自閉症児の問題行動をゼロにする方法、抹殺法とは?
自閉症スペクトラム障害児が起こす問題行動は、時に家族にとって深刻な問題を起こします。例えば、以下のような行動です。
- 家から脱走する
- 冷蔵庫の物を勝手に食べる
- 高いところに登る
- 外で親から離れて走っていく
これらの行動は一つあるだけで親は少しも子供から目を離すことが難しくなります。このような行動を防止するための便利な方法があります。今回は抹殺法について解説していきます。
目次
抹殺法の定義
抹殺法(まっさつほう)とは以下のように説明されます。
やめさせたい行動が物理的に絶対できないようにしたり、嫌なことをする人や動物を抹殺することによって、嫌な行動をなくす方法
『うまくやるための強化の原理』P.111(二瓶社)
つまり、環境を問題行動が起きない環境にしたり、問題行動を起こす者を抹殺することにいって問題行動を減らすという方法です。これは先行介入の方法の一つである身の回りの環境を変える方法の一つです。先行介入に関しては以下のページを参照してください。
抹殺法の長所
抹殺法のメリットは以下の通りです。
1.問題行動が起きる可能性をゼロにできる
環境を変えることによって(先行介入)、問題行動が起きる可能性をほぼゼロにできます。これにより、家での環境を破壊されたりといったことが防げます。
2.生死に関わる行動を防げる
例えば高いところからの落下や道路に飛び出るといった生死に関わるような問題行動を抹殺法は防げます。
3.親の負担が減る
子供に問題行動が起きる場合、親は子供をずっと近くで見張らなければなりません。少しでも目を離すと問題行動を起こされてしまうからです。ですが、抹殺法を使用することで親は安心して子供から離れることが可能になります。
4.行動の悪化を防げる
子供が問題行動をし続けると段々と問題行動が強まっていく可能性が高いです。抹殺法で問題行動を防ぐことにより、これ以上問題行動が悪化することを防げます。
抹殺法の短所
一方、抹殺法のデメリットは以下の通りです。
1.家以外では使用できないことが多い
鍵等は、家以外での環境では使用できないです。ですから、家では問題行動がゼロであっても、外出先では問題行動が多いままといったことが起こります。
2.適切行動には使用できない
抹殺法はあくまで不適切行動をふせぐためだけに使用する方法です。適切行動を教えるようなシチュエーションには使用できないです。
抹殺法の一番の特徴は、何も教えていない、ということである。(中略)要するに、問題となる行動ができないようにするだけで、どうすればよいかは何も教えていないのである。窃盗罪で刑務所送りになったことのある人は二度と盗みに入らないだろうと思うのは、一見、理にかなっている。しかし、世の中はそれほど甘くない。唯一確かなことは、刑務所にいる間だけは泥棒をしないということだ。動物はもちろん、人間だって理屈で行動するわけではない。理屈に合わない行動であっても、これまで強化されてきたり、その行動を引き起こす弁別刺激が与えられれば、起こるのである。
『うまくやるための強化の原理』P.111~P.112(二瓶社)
抹殺法によって、問題行動が物理的にできないような状態にしておくかぎり、その問題をどう改善すればよいかを学ぶことはない。起こらない( 起こせない) 行動を変えることはできないからだ。大人同士の会話をじゃまする子どもを部屋に閉じ込めると、たしかに、何かは学ぶかもしれない。親を恨んだり、怖がったりすることを。しかし、大人同士が話をしているときに、どうすれば行儀よくその会話に加われるかについては学ぶことができないだろう。犬の鎖を外せば、また車を追いかけていくだけの話である。
このように、抹殺法を使用している間は問題行動を防げますが、問題を解決している訳ではないということは注意すべきです。
3.他の家族にも制限がかかる
