自閉症児が間違った手がかりで覚えてしまう〜ABAの刺激の過剰選択制〜

自閉症児へ家庭療育を行う時に
- 「靴はどれ?」と聞かれて靴を選ぶ。
- 自分の名前のカードを選ぶ。
- 文字を読む。
- 写真を見て予定を確認する。
- 音声指示を聞いて行動する。
等を教えることがあります。
子供が正解できるようになると
- 「この言葉を理解した」
- 「この文字を覚えた」
と考えやすくなります。
しかし実際には
親が教えようとしたものとは
別の部分を手がかりにして
正解している場合があります。
例えばマッチングで
- 靴。
- コップ。
- タオル。
を並べ親が「靴はどれ?」と聞きます。
毎回靴を右側へ置いていたため
子供が右側の物を
選べるようになったとします。
見た目では毎回正解しています。
しかし「靴」という音声ではなく
「右側にある物」が行動の手がかりに
なっている可能性があります。
ABAではある刺激がある時に
特定の行動が起こりやすくなる関係を
刺激性制御(stimulus control)
として考えます。
また複数ある刺激の中から
限られた部分だけを手がかりにして
行動してしまうことを
刺激の過剰選択性(stimulus overselectivity)
と呼びます。
『はじめての応用行動分析』では
刺激全体ではなく
刺激の一部だけに反応する傾向として
説明されています。
目次
1.正解しただけでは何を覚えたか分からない
例えば
- 靴を右に置く。
- コップを中央に置く。
- タオルを左に置く。
- 親「靴はどれ?」
- 子供が右側の靴を選ぶ。
という課題を10回行いました。
子供は10回とも正解しました。
しかし毎回靴が右側にあるのであれば
- 「靴」という音声。
- 靴の形。
- 右という位置。
のどれを手がかりに
選んでいるのか分かりません。
2.マッチングでは位置を覚えやすい
前の記事で説明したマッチングでは
複数の物から正しい物を選ばせます。
この時に注意したいのが
選択肢の位置です。
例えば毎回
- 靴は右。
- コップは中央。
- タオルは左。
にすると子供は物を見分けなくても
「靴はどれ?」と聞かれた時に
右側を選べば正解できます。
Cooperらもマッチング課題では
選択肢の配置を変えることで
特定の位置ばかりを選ぶ
位置反応を防ぐ方法を説明しています。
そのため家庭でも正解の位置を変えます。
3.選択肢の場所は子供に見られないように変える
ただし選択肢を子供が見ている前で
入れ替えないようにします。
例えば
- 「靴はどれ?」で靴を選ぶ。
- 親が子供の目の前で靴を右から左へ動かす。
- 次の課題を行う。
とした場合、子供は「靴が左へ移動した」
ところを見ています。
そのため次に靴を選べたとしても
「靴」という言葉ではなく
「さっき移動した先」
を覚えている可能性があります。
私の方法では
- 選択肢を子供の見えない机の下に下げる。
- 選択肢の場所を変えて置く
等の方法を使います。
重要なのは位置を変えること自体が
新しい手がかりに
ならないようにすることです。
4.親も正解の選択肢を見ない
親自身が子供にとっての手がかりに
なることもあります。
例えば
親「靴はどれ?」と聞いた直後に
親が無意識に靴を見ていたとします。
すると子供は「靴」という音声よりも
「親が見ている物」を選ぶようになる
可能性があります。
同じように
- 正解へ顔を向ける。
- 正解へ身体を向ける。
- 正解へ手を少し動かす。
- 正しい物へ手を伸ばした時だけ頷く。
- 正解へ手を伸ばした時だけ表情を変える。
等も手がかりになります。
そこで指示を出した後は親も選択肢を
見ないようにします。
例えば
- 親「靴はどれ?」
- 親は子供を見る。
- 子供が一つ選び「できた」と報告する。
- 選び終わってから親が正誤を確認する。
とします。
正解を知っている親が無意識に答えを
教えない工夫が重要です。
5.異なる質問を2回連続で正解するまで確認する
一回正解しただけでは
たまたま正しい物を
選んだ可能性もあります。
例えば3つの選択肢から
一つを選ぶ課題なら
内容を理解していなくても
3分の1の確率で
偶然正解することがあります。
そのため私の方法では
異なる質問を2回連続で正解する
ことを一つの基準にします。
例えば
1問目
- 親「靴はどれ?」
- 子供が靴を選ぶ。
次に子供から見えないように
選択肢の場所を変えます。
2問目
今度は別の物を聞きます。
- 親「コップはどれ?」
- 子供がコップを選ぶ。
これも正解です。
ここまでできれば一回たまたま
正しい物を選んだ可能性を
下げることができます。
反対に
- 「靴はどれ?」→正解。
- 「コップはどれ?」→不正解。
であればまだ言葉と物との関係が
安定しているとは判断しません。
正しい対応を教えた後
子供に見られないように位置を変え
再度確認します。
この「異なる質問を2回連続で正解する」
という基準は一回の偶然正答を
「できた」と判断しないための
家庭での工夫です。
6.文字の一部分だけを覚えていることがある
例えば子供へ「くつ」という文字を
読ませていたとします。
子供は毎回「くつ」と読めます。
しかし実際には最初の「く」だけを見て
「くつ」と答えている可能性があります。
その場合
- くま。
- くし。
- くるま。
等を見せても「くつ」
と答えることがあります。
『はじめての応用行動分析』でも
単語全体ではなく語頭の文字等
