日本独自のセラピー法〜フリーオペラント法〜

自閉症児へ家庭療育を行う時に
- 自分から親を見る。
- 親へ近づく。
- 声を出す。
- 相手へ働きかける。
- 自分から要求する。
- 人とのやり取りを続ける。
等を教えることがあります。
これまでの記事では
等について説明しました。
今回説明するのは
フリーオペラント法(free operant method)
です。
ただし最初に
注意したいことがあります。
フリーオペラントとフリーオペラント法は
同じ意味ではありません。
目次
1.フリーオペラントとフリーオペラント法は違う
まずフリーオペラント(free operant)は
行動分析学で使われる
一般的な専門用語です。
Cooperらはフリーオペラントについて
特定の「今反応してください」
という機会を設定されなくても
比較的いつでも自発することができ
短時間で繰り返し生起できる行動として
説明しています。
例えば
- 1分間に何語読むか。
- 一定時間に何回手を叩くか。
- 10分間に何回自発的に発声するか。
等です。
これと対になるのが不連続試行です。
例えば
- 親「これは何?」
- 子供「りんご」
という課題なら親が問題を出した時が
反応する一回の機会になります。
Cooperらも不連続試行について
特定の反応機会によって
反応が生じるものとして
フリーオペラントと対比しています。
つまりフリーオペラントは
療育方法の名前ではなく
行動がどのような条件で生じるかを表す
一般的な用語です。
一方、フリーオペラント法は佐久間徹氏が
自閉症児への指導技法につけた名称です。
そのため
- フリーオペラント
=行動分析学の一般用語。 - フリーオペラント法
=佐久間徹が開発した指導技法。
と分けて考える必要があります。
2.自由オペラント型の指導全てがフリーオペラント法ではない
さらに自由オペラント型
という言葉もあります。
『行動分析学事典』では
学習の方法論を大まかに
- 離散試行型。
- 自由オペラント型。
という二つに分けています。
つまり
自由オペラント型の指導=
佐久間氏のフリーオペラント法
という意味でもありません。
自由オペラント型
はもっと広い考え方です。
その中で佐久間氏が
- 逆模倣。
- 関わり遊び。
- 自発発声の強化。
- 時間遅延。
- マンド形成。
- ワンサウンドセンテンス法。
等を組み合わせて発展させたものが
この記事で説明するフリーオペラント法
です。
3.最初に行動するのは子供
フリーオペラント法では
- 大人が指示する。
- 子供が行動する。
- 大人が褒める。
という流れを中心にはしません。
例えば子供が親の近くで遊んでいます。
突然「あー」と声を出しました。
ここで親が「もう一回言って」
とは言いません。
親も「あー」と返します。
すると子供が親を見て再び「あー」
と発声しました。
親もまた「あー」と返します。
重要なのは
- 子供から発声する。
- 親がすぐ反応する。
という順番です。
『発達障害児の言語獲得』でもまず大人が
子供の声を真似し自分が声を出すと
相手から声が返ってくる経験を
作ることが説明されています。
4.子供の行動を大人が真似する
フリーオペラント法で特徴的なのが
子供の行動を大人が真似することです。
例えば
- 子供が手を叩く。→親も手を叩く。
- 子供がジャンプする。→親もジャンプする。
- 子供が「ばー」と発声する。→親も「ばー」と返す。
という方法です。
これは親が「真似して」と指示を出して
子供が親を真似する
という方法とは順番が反対です。
最初は大人の方が子供を真似します。
このような方法を逆模倣と言います。
5.一人遊びを人とのやり取りへ広げる
例えば子供が一人でトランポリンを
跳んでいます。
親は同様に一緒に跳びます。
子供が「あー」と発声したら
親も「あー」と返します。
すると
- 子供が親を見る。
- もう一度発声する。
- 親の反応を確認する。
- 再びジャンプする。
等の行動が起こることがあります。
一人で行っていた遊びに
- 人を見る。
- 人へ発声する。
- 人の反応を確認する。
- 再び働きかける。
という行動が加わっていきます。
6.人との関わりが好子になることが重要
フリーオペラント法では
人との関わりそのものが
好子になることが重要です。
例えば
- 追いかけっこ。
- トランポリン。
- 一緒にジャンプする。
- 声を真似し合う。
- くすぐり。
- 身体を使った遊び。
等です。
ただし親が楽しく遊んでいるつもりでも
それが子供にとってご褒美=好子
