自閉症児と遊びのルールを確認する〜ABAの行動契約〜

自閉症児へ家庭療育を行う時に
- おもちゃを交代で使う。
- 自分の順番が来るまで待つ。
- 人が使っている物を取らない。
- 遊びの道具を投げない。
等を教えることがあります。
親がその都度注意していても
子供が何をすればよいのか
何をしてはいけないのかを
整理できていないことがあります。
文字で書かれた内容が分かる子供なら
始める前に約束を確認し
必要な時に読み返す方法が使えます。
行動分析学事典の552〜553ページでは
目標とする行動の達成に向けて
支援者と本人が契約する方法を
行動契約(随伴性契約)
と説明しています。
何をしたらどのような結果が得られるかを
双方で合意し書面等に残します。
書籍では、文字だけでなく
絵や写真を使う方法も説明されています。
前回の言行一致訓練では活動を終えた後に
実際にしたことを報告する練習を
扱いました。
今回は活動を始める前にその場のルールと
守った時にどうなるかを確認します。
目次
1.文字を理解できない子供には無理に使わない
文字を読んで意味を理解することが
まだ難しい子供には
行動契約を無理に使う必要はありません。
文字を音読できても
書かれている行動や条件が分からなければ
約束を理解したことにはなりません。
行動分析学事典の552ページでは
最低限の識字能力が必要とされています。
一方、クーパーらの
応用行動分析学の913ページでは
読む力を必須とはしていません。
絵や写真、口頭で伝えたルール等を使い
本人の力に合わせる方法
が説明されています。
ただし示されたルールに沿って
行動できることが前提です。
したがって文字を理解できない子供には
一律に使えないという意味
ではありません。
ここでは私の方針として無理に導入せず
実際の場面で必要な行動を教えることを
優先します。
これはシール等をためてご褒美と交換する
トークンシステムと同じ考え方です。
文字を理解できる子供に対しても
口頭の説明で分かって行動できるなら
毎回契約書を作る必要はありません。
2.自然に強化されない行動には使わない
私の家庭療育では
日常場面で自然に強化されない行動に
特別なご褒美を結び付ける行動契約は
使いません。
ここでいう自然強化は
別に用意したご褒美ではなく
その活動の中で得られる結果によって
行動が増えたり
維持されたりすることです。
はじめての応用行動分析
の206〜207ページでも
人為的な強化子への依存を減らし
自然な強化子で行動が続くように
強化の頻度を段階的に減らす方法が
説明されています。
例えば親とおもちゃを交代で使う場面です。
子供が使い終えて親へ渡すと
親も使い終えた後に返してくれます。
そのやり取りによって
一緒に遊び続けられます。
遊びを続けられることによって
交代する行動が増えるなら
活動の中で自然に強化されていると
考えられます。
一方、宿題をしたらお菓子を渡す等
その行動とは別のご褒美を
契約によって付け足す使い方はしません。
行動契約を使う場合も
禁止事項や遊びのルールを確認し
その活動に参加する条件を
分かりやすくする範囲にとどめます。
3.することと禁止事項を具体的に書く
約束は実際の行動を見て
守れたか確認できる内容にします。
例えば親とボールを転がし合う遊びなら
- ボールが来たら相手へ転がす。
- 相手が持っているボールを取らない。
- ボールを人に向かって投げない。
等です。
仲良く遊ぶという言葉だけでは
子供が何をすればよいのか
分からないことがあります。
禁止事項と一緒に
代わりに何をするかも書きます。
はじめての応用行動分析の198ページでも
契約はするべき行動を示す
肯定的な文言で書くこと
が勧められています。
その上で交代で転がし合うことで
一緒に遊びを続けられること
を確認します。
親だけが条件を決めて
読み上げるのではなく
子供も内容を理解し
双方が合意してから始めます。
確認する時は
「何をするの?」
「何をしたらダメなの?」
と尋ね、書かれた内容と
子供の理解が合っているかを見ます。
同書の196ページでも
本人の理解力に合わせた言葉を使い