刺激の限られた特徴だけへ反応すると
似た刺激が出てきた時に
正しく弁別できなくなる例が
説明されています。
テクスチュアルで
一つの単語を正しく読めたとしても
単語全体を
手がかりにしているとは限りません。
7.文字カードはできるだけシンプルにする
文字を教える時には
教材そのものにも注意します。
例えば「くつ」という文字カードに
- 靴のイラスト。
- 緑色の背景。
- 特徴的な枠。
- 靴だけに使っているマーク。
等が一緒についていたとします。
子供がカードを見て「くつ」
と答えられるようになっても
実際には文字ではなく
- 靴の絵。
- 緑色。
- 枠の形。
- マーク。
を手がかりにしている可能性があります。
マクドナルドのマークを見て
「マクドナルド」と言っているのと
変わらないです。
そのため文字そのものを
覚えさせたい場合にはできるだけ
- 白い背景。
- 黒い文字。
- 同じ文字サイズ。
- 同じ書体。
- 同じ大きさのカード。
にします。
例えば
- くつ。
- くま。
- くし。
を教えるなら
3枚とも
同じ形式にします。
違うのは
文字だけです。
- 「くつ」だけ靴の絵を付ける。
- 「くま」だけ茶色の背景にする。
- 「くし」だけ青い枠にする。
という作り方は避けます。
文字を教えているつもりでも
別の特徴だけを覚えて
正解できるからです。
文字カードでは
「何を見て答えてほしいのか」
以外の情報を
できるだけ入れないようにします。
8.写真でも関係のない部分を覚えることがある
例えば予定表で
- 公園の写真。
- お風呂の写真。
- 食事の写真。
を使っているとします。
しかし
- 公園の写真だけ緑色の枠。
- お風呂だけ青色の枠。
- 食事だけ赤色の枠。
にしていたとします。
子供が
- 緑を見ると公園へ行く。
- 青を見ると浴室へ行く。
- 赤を見ると食卓へ行く。
ようになったとします。
写真を理解しているように
見えます。
しかし実際には写真の内容ではなく
枠の色を手がかりにしている
可能性があります。
写真カードでも学習してほしい部分と
関係のない情報をできるだけ減らします。
9.音声指示ではなく場面を見ている場合もある
以前の聞き手行動でも
説明しました。
例えば
- 食事が机へ並んでいる。
- 家族が食卓へ集まっている。
- 椅子が空いている。
という時に
- 親「座って」と言う。
- 子供が座る。
と言う場合、「座って」
という音声を聞いて
座ったとは限りません。
食事が並んでいるという周囲の状況を見て
座った可能性もあります。
つまり実際の生活では
- 音声。
- 親の動き。
- 物の位置。
- 時間。
- 周囲の状況。
等、複数の刺激が
同時に存在しています。
その中のどれが
行動を起こしているのかが
わからないことがあるのです。
10.刺激の過剰選択性は「何も分かっていない」という意味ではない
例えば子供が自分の名前「たなか たろう」
というカードを選べるとします。
しかし本人のカードにだけ
緑色の枠がついていました。
枠をなくしたら自分の名前を
選べなくなりました。
この場合「名前が全く分からない」
と考えるのではなく
これまで文字よりも緑色の枠が選択行動を
強く制御していたと考えます。
必要なのは「たなか たろう」
という文字自体が選択するための
手がかりになるように
教えていくことです。
実践例
自閉症児が
- 水筒。
- 連絡帳。
- 筆箱。
の文字カードを見て
対応する物を選ぶ練習をしています。
最初に作ったカードでは「水筒」
のカードにだけ水筒の小さなイラストが
描いてありました。
子供は「水筒はどれ?」と聞かれると
正しく水筒のカードを選べます。
そこで確認のため水筒の絵を
別の文字カードへ移します。
すると子供が
そのカードを選びました。
この場合「水筒」という文字ではなく
水筒の絵が選択行動を
制御していた可能性があります。
そこでカードを作り直します。
全て
- 白い背景。
- 黒い文字。
- 同じ大きさ。
- 同じ書体。
- イラストなし。
にします。
そして
- 水筒。
- 連絡帳。
- 筆箱。
を並べます。
親「水筒はどれ?」と聞きます。
親はカードを見ないようにします。
子供が「水筒」「連絡帳」を選べたら
正しく理解している可能性が高いです。
このように
- 文字カードのデザイン。
- カードの位置。
- 親の視線。
- 一回だけの偶然正答。
等をできるだけ排除して本当に
- 「水筒」
- 「連絡帳」
- 「筆箱」
という文字や音声が子供の選択行動を
制御しているか確認します。
家庭療育では
- 正解率だけで理解したと判断しない。
- 位置・色・絵・枠等で正解していないか確認する。
- 文字カードはできるだけシンプルにする。
- 選択肢の位置は子供に見られないように変える。
- 親も正解の選択肢を見ない。
- 異なる質問を2回連続で正解できるか確認する。
- 間違えたら正しい行動を教えた後に一人でもう一度行わせる。
ことが重要です。
参考文献
日本行動分析学会編
『行動分析学事典』丸善出版
P.A.アルバート/A.C.トルートマン著
佐久間徹・谷晋二・大野裕史訳
『はじめての応用行動分析』二瓶社
John O. Cooper
Timothy E. Heron
William L. Heward 著
中野良顯訳
『応用行動分析学 Applied Behavior Analysis 第2版』明石書店
メルマガをしています。





