自閉症児をきょうだいの集団の中で育てる〜ABAの集団随伴性〜

自閉症児が
兄弟や他の子供と一緒にいる時に
- 全員で片づける。
- 順番に準備する。
- 決められた時間まで静かに過ごす。
- それぞれ自分の課題を終える。
等、複数の子供へ
同時に行動を求めることがあります。
一人ずつ
- 「片づけて」
- 「座って」
- 「準備して」
と指示して
一人ずつ結果を与えることもできます。
一方で
- 誰か一人。
- 一部の子供。
- 集団全体。
の行動によって複数の子供に同じ結果を
与える方法もあります。
ABAではこのような方法を
集団随伴性(group contingency)
と呼びます。
『行動分析学事典』では
2人以上の集団で行う活動において
- 特定のメンバー。
- 特定のグループ。
- 集団全体。
の行動や遂行結果によって
集団へ強化を随伴させる方法として
説明されています。
Cooperらも
- 一人の行動。
- 集団の一部の行動。
- 集団全員の行動。
のいずれかを条件として
集団へ共通の結果を
与える方法と説明しています。
『はじめての応用行動分析』でも
個人へ好子を与える方法だけでなく
グループ全体の遂行によって
全員へ好子を与える方法が
説明されています。
学校で使用されることが
多い方法ですが家庭でも
- 兄弟。
- 親子。
- 家族全体。
で同じ活動をする時に
考えることができます。
ただし家庭療育では
一人の自閉症児の行動によって
兄弟全員が不利益を受ける
という使い方には特に注意が必要です。
目次
1.集団随伴性には3つの種類がある
Cooperらは集団随伴性を
- 独立型集団随伴性
- 依存型集団随伴性
- 相互依存型集団随伴性
に分けています。
簡単に言えば独立型では同じルールを
複数の子供へ伝えますができた子供だけが
好子を得ます。
依存型では特定の一人や
一部の子供ができたかによって
全員が好子を得られるか決まります。
相互依存型では全員または
集団全体が基準を達成した時に
全員が好子を得ます。

2.家庭では独立型から考えた方が使いやすい
独立型集団随伴性では
全員へ同じ条件を伝えても
結果は一人ずつ決まります。
例えば兄弟3人へ
「自分の食器を片づけたら自由時間」
と伝えたとします。
- 長男が片づければ長男は自由時間。
- 次男が片づければ次男も自由時間。
- 自閉症児がまだ片づけていなければ
その子だけ片づけを続ける。
兄弟の結果は他の子供の行動に
左右されません。
Cooperらも独立型について集団全員へ
同じ随伴性を提示する一方
基準を満たした人だけに
強化を与える方法としています。
家庭ではこの形の方が
「弟ができなかったせいで自分までできなくなった」
という状態を作りにくくなります。
特に兄弟間で
- 年齢。
- 発達段階。
- 能力。
が違う場合は最初に考えやすい方法です。
3.依存型では一人の行動によって全員の結果が決まる
依存型集団随伴性では特定の一人や
一部の子供の行動によって
集団全員の結果が決まります。
例えば
「A君が10分間席に座っていられたら兄弟全員で動画を見られる」
という方法です。
A君ができれば全員が動画を見られます。
できなければ全員が見られません。
『行動分析学事典』でも特定メンバーや
特定グループの遂行によって
集団全員の強化が決まる方法と
説明されています。
この方法によって他の子供から
「頑張って」「あと少し」
等の適切な働きかけが
増えることがあります。
一方でできなかった子供に
- 「お前のせいだ」と怒る。
- 責める。
- 無理やり行動させる。
等の問題が起きる可能性もあります。
そのため家庭では
基本的には使わない方が良いです。
4.自閉症児一人の問題行動で兄弟全員へペナルティを与えない
例えば
「弟が癇癪を起こしたら今日は全員ゲームなし」
というルールを作ったとします。
弟が癇癪を起こすと兄や姉まで
ゲームができなくなります。
すると兄弟にとって弟の癇癪を
止めさせる必要ができます。
結果として
- 「うるさい」
- 「泣くな」と叱る。
- 無理やり押さえる。
- 弟を避ける。
等、望ましくない行動が
起きる可能性があります。
『行動分析学事典』でも依存型では
特定メンバーを明示することによる
倫理的な問題が指摘されています。
また集団随伴性では
基準を達成できなかった人に対して
仲間から脅す、威圧する
等のネガティブな働きかけが
生じることも報告されています。
Cooperらも仲間からの圧力によって
