トークンシステムとは何?自閉症児に使うべき?
トークンシステムは療育場面でよく使用される方法です。自閉症スペクトラム障害児にも使うことが多いです。今回はトークンシステムは何か。トークンシステムの注意点について解説していきます。
目次
トークンシステムとは何か
トークンシステムの定義は以下の通りです。
標的行動の生起に対してトークン(代用貨幣)を与えることで.その行動の生起頻度を高めることを目指す応用行動分析学の技法であるこのトークンは、ほめ言葉のような社会的な注目に比べて、物理的かつ視覚的であり貯蓄可能という特徴をもつ。例えば、マグネットやポーカーチップ,ステッカーやスタンプなどを行動の生起に対して与えることで、どれだけたまったか,あとどれくらいで目標に到達できるか視覚的に把握できる。そして、学習者がためたトークンの量に従って、その学習者にとって価値あるアイテムや特別な活動の権利(例えば、飲食物、玩具、文具,一定時間の遊びなど)と交換することができる。これらの価値ある事物や活動をパックアップ強化子とよぶこのパックアップ強化子が得られることによって、トークンが条件(性)強化子として機能することになるより魅力的なシステムにするために、パックアップ強化子のリストを作成して、交換アイテムの価値の高低に合わせて必要とされるトークン量の多少を決めていく。学習者は自分で何を購入するか決めることができる。この技法にエコノミーという名がつけられているとおり、このシステムは経済学と密接に関連するところがあり、実際の日常生活の中では広範囲に取り入れられている(特定店舗でのみ利用できるポイントシステムや航空会社のマイレージなど)。
『行動分析学事典』P.532(丸善出版)
ポイントやチップ、おもちゃのお金などを報酬( 強化子) として用いること。 トークンが強化的な性質を持つのは、確立された強化子( 既に欲しいと思っている物や活動)と交換できるためである。個人やグループに対してトークンエコノミーを上手に利用すると、望ましい行動が著明に増加し、しばしば不適切な行動に取って代わるという効果がある。また個人の発達レベルによっては、トークンをためてより大きな報酬と交換したり、別のときに使ったりすることもできる。
『自閉症百科事典』P.179(明石書店)
つまり簡単にまとめると以下のようになります。
1.ABAの手法の一つ
トークンシステムはABAの手法の一つです。自閉症を含む発達障害児によく使用されます。
2.良い行動に対してトークン
適切な行動に対してトークンが渡されます。例えば、食事中に離席をしなかったといったことです。
3.トークンは後でご褒美と交換可能
トークンはその場ではすぐに交換できませんが、貯めてからご褒美と交換できます。ご褒美はバックアップ強化子(好子)と呼ばれ、複数の種類から選べるカタログギフトのようなものになっています。一般的に、トークンはためれば貯めるほど高価なご褒美と交換が可能になります。
4.視覚的な表を使う
日本ではそこまで使用されていませんが、海外では比較的オーソドックスな方法で、発達障害児に限らず使用されています。”Token economy”で調べると様々な表が出てきます。
トークンエコノミーシステムの実践例
トークンシステムの実践例を見ていきましょう。実は、トークンシステムは大きく分けて2つあります。
①トークンを貯めて当日以降にご褒美と交換するシステム
オーソドックスな方法です。トークンを貯めて翌日以降に交換します。
②トークンを貯めてすぐその場でご褒美と交換するシステム
年少児に使用するケースです。1回の課題で1個のトークンがもらえ、トークンが言って以上に貯まった段階ですぐにご褒美と変更します。
トークンシステムのメリット
自閉症児にトークンシステムを利用することのメリットは何でしょうか。以下の通りです。
1.長期的に行動を制御できる
トークンシステムは日をまたいでトークンを貯めていけるので、長期的な行動の制御が可能です。例えばこんな表です。
これは手洗いなのでかなり一日に回数が多いですが、それでもこれだけ貯めるようにすると長期間に渡って行動の制御が可能になります。選べるご褒美も多いため、モチベーションも下がりづらいです。
2.様々な目標行動に応用可能
適切行動をすることにも、不適切行動を少なくすることにも使用できます。これは、様々なご褒美があるため、行動をすることにも行動を我慢することにも子供を頑張らすことが出来るからです。
3.成果が子供にわかりやすい
表になっているため、目標までにあとどれくらい貯めればよいかが子供にわかりやすいです。それは、モチベーションアップにも一役買っています。
4.表は子供の自信になる
完成されていった表は子供にとって自信になります。表が完成したら捨てるようなものでなく、ずっと取っておくようなものなのです。表自体も子供が好きなものを使用していることも関係しています。
トークンシステムのデメリット
一方、トークンシステムのデメリットは以下の通りです。
1.トークンシステムを止めると効果がなくなる
