自閉症児の問題行動が起こる前にできる先行介入とは?
自閉症スペクトラム障害児の問題行動というのは突発的に起こることが多く、親は子供が怒ったり問題行動を起こす度に慌てて対応する必要が出てきます。本日は自閉症児の良い行動をサポートし、問題行動を防ぎやすくするための方法について解説していきます。
目次
先行条件、先行介入とは
自閉症児に適切に教えるため、先行条件(せんこうじょうけん)/先行刺激(せんこうしげき)/先行自称(せんこうじしょう)という概念が大事になってきます。先行条件の定義は以下の通りです。
行動の前に起こる刺激変化は先行事象(antecedent)である。この用語は、対象とする行動の前に存在するか生起する環境条件、ないし刺激変化を表す。
『応用行動分析学』P.51(明石書店)
先行条件を色々と変えることで行動を改善しようとすることを先行条件操作(せんこうじょうけんそうさ)/先行介入(せんこうかいにゅう)と言います。定義は以下の通りです。
先行ベースの行動改善戦略
『応用行動分析学』P.803(明石書店)
つまり、問題行動が起こる前に何らかの方略を取ることで問題行動が起こることを防ぐ方法と定義できます。
先行介入の種類
では先行介入はどのようなものがあるでしょうか。以下が種類です。
1.身の回りの環境を変える
子供の集中しやすい環境を作ったり、問題行動が起きづらい環境を作ったりします。社会の中では以下の様な例があげられます。
- 電車のホームの柵(飛び降り自殺や誤って転落することを防ぐ)
- 家の鍵(他の人が部屋に無断に侵入することを防ぐ)
- 扇風機のカバー(手が巻き込まれ、けがをすることを防ぐ)
これらは全て身の回りの環境を変えることを実施しています。
2.スケジュールの明確化
スケジュールは図や絵を用いて説明されることが多いです。注意点は以下の通りです。
- 子供が理解できるものにする
子供が理解できない形では全く意味がありません。視覚化した図等を用いることで、子供がわかる形にしましょう。子供が理解できているかどうかは子供がスケジュールを見ることで、その行動に素早く取り掛かれている、もしくは発語が可能な子供はカードを見せた時に「○○」と説明できるようになることが目安です。 - やさしい活動と頑張る活動を交互にする
準備ができたら遊び、勉強ができたらおやつ等交互に難しい活動とやさしい活動を行います。これにより、モチベーションが長続きします。 - 可能な場合は子供と相談して決める
実施する課題が決まっている場合、子供と相談して順番を決めることはモチベーションを高くします。必ずしも宿題→おやつではなくてもよいのです。 - 必ず文字も載せる
絵や写真を利用してもよいですが、長期間に渡って使用することを考える場合はカードに文字も載せましょう。そうすると最終的には文字のみでのスケジュールに変更することが可能になります。 - 必ず言語で説明する
スケジュール表を見せるだけではなく、必ず言葉で説明しましょう。また、次のスケジュールを子供に指差しさせる等して、何を実施しているのかを明確にできるようにしましょう。
ただし、スケジュールは段々と減らしていく必要があります。特に毎日決まったスケジュールを過ごす場合等の場合は固定する必要はありません。
よって、以下のように段々と簡素化、文章化していくことが望ましいです。
段々と絵などが省かれ、理解できる時間等は文章で説明されるようになっています。こうすることで、時間割等の特別な配慮がない状態でも行動できることが期待できます。
3.課題、方法の変更
例としては以下の通りです。
- 興味が持てるように、足し算をスーパーでお菓子を買いながら教えた
- 解いていったら楽しみが増えるようなゲーム方式で学習をする
- やり方を明確化することで、方法が簡単になる
動画で確認してみましょう。
同じ機能を持つ方法でしたら簡単な方法を使っても問題がありません。この靴紐の結び方のほうが強力であり、緩みづらいと思います。ボーイスカウトの子供に確認しましたが、これが正式な蝶結びのやり方であるそうです。
これらの動画はVoice4Uというコミュニケーションエイドアプリを作成した方がアップしている方法です。とても参考になります。
4.ルールの明確化
ルールを明確にすることで子供は約束を守って適切な行動を守って行動できやすくなります。
約束表が使われることが多いですが、言葉で伝えてもよいです。以下のルールがあります。
- 望ましい行動や望ましくない行動を
- 親と子どもの間で具体的に取り決め
- その内容を理解できるようにする
実は、これはトークンシステムのルールと全く同じです。トークンシステムについては下記のページを参照してください。
5.指示の明確化
指示をわかりやすいものにすると適切な行動が出やすくなり、不適切行動を予め防止することができます。子供にわかりやすい指示の方法は下記のページを参照してください。
これらのポイントにおいて先行介入を行うと、子供の不適切行動を防ぎ、適切行動の増加が望めます。
先行介入のデメリット
先行介入のデメリットは以下の通りです。
1.環境に依存している
環境に依存してしまうと、適切行動の学習、不適切行動の我慢という機会がなくなってしまいます。ですから、環境を元に戻した瞬間に不適切行動が増え、適切行動が減るということが起こります。あくまで環境によって手助けをされている(プロンプト)ということを忘れないようにしましょう。
2.子供が成長すると使いづらくなる
子供が小さいうちは先行介入は有効性が高いですが、成長すると特に不適切行動を消すための先行介入は難しくなっていきます。例えば、昔はチェーンをかけていれば家から出ていくことがなかったとしても、成長すると子供はチェーンを外して出ていくことを覚えてしまいます。
3.効果が検証されていないことが多い
特に公的療育ですと、全員に対して絵カードを使用したりしています。それは、「自閉症の子供は絵カードだと理解できるから」と説明されています。ですが、実際に絵カードを見せても子供は一人では行動していないため、絵カードという先行介入が効果があるかどうかは確認ができていない状態です。効果がないにも関わらず先行介入されているケースは多いです。
先行介入を有効に使用するために
先行介入を効果的に使用するための方法は以下の通りです。
1.問題を先送りにする
特に、問題行動を防ぐために使用されます。例えば、外で移動中に座り込んでしまうような場合は、ベビーカーに乗せることにより問題行動をひとまず防げます。現時点では先行介入でしか防げない場合は、このような対応をすることで問題行動が消せるようなレベルになるまで問題を先送りにできます。
2.最終的には元の環境に戻す
先行介入があると、常に環境に依存している状態になってしまいます。よって、先行介入によって変更している環境は最終的には元の環境に戻していく必要があります。無期限で使用してよいものは、
- 毎回異なるスケジュール
- 月1回のようなあまり用いられない方法
のようにイレギュラーなものだけです。
3.フェイディングしやすい方法を優先
図や絵を使用すると、先行介入はフェイディングしずらいです。ですから、声掛けや毎回手本を見せる等のどんどん先行介入を減らしていけるような方法を優先すべきです。
まとめ
先行介入は自閉症児を指導するにあたって、非常に効果がありますが、一方で学習の機会を奪ういわば諸刃の剣です。誤った使用方法で子供の成長を妨げないようにしましょう。