特定の人がスケープゴートになる可能性を
指摘しています。
家庭では
自閉症児の問題行動を減らすために
兄弟へ監視させる
という使い方は避けましょう。
5.相互依存型では全員が基準を達成すると全員が強化される
相互依存型集団随伴性では
全員または集団全体が
決められた基準を達成すると
全員が好子を得ます。
例えば家族で片づけをする時に
- 一人目は玩具を箱へ入れる。
- 二人目は本を本棚へ戻す。
- 三人目はクッションを戻す。
と役割を決めます。
全員の担当が終わったら
次の家族活動へ進みます。
『行動分析学事典』では
集団全体の遂行結果や達成基準によって
全員へ同じ強化随伴性が適用される方法と
説明されています。
この方法では
- 一緒に活動する。
- 他の人を手伝う。
- 声をかける。
等の行動が増えることがあります。
しかしこれも一人だけ毎回
達成できない状態にするとその子供が
責められる可能性があります。
6.全員へ同じ難易度を求める必要はない
兄弟が複数いる場合
- 同じ年齢。
- 同じ発達段階。
- 同じ能力。
とは限りません。
例えば
小学生の兄には
- 食器を運ぶ。
- テーブルを拭く。
- ゴミをまとめる。
まで求められても幼い自閉症児には
- 自分のコップを流しへ持っていく
だけが適切な場合があります。
集団随伴性だからといって全員へ
- 同じ量。
- 同じ難易度。
- 同じ時間。
を求める必要はありません。
『行動分析学事典』でも
障害の状態等に応じて
適切な集団随伴性を
選択する必要があることが
説明されています。
家庭ではそれぞれが
現在一人でできる行動を基準にします。
7.まず一人でできるようにしてから集団へ入れる
集団随伴性を使ったからといって
まだできない行動が
できるようになるわけではありません。
例えば自閉症児が一人では
玩具を箱へ入れられないのに
「兄弟全員で片づけられたら次へ進もう」
と決めても本人には難しいままです。
先に
- 親から指示されれば行動できる。
- 一人で必要な行動を行える。
- 簡単なルールに従える。
という状態を作ります。
その後兄弟と一緒に
同じルールで行動する練習へ移します。
『行動分析学事典』でも仲間からの援助が
うまく機能する条件として
- 必要な援助スキルが既に存在すること。
- 集団随伴性の仕組みを理解できること。
- 事前の個別支援。
等が挙げられています。
家庭でも集団で教える前に
個人でできる状態を
作ることを優先します。
8.兄弟を療育者にしない
集団随伴性では他の子供からの
- 声かけ。
- 援助。
- 励まし。
が増えることがあります。
これは利点の一つです。
『行動分析学事典』でも
仲間への援助や励まし等の
ポジティブな働きかけが
促進される可能性が説明されています。
しかし家庭では
- 「弟ができるようにお兄ちゃんが教えて」
- 「妹が癇癪を起こさないように見ていて」
等、兄弟へ療育そのものを
任せないようにします。
兄弟は親や支援者ではありません。
自然に手伝うことはあっても
自閉症児の問題行動を
管理する責任まで
持たせないようにします。
9.家庭では自然な好子を優先する
集団随伴性では
- シール。
- ポイント。
- お菓子。
- 動画。
- 特別な遊び。
等を好子として
使用することがあります。
しかし家庭療育では
このような不自然な好子を
毎回用意する必要はありません。
例えば
- 家族全員が外出準備を終える→外出する。
- 食事後にそれぞれ自分の物を片づける→食事が終了して自由時間になる。
- 入浴の準備をする→お風呂へ入る。
というように生活では行動した後に
自然に次の活動へ進むことがあります。
このように生活の流れの中で
行動に伴って得られる結果を
自然な好子として利用します。
一方で
- 片づけたらお菓子。
- 準備したらシール。
- 食器を運んだらポイント。
等、本来その行動とは
直接関係のない好子を
追加する方法もあります。
このような好子は家庭療育では
不自然な好子として考えます。
不自然な好子を使えば最初は行動を
増やしやすいことがあります。
しかし長期間続けると
- 好子がなければ行動しない。
- 同じ好子に飽きる。
- より強い好子が必要になる。
- 好子をやめることが難しくなる。
という問題が起きることがあります。
そのため家庭ではまずその行動の後に
自然に起きる結果を好子として
利用することをまず考えます。
集団随伴性を使うために
- 新しいお菓子。
- 新しい玩具。
- 大量のポイント。