トークンシステムは適切行動の増加、不適切行動の減少の両方を狙えるすぐれたシステムですが、そもそも両方とも自然環境下ではご褒美を得られない目標行動に対してたくさん使用していくということが問題です。例えば、食事中に着席し続ける、食事は箸で食べる、親のお手伝いをするといったことはご褒美がなくてもするべき行動です。これをどのようにご褒美なしで実施していくかは説明されないことが多いです。また、トークンシステムを使用している自閉症児は親の指示をきちんと従うことに難がある(コンプライアンスが低い状態)ため、ご褒美でつらないと行動してくれないということもあります。
2.主導権が親にない
トークンシステムはシステム自体は親が作りお膳立てをしますが、行動をするかしないかの決定権は子供に委ねられています。ですから、元からご褒美が少ない子供等は全く行動しない可能性もあります。また、トークンを沢山貯めた後はしばらく全く行動しない期間があるといった偏った課題の実施方法を子供が選ぶこともあります。
3.ご褒美に飽きたら子供が行動しない
トークンシステムは沢山のご褒美を使用していく方法です。ですから、最初はすごくモチベーション高く子供が課題に取り組みますが、段々とご褒美に飽きていってしまいます(好子の飽和化)。これは、ABAの一種であるDTTでも同様のことが起きます。
4.ご褒美がどんどんエスカレートしていく
トークンシステムはトークンを段々と貯める量が増えていくことが一般的です。そうするとよりよいご褒美をどんどんと足していく必要があります。これは、子供がご褒美に飽きていくことも関係していきます。こうすると子供のご褒美にかける金額が右肩上がりに上がっていきます。親にとっても痛い現象です。
5.一定水準の知的レベルが必要
日をまたいでトークンを貯めるようなシステムの場合、ご褒美が即座にもらえないためある程度の知的レベルがない子供にとってはルールの理解が難しいです。少なくとも無発語状態の子供や小学校入学前の子供に関しては使用できないでしょう。
自閉症児にトークンシステムを使うべきか
トークンシステムを利用するメリット、デメリットを説明してきましたが、結局自閉症児にはトークンシステムを使用するべきでしょうか。答えは否です。以下の通りの理由です。
1.刹那的な支援方法
トークンシステムはじゃぶじゃぶご褒美を使用していくので、短期間では非常に効果を上げやすいですが長期間に安定して効果を上げていくことには向いていません。家庭でのDTTも同様です。トークンシステムの末期には大抵の親が次の子供にとって有効なご褒美を血眼で探している状態です。
2.適用年齢、適用能力が狭い
トークンシステムを使いこなせる子供をかなり選別するので、わざわざ使用するメリットがないです。
3.ルールが理解できる子供には必要ない
トークンシステムは文字を読んだり、ご褒美が後でもらえたりといったことを理解することが必要です。これらのルールがしっかりと理解できる子供は、能力が高い子供です。このような能力を有する子供は、トークンシステムでなくても適切行動を教えられ、不適切行動を減少させることができます。PECS等もそうなのですが、そのシステムを必要としている子供は使いこなす能力がなく、使いこなす能力がある子供はそのシステムを必要としないというジレンマを抱えています。
自閉症児にトークンシステムを使いたい場合は
このように、トークンシステムは自閉症児に向いていない支援方法ですが、それでもトークンシステムを使用したいという方向けにポイントを説明します。以下の通りです。
1.能力が低い子供には使用しないこと
トークンシステムを利用するには少なくとも、ひらがなが全て読めている状態でなければなりません。この時点でかなりしようできる子供が限られてしまいますが、やはりルールを読めないにも関わらずルールを理解できるようにすることは難しいですし、すぐその日にご褒美が得られるトークンシステムであれば利用するメリットがありません。少なくとも年長以上の子供になるでしょう。
2.ご褒美はシールのみ
ご褒美を沢山使用してしまうと、ご褒美に飽きてしまう可能性があります。ですから、よくできたらシールを表に貼り、シール自体がご褒美になるようなシステムにしていきましょう。ただし、シールは色々な種類を集め、子供が好きなシールを選べるようにしたほうがよいです。
3.表にできたことを書き加える
トークンシステムの素晴らしいことは成果が子供にわかりやすいことです。ですから、できたらシールを貼るということに加え、その日できたすばらしいことを親が表に書いていくということが効果的です。例えば「連続〇日達成!」「初めてすべて一人でできたよ!」と連続記録や新記録を書いていってあげ、表を子供の見えるところに貼っておくと子供が何回も見直すことができます。
まとめ
このように、トークンシステムは優れた点もありますが、基本的に自閉症児にはかなり使用方法に制限がある方法です。表が楽しいといったことは大きなメリットですので、年少児であればトイレに行けたらシールを貼るといった頑張り表の形で使用していくことがよいでしょう。子供の好きなキャラクターの表を一緒に作るなどしたらモチベーション高く実施してくれます。いろいろと試してみてください。