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自閉症スペクトラム障害~症状・特徴や治療法について~

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 発達障害にはさまざまな種類があります。発達障害に関しては以下の記事を参照してください。

 今回は自閉症スペクトラム障害について説明していきます。

自閉症スペクトラム障害とは

 自閉症スペクトラム障害(以下、自閉症)はどのようなものでしょうか。いろいろな本の定義を見てみましょう。

1.自閉症百科事典(明石書店)

発達障害の一種であり、コミュニケーションや社会関係の顕著な障害、および、異常な感覚反応や反復行動、日課や同一性 へのこだわりなどの特異的な行動を特徴とする

自閉症百科事典(明石書店)P.16

2.発達障害事典(明石書店)

コミュニケーション能力の障害( 遅れと逸脱)、社会的関係が発達しない、限局し、反復的・常同的な行動を含む障害パターンを特徴とする、広汎性発達障害。自閉症の子どもの約半数に、ある程度の精神遅滞が見られるが、自閉的行動によって認知能力の正確な評価が妨げられるため、小児期早期に精神遅滞の存在を特定するのは困難である。

発達障害事典(明石書店)P.49

3.臨床心理学辞典(八千代出版)

1943 年にカナー(K anner, L.) によ り報告された早期幼児自閉症のこと。3 歳ま でに起こる,①相互社会交渉の質的障害,②言語性および非言語性コミュニケーションの質的障害,③活動と興味の範囲の著しい限局性の3つ の 必 須 の 行動 症 状 に よ り 診 断 さ れる発達障害である。

臨床心理学辞典(八千代出版)P.223

4.DSM-5の定義

 アメリカの精神医学会での診断基準です。

5.R.Wingの基準

 自閉症スペクトラム障害の提唱者であるR.Wingの自閉症の特徴を3つ組という言葉で表しました。

 まとめると以下の通りです。

  • 言語コミュニケーションの遅れが見られる
  • 活動や行動に問題がある
  • 発達の初期に発生するが、ある程度成長するまでわからないことがある
  • これらの問題により、日常生活において重大な問題を引き起こしている

 重要なのが、最後の基準であると思います。ある程度の日常生活が送れていれば自閉症と診断しなくてよいのです。アインシュタインやエジソン、ミケランジェロ等の有名人が自閉症であったとみなす人もいますが、彼らは名声を得て成功していた時点で自閉症と診断されなくてもよかったのです。例え自閉症の診断基準に当てはまっていてもそれをカバーして余りある才能と家族や有償のサポートがあれば診断名は必要ありません。

自閉症の原因について

 自閉症の原因ですが、諸説あります。ですが、遺伝も環境も相互に関係していることは確かなようです。研究者が自閉症の関係遺伝子を突き止めるために奮闘していますが、判明にはまだまだ時間がかかりそうです。そもそも自閉症の診断が出現している行動をベースにしているので、現在自閉症と分類されている人が正しい分類なのかもわかりません。
 私は、自閉症児の家族が子供が自閉症になった原因を考えることはあまりお勧めはありません。例えば、父親に性格が似ているから自閉症の遺伝は父方からだと考えても何もメリットがありません。それに、原因が分かったとしても現在の問題の解決に何ら影響を及ぼさないからです。

自閉症の診断について(M-CHAT-R)

 自閉症の診断は様々な発達検査が用いられますが、ここでは早期から使用できるM-CHAT-Rという診断方法を紹介します。M-CHAT-R(Modified Checklist for Autism in Toddlers, Revised)は乳幼児期自閉症チェックリスト修正版と訳され、1歳6か月から使用できる質問紙です。はい、いいえで答える問題1歳半検診で取り入れる自治体はまだまだ少ないものの存在します。M-CAHT-Rはネットで診断可能です。こちらのサイトから診断してみてください。質問は英語ですので、以下の訳を参照してください。

 M-CAHT-Rの採点基準は以下の通りです。

 もう一つは、自閉症の一つの特徴であるアイコンタクトをチェックするという方法もあります。以下がチェック例です。

 このように、成長するにつれて相手の目をしっかりととらえるようになってくるというのは定型発達児に見られる行動です。

自閉症の特徴

 自閉症の特徴には以下のようなものがあります。注意としてはこれらが出現していると自閉症と診断されるわけではなく、上記のような診断基準も満たす必要があります。

1.アイコンタクトが苦手
 自閉症児は他者とのアイコンタクトが苦手なことがあります。定型発達児者には生まれつきできますが、自閉症と診断される児童に関しては困難が見られることが多いです。例えば以下のような行動です。

