自閉症児の適切行動を増やし不適切行動を減らす環境〜ABAの先行条件操作〜

自閉症児に対する効果的な指導法として
これまで強化、弱化、消去について
説明してきました。
今回解説する先行条件操作=環境調整とは
大人の関わり方やルールを含めた
行動が起きる前の環境を変えることです。
問題行動が起きてから
正しく対応するのではなく
- 問題行動が起きにくい環境。
- 適切行動が起きやすい環境。
を事前に作ります。
例えば宿題を始める時に
親が離れた場所から「宿題をやって」
と何度も言っても
子供が動かない場合です。
- 子供の近くへ行く。
- テレビを消す。
- 机の上を片づける。
- 鉛筆を準備する。
- 最初の問題を開く。
という形に変えることで
宿題を始めやすくなります。
また事前に
- 今日はこのページをする。
- 終わったら遊べる。
- 途中で泣いても量は変えない。
というルールを決めて
子供と確認しておくことも
先行条件操作です。
ただし先行条件操作だけで
行動が習得できるわけでは
ありません。
適切行動ができた後に
ご褒美を得たり
嫌いなことが終わったりする
強化が起きることも必要です。
- 行動が起きる前の条件を整える。
- 子供が適切行動をする。
- 適切行動の後に
子供にとって良い結果が起きる。
この流れを作ることが重要です。
目次
1.先行条件は行動が起きる前の出来事
先行条件とは
子供の行動が起きる前にある
きっかけや環境です。
例えば
- 親が「片づけて」と言う。
- 動画が終了する。
- 食事の時間になる。
- 課題を出される。
- 親が他者と話し始める。
等です。
ただし先行条件は
行動の直前に起きた出来事だけとは
限りません。
- 遊びを始める前に終了時刻を決めていなかった。
- おもちゃを出しすぎて片づける量が多くなった。
このような条件も含まれます。
2.強化・弱化・消去との違い
先行条件操作は
行動が起きる前を変えます。
強化は
行動の後に特定の結果が起きて
その行動が増えることです。
弱化は
問題行動の後に
新しい嫌子を与えたり
持っていた好子を取り上げたりして
行動を減らすことです。
消去は
問題行動後に得ていた好子を
得られなくしたり避けられていた嫌子を
避けられなくしたりして
行動を減らすことです。
これら全てが結果に働きかける方法です。
一方、
食事の直前には動画を見せないことや
動画を始める前に
- 一つ見たら終了する。
- 終了後は食事にする。
と確認しておくことが
先行条件操作です。
このように結果ではなく行動の前の
きっかけに働きかけることが
他の方法との違いです。
3.事前にルールを決めて確認する
子供と事前にルールを決めることも
先行条件操作です。
例えばゲームを始める前に
- ゲームは一回する。
- 負けても相手を叩かない。
- 終了したらゲーム機を親へ渡す。
- 投げた場合はその日のゲームを終了する。
と確認します。
このように問題行動が起きてから
対応を決めるのではなく
事前にルールを確認するだけでも
適切行動が増え
不適切行動が減る確率が上がります。
4.ルールの変更は活動前に行う
子供に選択させることは大切です。
ただし選択は
活動を始める前に行います。
例えば動画なら
- どの動画を見るか。
- 何本見るか。
- 見た後に何をするか。
を始める前に決めます。
動画が終わった後に子供が泣いたため
- もう一本だけ見る。
- 今日は特別に延長する。
- 食事の後にもう一度見る。
と変更すると最初の約束は
問題行動を起こせば変えられる
と学習する可能性があります。
選択肢を与えることと
問題行動後にルールを変えることは
別です。
変更が必要な場合は
次に活動を始める前に変えます。
5.問題行動が起きなかった場面を探す
先行条件操作を考える時は
問題行動が起きた場面だけではなく
起きなかった場面も確認します。
例えば子供が
朝の着替えを嫌がる場合です。
問題行動が起きた日は
- 服が準備されていなかった。
- 親が離れた場所から指示した。
- テレビがついていた。
- 何を着るかその場で選ばせた。
という条件だったかもしれません。
一方で着替えられた日は
- 前日に服を選んでいた。
