
この方法では「同じ物のところへ重ねる」
ことが分かりやすくなります。
できるようになったら
- お椀とコップを離して置く。
- 子供へお椀を渡す。
- お椀のところへ置く。
とします。
さらに
- 実物と実物。
- 写真と同じ写真。
- 実物と写真。
- 写真と文字。
- 音声と実物。
というように少しずつ関係を
難しくしていきます。
最初から言葉・写真・文字を
同時に教える必要はありません。
7.何を手がかりに選んでいるかを確認する
例えば「靴」という文字を見せると
子供が毎回靴の写真を選べるとします。
しかし靴の写真だけが
- 大きい。
- 色が濃い。
- 右側にある。
- 親がその写真を見ている。
のであれば「靴」という文字との
対応関係ではなく別の刺激を
手がかりにしている可能性があります。
家庭では
- 選択肢の位置を変える。
- 写真の大きさを揃える。
- 親が正解を見続けない。
- 正答時だけ親が頷かない。
- 一つの選択肢だけ目立たせない。
ことを確認します。
何回正解したかだけではなく何を見て
正解を選んでいるのかを
確認することが重要です。
8.間違えた場合は正しい対応を教えてからもう一度行う
例えば子供へ水筒の写真を見せます。
選択肢は
- 水筒。
- コップ。
です。
子供が「コップ」を選びました。
この場合、親が
正しい「水筒」を指さす等して
対応関係を教えます。
その後選択肢を元へ戻します。
もう一度水筒の写真を見せて
今度はプロンプトなしで
「水筒」を選べるか確認します。
つまり
- 写真を見せる。
- 子供が選ぶ。
- 間違えたら正しい物を教える。
- 選択肢を元へ戻す。
- 選択肢の場所を変え同じ課題をもう一度行う。
- 一人で正解を選ばせる。
という順番です。
9.選ぶことと言葉を言うことは別
例えば子供へ犬の写真を見せます。
そして
- 犬。
- 猫。
- 電車。
という写真から同じ犬を選べるとします。
これはマッチングができています。
しかし親が「これ何?」と聞いた時に
「犬」と言えるとは限りません。
反対に犬を見て「犬」と言える子供でも
複数の選択肢から犬を選ぶ課題では
間違える場合があります。
そのため
- 対応する物を選ぶ。
- 物を見て名称を言う。
ことは分けて確認します。
『行動分析学事典』でも犬の絵を見て
対応する音声反応を行わせる場合には
選択するタイプのマッチングとは
別の反応として説明されています。
また、その言葉自体を
まだ言えない場合には
シェイピングや模倣等によって
言葉そのものを
先に教える必要があります。
10.マッチングから文字を書く行動へつなげる
前の記事では
テキスト・コピーイングを使って
文字を書く行動を
作ることを説明しました。
例えば子供が「くつ」という見本を見れば
「くつ」とひらがなで書けるとします。
さらに靴の写真を見せた時に
- 靴。
- 本。
- 傘。
から
「靴」
を選べるマッチングもできるとします。
次に
- 靴の写真や実物を見る。
- 親「これ何?書いて」
- 子供が「くつ」と書く。
という課題へ進めることができます。
この場合
- 靴と文字との対応関係。
- 「くつ」という文字を書く行動。
の両方が必要です。
先に
- 「くつ」を見て「くつ」と書ける。
- 靴を見て「靴」という文字を選べる。
ことを作っておくことで最後に靴を見て
「くつ」と書く課題へ
繋げやすくなります。
実践例
自閉症児が洗濯物を片づけます。
家庭には
- 靴下の引き出し。
- タオルの引き出し。
- 下着の引き出し。
があります。
しかし子供は洗濯物をどこへ入れるか
まだ分かりません。
まず机の上でマッチングを教えます。
最初は
- 靴下を一つ置く。
- もう一つの同じ靴下を子供へ渡す。
- 子供が同じ靴下の上へ重ねる。
タオルも同じです。
- タオルを置く。
- 同じタオルを渡す。
- 子供が重ねる。
同じ物同士を
合わせられるようになったら
次は
- 靴下。
- タオル。
を離して置きます。
子供へ靴下を渡し靴下のところへ
置けるように教えます。
それができたら実物と写真の
マッチングへ進みます。
子供へ靴下を渡し
- 靴下の写真。
- タオルの写真。
- 下着の写真。
から靴下の写真を選ばせます。
最後にそれぞれの引き出しへ
- 靴下の写真。
- タオルの写真。
- 下着の写真。
を貼ります。
実際の片づけでは
- 子供が洗濯物を一つ持つ。
- 引き出しにある写真を見る。
- 対応する写真の引き出しを選ぶ。
- 洗濯物を入れる。
- 次の洗濯物を取る。
とします。
家庭でマッチングを教える時には
- 最初は同じ実物を重ねるところから始める。
- 一つしかない物を選んだだけで理解したと判断しない。
- 選択肢の位置等で正解していないか確認する。
- 実物同士から写真、文字、音声へ少しずつ難易度を上げる。
- 間違えたら正しい対応を教えた後に一人でもう一度行わせる。
- 選択することと言葉を言うことを分ける。
- 最終的には生活の中で対応関係を使えるようにする。
ことが重要です。
参考文献
日本行動分析学会編
『行動分析学事典』丸善出版
P.A.アルバート/A.C.トルートマン著
佐久間徹・谷晋二・大野裕史訳
『はじめての応用行動分析』二瓶社
John O. Cooper
Timothy E. Heron
William L. Heward 著
中野良顯訳
『応用行動分析学 Applied Behavior Analysis 第2版』明石書店
メルマガをしています。