0:14~0:24

 このように、支援者が顔を押さえても自閉症児とアイコンタクトすることに困難が見られます。自閉症児のアイコンタクトが苦手な理由及びトレーニングは下記のページを参照してください。

https://abahaffy.com/update/13252

2.コミュニケーションの遅れ

 自閉症と診断される子供はコミュニケーションに遅れが軽度重度の差はありますが必ずあります。コミュニケーションの遅れとしては、以下が例です。

①無発語
 意味のある言葉を全く話さない状態です。原因は2つ考えられます。
・言葉を話していたが、消えた(親の関わりがご褒美にならず言葉が消失した)
・言葉が喃語から発達しない(音声模倣能力が低い)

 詳細な説明は以下を参照してください。


②言葉を話すが、使い方がおかしい
 自分の興味がある歌やテレビ番組のセリフに関しては一字一句間違えずに覚えるにも関わらず、大人の質問への応答や要求言語に関しては不適切な言葉を使用したり、反応しなかったりということが見られます。要求言語(マンド)の不適切な使い方の例は以下の通りです。

 

③曖昧な表現が苦手
 自閉症で言葉でコミュニケーションを他者と取れる者(かつてはアスペルガー障害に該当していた者)でも、他者とのやり取りで曖昧なやりとりを理解することが苦手です。以下の例をご覧ください。

3.特異な行動
 自閉症と診断される子供に多く見られる特徴的な行動があります。ただし、これらの行動が出ているからといって自閉症と診断されるわけではありません。

①自己刺激行動
 自己刺激行動(自己刺激行動)(Self-stimulating behavior)は以下のように定義されます。

持続的、非常に反復的で変化に欠ける動作・ 癖・連続した行動で、明確な目的がなく自傷的でないもの。手をパタパタさせる、体を揺するといった常同行動を含む。その行動が本人に害を与えれば、自傷行動に分類しなおす。

発達障害事典(明石書店)P.425

 常同行動 (Stereotypy/Stereotyped behavior) というのは繰り返しの連続性を持った行動です。以下の例があります。

  以下は常同行動の例です。

2:28~2:43

 ここでは手をひらひらしたり、くるくる回る行動が取り上げられています。

 自己刺激行動と常同行動の違いにはいくつかの解釈があります。

 これらのことを総合した私の解釈は以下の通りです。

 自己刺激行動の中に常同性(繰り返しの行動がある)がある場合は、常同行動、それ以外は自己刺激行動という考え方です。ですが、いずれにせよ常同行動も自己刺激行動なので「すべて自己刺激行動」と考えても差し支えありません。

 自己刺激行動の例は以下の通りです。

 手をひらひらさせることや体を回すことは常同行動と考えても問題ありません。映像例は以下の通りです。

 独り言を言ったり、笑ったりする自己刺激行動が出現しています。

②クレーン現象
 クレーン現象(クレーン行動)(crane phenomenon)は以下のように定義されます。

 クレーン現象は言葉のない自閉症児によく見られる行動で、周囲の大人の手をもって自分の欲しい物の方に、あたかもクレーンの機械のように誘導する行動をいう。あるいは、何かしてほしいことを言葉で伝えられず、近くにいる人の手を引っ張って、対象物の所まで連れていく行動もクレーン現象と呼ばれる。例えば、玩具が欲しい時、大人の手を持ってその人にその玩具を取らせようとしたり、ビデオを見たい時に、リモコンを持って大人の手に持だせようとしたりする行動などである。クレーン現象を示す子どもの多くは、話し言葉の遅れがあり、言葉で要求することができず、質問に対して言葉で答えられない。自閉症児の場合には話し言葉の発達に遅れや偏りがあり、要求を表現するために、具体物をつかんだり、クレーン現象や独特なサインなどがよく見られる。

自閉症教育用語辞典(学苑社)P.72

 ただクレーン現象も発達の段階で定型発達児に見られる行動です。映像で確認しましょう。

 このように、相手の目を一切見ないで手を引っ張っていく行動は問題とされるクレーン現象ですが、相手の顔を見ながら手を引っ張っていく行動は定型発達児でも見られる問題のないクレーン現象です。

③こだわり
  自閉症児者には時には不条理であるほどのこだわりがあります。以下が例です。

 このように、定型発達児者から見れば意味が分からないほどのこだわりがあります。制止されると泣き叫んだり、暴れたりという問題行動が出現します。例を見てみましょう。

4:40~5:03

 この子供はお菓子を机でつぶして食べるというこだわり行動があります。このように、他人には理解のできないこだわりが出現することがあります。

④特異な遊び
 自己刺激行動と同様に、自閉症児は独特の遊び方をします。以下が例です。

 有名なのは物を並べて遊ぶということです。物を並べるといってもドミノのように並べて遊ぶような物を使用するのではなく、レゴのようにくっつけて遊ぶような物を並べて遊ぶことがあります。

⑤逆向きバイバイ(逆手バイバイ、逆バイバイ、逆転バイバイ)
 逆向きバイバイ(ぎゃく向きばいばい)とは通常とは異なり手の甲を相手に見せて振るバイバイのことです。逆さバイバイ、逆転バイバイ、内向きバイバイ、逆バイバイとも呼ばれます。自閉症児によく出現すると言われています。