- 服が床に並べてあった。
- 親が子供の近くにいた。
- テレビがついていなかった。
- 親が上着を着せて子供はズボンだけ履いた。
という違いがあるかもしれません。
この場合は
問題行動の理由を
- 着替えが嫌い。
- やる気がない。
- 反抗的である。
と考えるのではなくどの条件なら
着替えられるのかを探します。
成功した場面の条件を
再現することが
先行条件操作の基本です。
6.親が適切に対応しにくい場面では問題行動を防ぐ
問題行動後の対応は
家族で統一することが理想です。
しかし実際には
毎回同じ対応をすることが
難しい場合があります。
- 朝の出発前で親に時間がない。
- 親が夕食を作っている。
- 他の兄弟の世話をしている。
- 親が一人で複数の子供を見ている。
- 外出先で家と同じ対応を取るのは周囲の視線があり難しい。
このような場面です。
親が適切な対応を
取りにくい時間が分かっているなら
問題行動が起きてから
対応しようとしません。
問題行動が起きにくい環境を
先に作ります。
例えば朝に
動画終了で癇癪が起きやすく
親が対応する時間もないなら
- 朝は動画を見せない。
- 自動的に終了する設定を使う。
- 着替えが終わるまでタブレットを見える場所に置かない。
- 前日に服と持ち物を準備する。
という形にします。
子供が眠くなりやすい時間に
要求を断ると癇癪が起きやすいなら
- その時間に新しい課題をしない。
- 欲しがる物を見える場所に置かない。
- 必要な課題を早い時間に終わらせる。
という形にします。
これは子供を甘やかすことでは
ありません。
親が一貫した対応を
取りにくい場面で
問題行動が強化されることを
防いでいます。
7.環境を整えて適切行動を起こしやすくする
子供に指示を出す前に
環境を整えることで
適切行動が起きやすくなります。
例えば片づけなら
- 一度に出すおもちゃをルールで減らす。
- 片付けは大きな箱に入れる。
- 箱ごとに入れる物を決める。
- テレビを消す。
等です。
宿題なら
- 机の上から不要な物をなくす。
- 鉛筆を準備する。
- 最初の問題を開く。
- テレビや動画を止める。
- 親が隣に座る。
等です。
適切行動が起きない環境で
指示だけを増やしても
子供は動きにくくなります。
行動を求める前に
行動できる環境を作ります。
8.子供の注目を取って一度だけ指示する
親の指示も
行動が起きる前にある
先行条件です。
指示を出す時の注意点は以下の通りです。
- 子供のすぐ近くで指示を出す。
- 指示を出す前に子供の注目を得る=親とアイコンタクトをする。
- 指示は一度しか出さない→何度も指示を出すと指示を無視することが増える。
- 指示に従って行動できない場合はすぐに子供の体を支えて行動する。
- 最初は一つの指示で一つの行動→できるようになったら複数の指示を組み合わせる。
- できる子には指示を復唱させる→指示を聞いていない状態を防げる。
9.予告と開始時の声かけは別に考える
予告そのものが
悪いわけではありません。
事前に予定を伝えることで
行動しやすくなる子もいます。
例えば「7時にお風呂へ入る」
と伝えておくことは事前の予告です。
しかし開始時に「お風呂に入るよ」
と声をかけると暴れ始める子もいます。
この場合、問題なのは事前の予告ではなく
開始時の声かけです。
お風呂に入ることは
事前に伝えておきます。
しかし、開始時刻になったら
- 何も言わずに子供に近づく。
- 手をつなぐか必要に応じて抱っこする。
- 脱衣所まで連れて行く。
- スムーズに移動できたら褒める。
という身体プロンプトで
行動を開始させます。
遊びの終了も同じです。
- 事前に「この遊びは6時まで」と伝えておく。
- 6時になった時には改めて終了を伝えず親がおもちゃをさっと回収する。
- スムーズに返せたら褒める。
という形にします。
予告をなくすのではありません。
開始や終了を知らせる声かけが
問題行動のきっかけなら
その声かけをなくします。
10.課題の量と難しさを事前に調整する
問題行動が起きる前に
課題の量や難しさを
調整することも
先行条件操作です。
例えば宿題を始める前に
10問全てを見せると
