母親が自閉症児の対応を変えると父親への態度が悪化することがある〜ABAの行動対比〜

自閉症児が
母親の前でも父親の前でも
大声を出すことで
要求を通していたとします。
その後
- 母親は大声では要求を通さない。
- 父親はこれまで通り要求を通す。
という対応に変わったとします。
すると
母親の前では大声が減った一方で
父親の前では以前より
大声が増えることがあります。
ABAでは複数の異なる条件がある時に
一方の条件の強化スケジュール
=子供にとってのご褒美を得る間隔
を変えることで変更していない
もう一方の条件の行動まで変化することを
行動対比(behavioral contrast)
と呼びます。
重要なのは単に
- 家ではできる。
- 園ではできない。
という違いがあるだけでは行動対比とは
言えないことです。
変更していない条件で以前より行動が
増えたり減ったりしたか
を確認する必要があります。
目次
1.一方の強化条件を変えると別の条件の行動が変わる
行動対比は複数の条件が
交互に存在する時に
一方の条件を変えることで
変更していない条件の
反応まで変わる現象です。
『行動分析学事典』では代表的な
Reynoldsの実験が説明されています。
最初はハトに
条件A
VI3分で強化。(最後にご褒美=好子を渡してから3分以内で次の反応に対してご褒美が渡される)
条件B→VI3分で強化。
という同じ条件を交互に経験させます。
その後
条件A→VI3分のまま。
条件B→消去して強化なし。
へ変更すると
変更していない条件Aで以前より反応率が
上昇しました。
このような現象が行動対比です。
好子を得られない場面ができると
好子を得やすい場面での行動が
増えるということです。

2.正の行動対比と負の行動対比がある
行動対比には
- 正の行動対比。
- 負の行動対比。
があります。
正の行動対比では
- 一方の条件で強化されにくくなる。
- 変更していない条件で反応が増える。
という変化が起きます。
例えば
- 条件Aではこれまで通り強化される。
- 条件Bでは強化される回数を減らす。
すると
条件Aの反応が以前より増える
という状態です。
一方、負の行動対比では
- 一方の条件で強化されやすくなる。
- 変更していない条件で反応が減る。
という変化が起きます。
簡単に言えば
片方の条件が相対的に悪くなることで
もう片方が相対的に良くなり
そこでの行動が増えることがあります。

3.別の場所で行動が残っただけでは行動対比ではない
自閉症児の支援では
- 家庭では問題行動が減った。
- 祖父母宅では問題行動が残っている。
ということがあります。
しかし
これだけでは行動対比とは言えません。
例えば変更前に
- 母親の前で大声10回。
- 父親の前で大声10回。
要求のために出現したとします。
母親だけ大声では要求を
通さないように変更しました。
その後
- 母親10回→2回。
- 父親10回→10回。
なら父親の前では
以前と変わっていません。
母親への支援効果が父親へ般化しなかった
だけかもしれません。
一方
- 母親10回→2回。
- 父親10回→15回。
となれば変更していない父親の前で
以前より大声が増えています。
このような変化であれば
正の行動対比として
説明できる可能性があります。
4.消去バーストとは起きる場所が違う
行動対比と消去バーストも
分けて考える必要があります。
例えば
- 母親の前では大声を出す。
- 動画を見られる。
という関係が続いていました。
母親が大声では動画を見せない
という対応へ変更します。
- 変更直後に母親の前でさらに大声になる。
- 長く泣く。
- 別の要求行動を試す。
という変化が起きることがあります。
これは
強化を止めたその条件で起きているため
消去バーストとして考えます。
一方母親の前では大声が減った。
しかし対応を変えていない父親の前で
以前より大声が増えたのであれば
行動対比として考えられる
可能性があります。
つまり
- 消去バースト→変更した条件で増える。
- 行動対比→変更していない別条件で変わる。
という違いがあります。

