自閉症児が自分ですることを言って行動する〜ABAの自己教示〜

自閉症児へ家庭療育を行う時に
- 着替えを最後まで進める。
- 勉強に使う物を準備する。
- 使った物を順番に片付ける。
等を教えることがあります。
例えば一つずつ指示を出せば
それぞれの動作はできるものの
親が黙ると途中で止まるとします。
親が毎回、次にすることを
教えなければ進みません。
このような場面で考えられるのが
親が出していた指示を
子供自身が言いながら行動する方法です。
ABAでは自分に向けて言葉を発し
その言葉を
自分の行動の手がかりにすることを
自己教示(self-instruction)と呼びます。
Cooperらの応用行動分析学では
自分で発する言葉が
行動を促すプロンプトとして働き
一連の行動や課題を進めるために
使われることが説明されています。
以前のセルフマネジメントの記事では
自分で予定やルールを決めて
行動を管理する方法を紹介しました。
今回はその中でも
自分で短い言葉を言いながら
必要な動作を進める方法を扱います。
目次
1.まだできない動作を言葉だけでできるようにする方法ではない
例えば着替えで
シャツを着ることもズボンを履くことも
それぞれ一人でできるとします。
しかしシャツを着た後に止まり
親から指示されるまで
ズボンを履きません。
そこで次の動作へ進む時に子供自身が
「次はズボン」
と言ってから履くことを教える
使い方が考えられます。
一方、まだズボンへ足を通せないなら
その動作自体を教える必要があります。
ズボンと何度言えても
履き方を教えたことにはなりません。
Cooperらが紹介する文献でも
自己教示を使う時には
本人が既にできる行動へ働きかけることや
言ったことに沿って実際に行動することが
条件として挙げられています。
ここで紹介する家庭での方法は
- 短い言葉の意味が分かる。
- その言葉を自分でも言える。
- 個々の動作は既にできる。
ことを前提とした応用案です。
2.自分へ言う言葉を具体的な動作にする
家庭で使うなら
子供が次に何をするか分かる言葉
にします。
例えば
- 「ちゃんとする」
- 「集中する」
- 「頑張る」
だけではどの動作をすればよいかが
はっきりしません。
着替えなら
- 「シャツを着る」
- 「ズボンを履く」
という言葉にします。
詳細な言葉にして
言わせる必要はありません。
既に本人が分かるなら「次はズボン」
という短い言い方でも構いません。
また、最初に全ての手順を
まとめて暗唱させるだけではなく
その動作をする直前に言い
続けて実際に行動する形にします。
手順を説明する練習ではなく
手順を進めるための練習にします。
3.親の言葉を復唱するところで終わらせない
自己教示をまだ使えない時には
言葉と動作の組み合わせを教えます。
Cooperらが紹介する訓練では
指導者が声に出しながら
課題を行う見本を示す段階や
指導者の言葉を聞いて
本人が行う段階を経て
本人が自分へ言葉をかけながら
課題を進める段階へ移っています。
ただし家庭では
既に一人でできる部分にまで
毎回見本を追加する必要はありません。
まず子供がどこまで進められるかを見て
止まる部分で使う言葉を教える
方法を考えます。
例えば
- 親が「真似して、次はズボン」と言う。
- 子供が同じ言葉を繰り返す。
- 子供がズボンを履く。
という流れで練習したとします。
この時、言葉を言う部分には
エコーイックが含まれます。
しかしこれだけでは
子供が自分で次の動作を
始められたとは判断しません。
親が言葉を出したから
動けた可能性が残っています。
その後の機会には親が先に言わず
子供自身が必要な言葉を言って
動作へ進めるかを確認します。
4.言葉が増えたかではなく行動が進んだかを見る
自己教示を教えた結果
子供が手順をよく言うようになっても
動作が変わらないことは考えられます。
例えば
「次はズボン」
とは言いますが
ズボンを持たずに座ったままです。
この場合は
言葉を言えたことだけで
練習が完了したと判断しません。
家庭で確かめるのは
その言葉を使った後に
実際の動作へ進めたかです。
- 親が次の指示を出す回数が減ったか。
- 途中で止まる場面が減ったか。
- 一人で最後までできたか。
を見ます。
Cooperらは自己教示について
行動が改善した研究だけでなく
同じような改善が得られなかった研究も
紹介しています。
言葉を言わせれば
必ず行動が変わる方法ではありません。
言葉を言うこと自体が負担になり
かえって手が止まるなら
使う言葉を短くするか
別の手がかりを使うことを考えます。
5.声に出し続けることを最終目標にしない
自己教示には
声に出して自分へ指示する形だけでなく
声に出さずに行う形もあります。
Cooperらが紹介する訓練でも
自分に聞こえる声から小声へ
さらに声に出さない形へ移す
段階が説明されています。
ただし、子供が黙って行動できた時に
頭の中で何を言っているかまでは
外から確認できません。
家庭では内心の言葉を推測するより
親の指示がなくても
必要な動作を進められたかを見ます。
既に黙って着替えられるようになったなら
毎回声に出して手順を言うことまで
求めない方法を考えます。
6.言葉を覚えるより手がかりを自分で用意する方法もある
自分で言う言葉を
全て覚えておかなければならないと
考える必要もありません。
行動分析学事典では
自己教示をより広く捉え
自分の行動を支えるメモや手がかりを
自分で用意する方法も説明しています。
例えば忘れないように
必要な物やメモを
あらかじめ目につく場所へ置く方法です。
家庭への応用としては
勉強を始める前に
子供自身が必要な物を書いたメモを
机へ置く方法も考えられます。
文字を読んで行動できる子なら
全てを暗記して言うより
メモを見て準備する方が
取り組みやすいかもしれません。
これは今回紹介した
声に出す自己教示とは
手がかりの形が違います。
どちらを使う場合も
親が毎回次の動作を教える代わりに
本人が使える手がかりを
持つことを目指します。
実践例
自閉症児がプリントへ
自分の名前を書き忘れる場面を考えます。
自分の名前は一人で書けます。
名前を書く場所も分かっています。
しかしプリントを渡すと
すぐ問題を解き始め
親から言われるまで
名前を書きません。
ここでは「まず名前」
という自己教示を使う
家庭での応用案を考えます。
最初にプリントを渡し子供が自分から
名前を書くかを確認します。
書けるなら
自己教示の練習は追加しません。
名前を書く前に問題へ進んだ場合は
- 名前欄を確認する。
- 子供が「まず名前」と言う。
- 子供が実際に名前を書く。
- 記入できたことを確認して問題へ進む。
という流れで練習します。
必要なら親が言葉の見本を示します。
次にプリントを使う機会には
親が先に「まず名前」と言わず
子供がどうするかを見ます。
子供自身が「まず名前」と言って
名前を書けば親の言葉の見本なしで
手順を進められたことになります。
その後も同じようにできるかを
別の機会に確認します。
この場面の標的行動は問題を解く前に
名前欄へ自分の名前を書くことです。
子供が自分へ言う「まず名前」は
その行動を促す自己教示に当たります。
名前を書いた後に問題へ進むことが
この練習での行動後の流れです。
名前と言えたかだけでなく
名前を書き忘れなくなったかで
この方法を続けるか判断します。
参考文献
ジョン・O・クーパー、ティモシー・E・ヘロン、ウイリアム・L・ヒューワード著
中野良顯訳
応用行動分析学
明石書店、2013年。
第27章の自己教示、992〜994ページ。
日本行動分析学会編
行動分析学事典
丸善出版、2019年。
セルフ・マネジメントの項目、544ページ。
メルマガをしています。