になっているとは限りません。
親が一緒に遊んだ後に
- また親へ近づく。
- 親を見る。
- 同じ行動を繰り返す。
- 再び発声する。
- 親へ働きかける。
等が増えればその関わりが
好子として機能していると
考えられます。
反対に
- 親が近づくと離れる。
- 親が真似すると遊びをやめる。
- 別の場所へ移動する。
のであれば別の関わり方を
考える必要があります。
7.伸ばしたい子ほど使いづらい場合がある
フリーオペラント法の難しいところですが
そもそも自閉症児で
- 他者への興味が少ない。
- 人へ近づくことが少ない。
- 人を見ることが少ない。
- 一人遊びが中心になっている。
- 人との遊びが続かない。
という子供ほど人との関わりを
増やしたい場合があります。
しかしそのような子供では
そもそも人との関わり遊びが好子として
機能しにくいことがあります。
『行動分析学事典』でも自閉症児では
抱っこやくすぐり等の社会的な刺激が
好子として機能しないことが多いと
説明されています。
つまり人との関わりが
既に好子になっている子供では
フリーオペラント法を
使って教えやすい一方
他者への関心を特に伸ばしたい子供ほど
人との関わりを好子にすること自体から
始める必要がある場合があります。
8.大人側にもかなりの活動量が求められる
フリーオペラント法は親がかなり積極的に
子供へ関わります。
- 子供が走れば一緒に走る。
- ジャンプすれば一緒にジャンプする。
- 声を出せばすぐに声を返す。
- 遊びを変えればそれについていく。
という関わりを行うことがあります。
『発達障害児の言語獲得』では
あいちゃんの発声に合わせて
セラピストが
トランポリンで遊ぶ場面が
紹介されています。
「アー」
「イヒー」
「トフ」
等の発声がトランポリンを跳ぶたびに
起こるようになります。
そしてその途中で
セラピストの体力が続かず
別のセラピストへ交代しています。
交代後も同様の関わりを行うことで
発声が続いています。
9.支援では使いやすく家庭で長時間行うのは難しい
ここからは文献そのものの定義ではなく
家庭療育としての私の考えです。
支援者が
- 30分。
- 1時間。
等の比較的短い限られた時間に
子供との関わりだけに
集中できるのであれば
フリーオペラント法は
使いやすい方法だと考えます。
一方家庭では長時間子供と一緒にいますが
その中で子供の一挙一動へすぐ反応し
- 走ったら走る。
- 跳んだら跳ぶ。
- 発声したら返す。
という関わりを長時間続けることは
かなり難易度が高くなります。
実際の書籍の事例でもセラピストが
体力の問題から途中で交代しています。
家庭では一日中行う方法ではなく
親が集中して関われる短い時間に行う方が
現実的だと考えます。
10.まず自発的な発声を増やす
言葉がほとんどない自閉症児の場合
最初から
- 「真似して、電車」
- 「真似して、ちょうだい」
等の完成した言葉を
音声模倣させることは難しいです。
まず
- 「あー」
- 「うー」
- 「ば」
等の子供から出る発声そのものを
増やします。
ただし発声であれば
何でも良い訳ではありません。
- 奇声
- 裏声
- 怒声
等は癇癪等と区別が難しい場合もあるので
- 低い声
- 地声
- 短音
を狙って増やしていきます。
11.発音が難しい場合はワンサウンドセンテンス法を使う
発声は増えてきても一語をきれいに
発音することが難しい子供もいます。
そこで
ワンサウンドセンテンス法(one sound sentence)
という方法があります。
これは
一語文を言うことがまだ難しい子供に
一つの音を意味のある言葉として
利用する方法です。
例えば子供が電車を要求する時に
「電車」とはまだ発音できません。
しかし電車を見ながら自分から「で」
と発声できるとします。
この「で」の直後に電車を渡します。
すると「で」という一音が
電車を得るための機能的な発声として
使われるようになる可能性があります。
分かりやすくなります。
12.一音文から少しずつ適切な言葉へ近づける
ワンサウンドセンテンス法はずっと「で」
で電車を要求させる方法ではありません。
例えば「で」が安定したら
- 「でん」
- 「でんしゃ」
と本人の発音能力に合わせて少しずつ
適切な発声へ近づけます。
これはシェイピングと同様です。
まずは今できる発声で
- 自分から声を出す。
- 相手へ伝わる。
- 良い結果が得られる。
という経験を作ります。
13.DTTとは行動が始まる順番が大きく違う
フリーオペラント法は
離散試行型指導法(DTT)と比較すると