等の不自然な好子を追加することから
始める必要はありません。
10.最初は達成しやすい基準にする
例えば兄弟3人が片づけをする場合に
最初から
「全員が部屋を完璧に片づけるまで終了しない」
とすると失敗しやすくなります。
最初は
- 一人は玩具を5個箱へ入れる。
- 一人は本を3冊戻す。
- 一人は自分の服をカゴへ入れる。
等、全員がほぼ確実に
達成できる基準にします。
集団随伴性では一人の失敗が
他の子供の結果にも
影響することがあります。
そのため個別支援以上に最初の基準を
達成しやすくすることが重要です。
安定してから
- 行動量。
- 時間。
- 担当範囲。
等を少しずつ増やします。
11.問題行動への対応を兄弟全員への罰に変えない
例えば一人の子供が
- 物を投げる。
- 親を叩く。
- 大声を出す。
という問題行動を起こしたとします。
そのたびに
「誰か一人でも騒いだら全員テレビなし」
とすると問題行動への対応と
集団へのペナルティが一緒になります。
問題行動については
その行動の機能を確認(機能分析)し
等、本人への支援を別に行います。
家庭で集団随伴性を使うなら
家族全員で行う簡単な生活行動等から
使用した方が扱いやすくなります。
- 強い自傷。
- 激しい他害。
- 危険な飛び出し。
等を兄弟全体への集団随伴性だけで
改善しようとしません。
12.最終的には特別な集団ルールがなくても行動できる状態を目指す
最初は「全員ができたら次へ進む」
というルールが
必要な場合があります。
しかし最終的には
- 家族で食事が終わったらそれぞれ片づける。
- 外出時間になったらそれぞれ準備する。
- 寝る時間になったらそれぞれ寝る準備をする。
等、特別な集団ルールを毎回伝えなくても
生活を進められることを目指します。
集団随伴性を続けること自体が
目的ではありません。
家族の中で必要な行動が
習慣化したらルールを減らします。
最終的には生活の中にある
自然な好子によって
行動が維持される状態を目指します。
実践例
兄弟3人が夕食後に自分が使った物を
片づけることにしました。
これまでは親が
- 「お皿持っていって」
- 「コップも忘れているよ」
- 「テーブル拭いて」
等、一人ずつ何度も指示していました。
自閉症児は親から言われれば
自分のコップと皿を
流しまで持っていけます。
他の兄弟もそれぞれ自分の片づけは
一人でできます。
そこで最初は独立型集団随伴性
に近い方法を使います。
全員へ
「自分の食器を片づけたら食事終了」
と伝えます。
それぞれ自分の食器を片づけた子供から
食卓を離れます。
一人が片づけなかったとしても
他の兄弟まで待たせません。
これによって
「弟が片づけないから自分まで遊べない」
という状態を作らないようにします。
また
- 片づけたらシール。
- 片づけたらお菓子。
等の不自然な好子は
最初から使用しません。
- 食器を片づける。
- 食事が終了する。
- 自由時間へ進む。
という生活の中にある
自然な好子を利用します。
全員が自分の担当を安定して
行えるようになった後に
家族全体で行う活動では
相互依存型を使うこともできます。
例えば
- 一人は食器を流しへ運ぶ。
- 一人はテーブルを拭く。
- 一人は調味料を戻す。
- 全員の担当が終わったら夕食の片づけを終了する。
とします。
ここでも自閉症児だけ毎回できない状態に
しないことが重要です。
できない場合は兄弟に「手伝ってあげて」
と責任を負わせるのではなく親と一緒に
その行動を個別に練習します。
最終的には「みんなできたら」
と毎回言われなくても食事が終わったら
それぞれが自分の担当を行い家族全体で
次の生活へ進めることを目指します。
集団随伴性は兄弟を使って
自閉症児を行動させる方法では
ありません。
一人ずつ対応するよりも家族や集団で
共通のルールを利用した方が
行動を教えやすい場面で
使用する方法です。
特に家庭では一人の失敗によって
他の兄弟まで不利益を受ける状態を
必要以上に作らないことが重要です。
参考文献
日本行動分析学会編
『行動分析学事典』丸善出版
P.A.アルバート/A.C.トルートマン著
佐久間徹・谷晋二・大野裕史訳
『はじめての応用行動分析』二瓶社
John O. Cooper
Timothy E. Heron
William L. Heward 著
中野良顯訳
『応用行動分析学 Applied Behavior Analysis 第2版』明石書店
メルマガをしています。