子供が抵抗して止まる場合です。
- 最初は一問だけできたらすぐ終了させる。
- 慣れてきたら問題数を増やすが制限時間も作る。
という形にします。
ただし問題行動が起きた後に
課題量を減らしてはいけません。
泣いた後に
- 10問から5問へ減らす。
- 難しい問題をなくす。
- 親が全て答えを書く。
という対応をすると
問題行動によって
課題から逃げる行動が
強化される可能性があります。
ただしこれには課題量が適切である
ことが前提です。
- いつもはできている量。
- 課題量は急に増えていない。
- 体調が悪くない
場合は最後までしてもらいましょう。
12.できない行動は小さく分ける
子供が一連の行動を
全て一人でできない場合は
行動を小さく分けます。
例えば朝の支度なら
- 起きる。
- トイレへ行く。
- 服を脱ぐ。
- 下着を着る。
- 上着を着る。
- ズボンを履く。
- 顔を洗う。
- 朝食を食べる。
- 歯をみがく。
- 荷物を持つ。
- 靴を履く。
という行動があります。
この全てを子供一人で行わせることは
難しい場合があります。
親がする部分と
子供が一人でする部分を
事前に分けます。
例えば
- 親が服を準備して下着と上着を着せる→子供はズボンを履く。
- 親が洗面所へ連れて行く→子供は顔を拭く。
という形です。
できない部分を
問題行動が起きてから
親が手伝うのではありません。
最初から親の担当と
子供の担当を決めます。
子供ができる部分が安定したら
一つずつ一人でする行動を増やします。
13.先行条件操作と強化をセットにする
先行条件操作だけでは
子供の行動が習得されないことが
あります。
例えば親が毎回
子供を洗面所まで連れて行けば
手洗いという適切行動が
でやすくなります。
しかし洗面所へ行った後に
特に子供にメリットがなければ
自発的に洗面所へ行く行動は
増えない可能性があります。
行動後に
- おもちゃで遊ぶ等の好きな活動ができる。
- おやつが食べれる。
- 夕食が食べれる。
等の自然なご褒美=好子を足すことにより
行動の定着が狙えます。
ただし
全くその場に関係のない
お菓子を与えたりスマホを与えたり
といったご褒美=好子の使用は
短期的には効果が高いですが
長期的に見ると意味がないです。
あくまで自然なご褒美=好子によって
習慣化することを目指しましょう。
14.先行条件操作で問題を先送りしない
先行条件操作は子供が嫌がることを
全てなくす方法ではありません。
例えば
- 宿題を嫌がるため毎日宿題をなくす。
- 着替えを嫌がるため親が全て着せる。
- 片づけを嫌がるため親が全て片づける。
という対応を続けると
必要な行動を学ぶ機会が
なくなります。
先行条件操作の目的は
問題行動を一時的に減らし
適切行動を一時的に増やすことです。
いわばこれらは全て
子供の能力が成熟するまでの気遣いです。
並行して先行条件操作をしなくても
子供が一人でできることを目指します。
先行条件操作は段階的に
減らしていくことが前提になります。
実践例
親が夕食を作っている間に
冷蔵庫を勝手に開けて
お菓子を取る子の場合です。
これまでは夕方になると
子供が台所へ入り
- 冷蔵庫を開ける。
- 棚からお菓子を取る。
- 親に止められると泣く。
- 床へ寝転ぶ。
という行動が起きていました。
親は夕食を作っているため
一貫した対応が難しいです。
最初は断っていても子供が泣き続けると
「一つだけだよ」
とお菓子を渡す日がありました。
この場合
- 冷蔵庫を勝手に開ける→親が止めずに好きなものを食べられる時がある。
- 止められると泣く。
- 親からお菓子をもらえる。
という流れになります。
調理中は親が一貫した対応を取りにくく
問題行動が起きやすい時間でした。
そこで先行条件を変えます。
- お菓子は子供の知らない場所へ移す。
- 調理中は子供が好きな動画を見せる
- 夕食が出されるまでのタイマーを見せる。
- おやつは夕食前は食べないことを事前に伝える。
- 少量の食事を夕食前に提供する。
という形にしました。
このようにすることで
子供は台所に入ることが減り
夕食が出されるまで怒らずに
待てるようになりました。
メルマガをしています。