分かりやすくなります。
DTTでは
- 大人が指示や課題を出す。
- 子供が反応する。
- 正反応を強化する。
という流れが基本になります。
一方
フリーオペラント法では
- 子供から行動する。
- 大人がそれへ反応する。
という流れを重視します。
14.フリーオペラント法から考えるDTTの問題点
『発達障害児の言語獲得』では
DTTの問題を大人が
- 課題を出す。
- 正答させる。
- 訂正する。
という関係だけが強くなり
子供の自発行動が
増えない場合があると指摘しています。
例えば
- 親「真似して、電車」
- 子供「電車」
を何度できても実際に電車が必要な時に
自分から「電車」と言わないのであれば別の指導が必要です。
一方、まだ新しい行動そのものを
持っていない場合には
- DTT
- シェイピング
等を利用しての指導が
有効な場合があります。
また『行動分析学事典』では佐久間氏の
フリーオペラント法自体にも
- 時間遅延。
- マンド形成。
- エコーイック形成。
- SSP。
- マンド・モデル法。
等が含まれていると説明されています。
つまりフリーオペラント法も一切大人から
教えない方法ではありません。
15.フリーオペラント法とワンサウンドセンテンス法を組み合わせる
二つの方法はどちらか一つを
選ぶものではありません。
例えばほとんど発声しない
自閉症児がいるとします。
まずフリーオペラント法によって
- 大人が子供の声を真似する。
- 一緒に遊ぶ。
- 子供から発声した時にすぐ反応する。
ことで自発的な発声を増やします。
その結果
- 「あ」
- 「う」
- 「め」
等の様々な発声が
増えてきました。
次に要求場面で使われる「と」という音に
特定の意味を持たせます。
ここでワンサウンドセンテンス法
を使います。
- 「と」
- 「とら」
- 「トランポリン」
とシェイピングしていきます。
つまり
- 自発的な発声を増やす。
- 一音に意味を持たせる。
- 一語へ近づける。
という形で組み合わせることができます。
16.家庭では一つの方法だけにこだわらない
家庭療育ではフリーオペラント法だけで
全てを教える必要はありません。
例えば
- 自発的な発声が少ないならフリーオペラント法。
- 発声はあるが一語の発音が難しいならワンサウンドセンテンス法。
- 発音をより適切にしたいならシェイピング。
- 自分から要求するものの適切な言葉を知らないならマンド・モデル法。
- 言葉自体は言えるのに親のプロンプトを待つなら時間遅延法。
- まだ標的行動そのものをほとんどできないならDTT。
というように現在の行動に合わせて
方法を変えます。
実践例
自閉症児が
風船を使って一人で遊んでいます。
子供は風船を上へ投げて
落ちてくるのを見ています。
親は子供が風船を上へ投げたら
親も近くにある
別の風船を上へ投げます。
子供が「おー」と発声したら
親も「おー」と返します。
子供が風船を頭に乗せたら
親も自分の頭に風船を乗せます。
すると子供が親を見てもう一度
風船を頭に乗せました。
親もすぐ同じ行動をします(逆模倣)。
その後子供が
- 親を見る。
- 親の近くへ来る。
- 親の動きを確認する。
- 自分から発声する。
- 親が真似するのを待つ。
等の行動をするようになったとします。
この場合最初は一人で行っていた
風船遊びの中に
- 人を見る。
- 人へ働きかける。
- 人の反応を確認する。
- やり取りを繰り返す。
という行動が加わっています。
さらに子供が風船を親へ渡して
自分から「ふ」
と発声するようになったとします。
状況から「風船で遊んで」という意味で
使われているのであればこの「ふ」を
機能的な一音として利用できます。
ここから
- 「ふ」
- 「ふう」
- 「ふうせん」
等へ少しずつ近づけていけば
ワンサウンドセンテンス法や
シェイピングを使用して
言葉を教えられます。
参考文献
石原幸子・佐久間徹
『発達障害児の言語獲得
応用行動分析的支援
(フリーオペラント法)』二瓶社
佐久間徹
『広汎性発達障害児への応用行動分析
(フリーオペラント法)』
日本行動分析学会編
『行動分析学事典』丸善出版
P.A.アルバート/A.C.トルートマン著
佐久間徹・谷晋二・大野裕史訳
『はじめての応用行動分析』二瓶社
John O. Cooper
Timothy E. Heron
William L. Heward 著
中野良顯訳
『応用行動分析学 Applied Behavior Analysis 第2版』明石書店
メルマガをしています。