 逆向きバイバイの特徴は以下の通りです。

 実際の映像はこちらです。

 このように、逆向きバイバイが起こる理由は、後述する他人の立場に立って物を考えることが苦手ということが関連していると考えられます。他人が手のひらを見せて手を振ってくるので自分も相手と同じように手のひらを自分に見えるように振ることで動作模倣していると考えられます。つまり、鏡のように向かい合わせの行動ができず、自分の視点から見える行動の通りに再生してしまっているのです。

4.感覚過敏/感覚鈍麻
 感覚刺激に対して過度に過敏であったり、鈍麻であったりということが見られます。

 結構多い例が、ドライヤーやエアータオルといった音を嫌がるケースです。映像があります。

1:23~2:02

 この子の場合、聴覚に過敏がありうるさい音がすると耳をふさいでいます。

5.思考の偏り
 次の3つが例です。

①分類が苦手
 物事のグループ分け、分類が苦手なことがあります。具体例は以下の通りです。

 例えば、私たちは犬と猫をどこで弁別しているのでしょうか。わざわざこんなことを考えなくても私たちは見分けられます。ですが、明確な基準を持っている人は少なく、「なんとなく」で区別しているにすぎません。ですが、自閉症児者には明確な基準がないことで見分けることに困難が生じます。

  • 鼻が短いのが猫→鼻が短い犬もいる
  • 大きいのが犬、小さいのが猫→大きい猫も小さい犬もいる
  • しっぽが短いのが犬→しっぽが長い犬やしっぽが短い猫もいる

 有名な自閉症スペクトラム障害者である (本当に自閉症かどうかは議論がありますが) Temple Grandinは以下のように述べています。

彼女は、2匹の姿かたちがきわめて異なる犬の写真を見せながら、自分は子どものころに、周りの人たちが「犬」と呼ぶ生き物すべての共通点が何であるのか、理解できなかったという。彼女は、多くの種類の犬を観察した後、ついに犬の鼻の形に その共通点を見出すことができた。彼女は、人々が「犬」と名づけているすべての動物は、体の形、大きさ、色、ないし毛の種類にかかわらず、まったく同じ鼻の形をしていることを発見したのである。彼女はまた、猫、馬、牛、および羊など、他の動物がその鼻の形をしていない、ということにも気づいた。したがって、彼女が作り出したルールとは、「この特定の形の鼻を持つすべての動物は犬と呼ばれている」というものであった。彼女は、「そのとき熊について調べていたら、大きな問題になっていたことでしょう。後になって、熊も同じ鼻の形をしていることを知りました」とユーモラスにその話を終えている。

成人アスペルガー症候群の認知行動療法(星和出版)P.303

 このように、定型発達児者であれば問題のない分類も自閉症児者には大変苦労することがあるのです。

②応用が苦手
 使用できるスキルを他の場面で応用することが難しいです。例えば以下のような例があります。

 このように、一つのスキルを覚えてもそれを応用することができないことが問題として起こることがあります。

③他者の立場を理解することが苦手
 他人に共感することが乏しいことがあるため、他人の感情に合わせた行動をとることが時に難しいです。以下が例です。

 このように、他人の表情を理解したり、気持ちを汲み取ったりすることが難しいことがあります。

治療法について

 自閉症の根本的な治療方法は見つかっておりません。これは、自閉症の原因がそもそも突き止められていないことが関連しています。今後、自閉症遺伝子の特定などが進めば投薬や手術等で回復するようになるかもしれません。
 現時点では、問題である行動(癇癪、無発語等)を一つ一つ改善してくことにより自閉症の症状を緩和することを目指していくABA(応用行動分析学)が最も有効とされています。エビデンスベースのアプローチを調査しているこちらのサイトで調べるとわかりますが、自閉症に対して効果的である(What works)はABAが挙げられています。もう一つの「EIBI」もABAの派生の方法の一つです。注意としてはABAというのは方法の集合体であり、それぞれの方法によってかなり効果が変わってくることです。ABAに関しては以下のページを参照してください。

https://abahaffy.com/update/13509

まとめ

 「我が子が自閉症ではないか」と思ってこの記事を読んでいる方も多いと思います。ですが、自閉症が原因で問題行動が起きるのではなく、問題行動を起こしている者が自閉症と診断を受けるだけです。ですから、「うちの子供は基準から言うと自閉症ではないから問題ない」という考え方は正しくありません。重用なのは、自閉症という診断名に拘泥せずに日常生活で起きている深刻な問題を一つ一つ解決していくことです。自傷、他害、癇癪、逃避といった行動があり日々の生活が大変ならばそれを少しずつ改善していく方法を考えたほうが良いと思います。そうすれば自閉症であろうがなかろうが親も子供もよりよい生活が送れるようになりますよ。
 また、自己判断だけに頼ってしまうのは危険ですので、心理士や医師に相談してみることも重要です。

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