内容を言い直してもらって理解を確かめ
必要なら簡単な言葉へ書き直す方法が
示されています。
答えられても実際にはできない場合は
説明を繰り返すだけでなく
その動作を教える練習が必要です。
4.親も決めたルールを守る
親子で交代する約束なら
親も自分の番が終わったら
子供へ渡します。
子供が待っているのに
親だけが長く使い続けると
確認したルールと実際の進め方が
変わってしまいます。
遊びの途中で
最初に書いていなかった条件を
次々に追加することも避けます。
新しく教えたいルールが見つかったら
次に遊ぶ前に内容を見直します。
子供がルールを守れた時は
できたことを短く褒め
遊びを続けます。
5.読めたかではなく実際の行動を見る
約束を読めたことや
守ると答えたことだけでは
身についたとは判断しません。
実際に遊んだ時に
- 自分の番が終わったら渡したか。
- 相手の番に取らずに待てたか。
- 親が毎回促さなくてもできたか。
を確認します。
遊びを続けられるという結果によって
交代する行動が増えているかを
強化の考え方で確認します。
うまくいかない時は
書かれた意味が分からないのか
渡す動作や待つことが難しいのか
その遊びをしたくないのかを分けます。
理解や動作が難しい場合は
約束を増やすのではなく
必要な部分を短い場面で教えます。
6.必要かは子供の状況に合わせて
行動契約は毎回事前に確認した上
記載しなければならないので
家庭ですることは多くなります。
フォーマットをある程度事前に決めておき
それに記入する方法もありますが
それでもある程度の手間は必要です。
その手間を考えた上で必要なのかを
考えて導入することが必要です。
例えば
- 初めてする活動。
- 事前に決めたルールを「言った」「言わない」の論争が高頻度で起きる。
- 癇癪が激しい
等の場合です。
手間をかけてまでも事前に確認する
メリットが大きい場合は利用しましょう。
また、行動契約は
- ルール変更への柔軟さがない。
- 癇癪が激しい。
- 口頭でのルール理解が難しい。
という特性に合わせた支援ですので
これらの改善を目指していくことも
並行して行っていきましょう。
実践例
親子で魚釣りのおもちゃを
交代で使う場面です。
子供は短い文の意味が分かり
魚を釣ることと
釣りざおを相手へ渡すことが
既にできるとします。
- 親子で使う釣りざおを用意する。
- 一匹釣ったら交代することと、相手が使っている時は釣りざおを取らないことを短く書く。
- 交代しながら魚釣りを続けることを親子で確認し、合意する。
- 子供が一匹釣ったら、親へ釣りざおを渡す。
- 親も一匹釣ったら、子供へ釣りざおを返す。
- 交代できたことを短く褒め、同じルールで遊びを続ける。
- 自分で渡せたか、相手の番に待てたか、追加の声掛けが必要だったかを記録する。
この例では、交代して遊ぶこと自体に
魚釣りを続けられるという結果があります。
別のご褒美を用意して
交換する契約にはしません。
文字の内容が分からない場合は
この約束カードを使うことにこだわらず
実際の遊びの中で交代を教えます。
参考文献
日本行動分析学会編 2019年。
行動分析学事典
丸善出版。
行動契約、552〜555ページ。
定義と契約書の役割は552ページ。
識字能力についても552ページ。
契約の構成要素は553ページ。
ジョン・O・クーパー、ティモシー・E・ヘロン、
ウイリアム・L・ヒューワード著。
中野良顯訳 2013年。
応用行動分析学
明石書店。原著第2版の日本語訳。(版元ドットコム)
読む力と契約の提示方法については913ページ。
ポール・A.アルバート、アン・C.トルートマン著。
佐久間徹、谷晋二、大野裕史訳 2004年。
はじめての応用行動分析 日本語版第2版
二瓶社。(国立国会図書館)
トークンと交換の理解は190ページ。
契約の文言と理解の確認は196、198ページ。
自然な強化への移行は206〜207ページ。
資料とリンクの確認日 2026年9月24日。
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