5.家庭では別の場面で問題行動が増えていないか確認する
家庭療育では一つの場面で
問題行動への対応を変えた後に別の場面で
問題行動が増えていないか確認します。
例えば以前は母親にも父親にも
大声を出すと動画を見せてもらえることが
あったとします。
そこで母親だけ大声では動画を見せない
という対応へ変えます。
すると母親の前では大声が減った一方で
父親の前では
- 以前より何度も要求する。
- 大声が長くなる。
- 父親を叩くことが増える。
等の変化が起きることがあります。
この場合母親からは
以前のように強化を得られないため
まだ強化を得られる父親の場面で
問題行動が増えている可能性があります。
ただし子供が意識的に
「父親のところで取り返そう」
と考えているという意味ではありません。
大切なのは父親の前で
問題行動が増えたからといって
母親まで以前の対応へ
戻さないことです。
まず母親との場面で
- 大声では要求が通らない。
- 適切な行動をする。
という基準を十分に安定させます。
その後必要であれば父親との場面でも
同じように行動を教えます。
家庭療育では
一つの場面を改善した時に、別の場面で問題行動が以前より増えていないか
を見ることが行動対比を考える上で
実践的なポイントになります。
6.行動対比が起きる理由は一つに決まっていない
行動対比については一つの説明だけで
全てを説明できるわけではありません。
Reynoldsは絶対的な強化率だけではなく
複数の条件の間での相対的な強化頻度
が重要だと考えました。
例えば母親でも父親でも
同じ程度に要求が通っていた状態から
母親だけ大声では要求が通らなくなると
父親の前で大声を出すことの価値が
相対的に高くなることがあります。
その他にも様々な仮説があり
行動対比が起きた時に必ず一つの原因で
説明しようとする必要はありません。
複数の要因が
関係している可能性があります。
7.ルールだけでなく環境の違いも行動に影響する
- 家庭。
- 保育園。
- 学校。
- 支援施設。
では大人が決めたルールだけではなく
環境そのものも大きく違います。
例えば家庭では
- 昼食を見て子供が癇癪を起こす。
- 親が別の料理を出す。
ということがあるかもしれません。
一方保育園や小学校では給食を見て
癇癪を起こしたとしても
その子供だけ別の給食へ
変更されることは通常ありません。
すると家庭では
- 癇癪。
- 昼食が変わる。
という結果が起きる一方
園や学校では
- 癇癪。
- 給食は変わらない。
となります。
このような
- ルール。
- 人。
- 場所。
- 物。
- 活動。
- 変更できる範囲。
等の違いによって
子供の行動も変わります。
ただし場所によって行動が違うだけなら
それ自体を行動対比とは呼びません。
行動対比かどうかは
一方の条件を変えたことで
もう一方が以前より変化したか
を確認します。
8.全ての人に同じ行動を最初から求めない
子供が
- 母親には一回の指示で動く。
- 父親には何度言われても動かない。
- 祖父母には強く要求する。
- 先生には静かに行動する。
ということがあります。
全ての人に対して
同じ行動をとれるとは限りません。
それぞれの大人で
- 指示の出し方。
- 問題行動後の対応。
- 要求への対応。
- これまでの経験。
が違うからです。
そこでまず
- 最も指示に従いやすい人。
- 最も安定して
対応できる人。
での行動基準を高くします。
例えば母親には
- 一回の指示で着席する。
- 動画終了の指示で終了する。
- 要求を断られても叩かない。
ということができているなら
まずその基準をさらに安定させます。
その結果他の大人に対しても
以前より適切な行動が
増えることがあります。
9.手の届かない環境は必要以上に管理しない
家庭以外の対応を親が全て
コントロールすることはできません。
- 保育園。
- 学校。
- 祖父母宅。
- 児童発達支援。
- 放課後等デイサービス。
等では親がその場に
いない時間があります。
支援者へ「こう対応してください」
と伝えても全ての場面で
その通りに対応される保証はありません。
そのため家庭外の全ての対応を
変えようとするよりまず
家庭で問題行動を強めないことを
優先します。
家庭では
- 大声では要求が通らない。
- 叩いても目的を達成できない。
- 一回の指示で行動する。
- 決めたルールを守る。
という基準を安定させます。
家庭での行動基準が十分に高くなることで
結果として家以外での行動も
改善することがあります。
10.行動基準が低い環境で自分だけを律することは難しい
環境によっては
- 問題行動によって要求が通る。
- 指示へ従わなくても次の活動へ進める。
- 課題をしなくても大人が代わりに行う。
という状態が続くことがあります。
その環境の中で自分の子供だけ
「ちゃんとしよう」と求めることは
かなり難しいです。
例えば
- 家庭では一回の指示で片づける。
- 施設では片づけなくても支援者が最後に片づける。
という状態なら施設では
片づける行動の基準が
下がる可能性があります。
行動は本人の意思だけでなく
周囲の環境によっても変化します。
11.家庭まで悪化する環境なら利用を見直すこともある
ある施設を利用し始めてから家庭でも
- 要求時の癇癪が増えた。
- 指示へ従わなくなった。
- 物を投げることが増えた。
という変化が
継続して見られることがあります。
この場合
その変化が本当に
施設利用と関係しているのか
記録して確認します。
その上で
- 支援者へ対応を伝えても改善しない。
- 利用するたびに家庭での行動基準まで明らかに低下する。
という状態が
続くのであれば
- 利用頻度を減らす。
- 施設を変更する。
- 利用を終了する。
という選択肢もあります。
これは支援環境の選択の問題です。
施設へ通うことより子供の行動が
実際に改善しているかを優先します。
実践例
子供は
母親にも父親にも動画を要求する時に
大声を出していました。
一週間記録すると
- 母親の前では平均一日8回。
- 父親の前でも平均一日8回。
大声による要求が見られました。
どちらの場合も大声が続くと
最終的に動画を
見せることがありました。
そこで母親だけ大声では動画を見せないという対応へ変更しました。
父親はこれまで通りの対応でした。
二週間後母親の前では大声が一日8回から
2回へ減りました。
しかし父親の前では8回から
13回へ増えました。
この場合単に
「父親には効果が般化しなかった」
だけではなく変更していない父親の前で
以前より大声が増えています。
そのため正の行動対比が
起きている可能性も考えます。
ただし母親の前で
大声が減っているのであれば母親の対応を
以前に戻す必要はありません。
まず母親との場面で
- 大声では目的を達成できない。
- 普通の声で要求する。
- 要求を断られても問題行動を起こさない。
という基準を安定させます。
その後父親との行動が安定するか
確認します。
家庭外でも同じです。
他の支援者の対応を親が完全に
管理することはできません。
まず自分たちが
安定して管理できる環境で
高い行動基準を作ります。
その結果として別の人や場所でも
適切な行動が増えることを目指します。
メルマガをしています。