家庭内で抹殺法を使用すると、他の家族にも何らかの行動上の制限がかかります。例えば、鍵を毎回かけなければならないといった手間が増えることです。また、家も簡単な工事をしなければならないといったことが起きます。
4.年齢があがるにつれて難しくなる
子供の年齢が低いうちは問題行動を抹殺法によって防ぐのは比較的簡単ですが、年齢が上がってくるとより強固な抹殺法が必要となってきます。例えば家の鍵もチェーンをするだけでもよかったことが、中からも鍵を使ってロックしなければ鍵を開けられてしまうようになってしまいます。
抹殺法の使用条件
では抹殺法を使用する条件は何でしょうか?以下のように説明されています。
問題があまりにひどすぎてこれ以上耐えられなかったり、簡単にはよい行動に変えることができそうにない場合には、使うことが許されるだろう。
『うまくやるための強化の原理』P.110(二瓶社)
つまり、抹殺法の適用例は、
1.問題行動が酷くて家族が耐えられない状態である時
2.その問題行動を簡単に消したりできない状態である時
3.その問題行動が起こることで生命の危機がある時
に使用すべきであると言えます。
抹殺法の例
抹殺法は子供の支援で多く使用されています。以下が例です。
1.ベビーカーに乗せる
ベビーカーに乗せると道路に飛び出たり、親から手を放して一人で子供が行ってしまうということが防げます。この他にも結構重要なのが移動中に子供が座り込むボイコットを防げるということです。この方法には、チャイルドシートに乗せる、子供用の椅子にロックしてしまう、スーパー等でカートに乗せてしまうことも含まれます。
2.鍵をかける
家を勝手に出て行ってしまう子供に対して、チェーン等のロックをかけてしまう方法です。あとは、薬が入った棚等にロックをかけてしまうこともあります。
3.チャイルドロックの使用
チャイルドロックを使用すると、車のドアを子供が勝手に開けてしまう可能性がゼロにできます。最近では車が走り出すと自動的にロックがかかる車も増えていますが、ロックは自分で解除できてしまうのでチャイルドロックは必要です。
4.ベビーゲートの使用
子供が乳幼児のうちは、使用しやすい方法です。台所、玄関、お風呂などの入ってしまうと生命の危機があるような場所に対して使用します。
抹殺法の応用例
抹殺法は子供の泣く行動、暴れる行動に対しても使用できます。ただし、全く防げるわけではありません。ある程度の緩和を目指すだけです。以下が例です。
1.癇癪を起こしやすい場面で先行介入を行う
子供には魔の時間があります。朝や夕方等の寝起きや眠たい時間等です。こういった時間は子供の機嫌が悪いため、できるだけ気を使って子供を泣かさない環境にします。例えば、
- 子供を起こす前に好きなテレビ番組をつけてから子供を連れてくる。
- 子供が眠たい時間になってきたら抱っこして暗い部屋に連れて行く
といった対応を取ることで子供が泣くことを減らせます。
2.癇癪を起こされたら困る場面で先行介入を行う
子供に癇癪を起こされたら起こる場面で先行介入を行うことも抹殺法を使用することも有効です。例えば、
- 買い物中に騒がれたら困るため、カートに乗せてスマホでYouTubeを子供に見せた。
- 風邪で調子が悪いため、テレビを要求して泣かないようにテレビを見せ続けた。
- 新幹線に乗っている時にお菓子を少しずつ与え続けた。
このような対応を取ることにより外で癇癪を起こすことを減らせます。
3.激しい癇癪行動が起こる前に親が構う
子供が少しぐずった段階で、親が子供に構って激しい癇癪行動が起こらないようにしてしまう方法です。これは、計画的無視が難しい子供に対して使用する方法と一緒です。下記ページを参照してください。
これらの方法は問題行動が即座に消せない場合に使用する方法ですが、ずっと使い続ける物ではありません。
まとめ
抹殺法はセラピー初期には非常に効果がある方法です。ですが、頼ってしまうと将来的な問題行動の減少が目指せないことがありますので、使用場面、使用期限を限って使っていきましょう。