ABA~見守るだけではない、自閉症療育の方法~
自閉症スペクトラム障害(自閉症)に対する効果的な方法としてABAがあります。自閉症に関する詳しい説明は下記を参照してください。
今日はABAに対する解説を行っていきます。
目次
ABAとは何か
ABAとはApplied Behavior Analysisの略で、日本語では応用行動分析(学)(おうようこうどうぶんせきがく)と訳されます。簡単な定義は以下の通りです。
行動原理から導き出される戦術を,社会的に重要な行動を改善するために組織的に応用して.実験を通じて行動の改善に影響した変数を同定する科学である
行動分析学事典P.130
もっと簡単に説明すると、科学的に証明されている理論を応用して行動を教えたり修正したりする方法です。ABAは単一の方法ではなく、理論のことです。ですからABAを使用した様々な方法が提案されています。代表的なものは以下の通りです。
ABAは自閉症児に特化したものか
ABAはそもそも自閉症支援に特化した理論ではありません(DTT等のABAを利用した方法は別)。ABAの理論は動物から定型発達の大人に対しても応用が可能な非常にカバー範囲が広いものです。
これは犬の殺処分を防止するプロジェクトで保健所の犬に車の運転をABAの理論を使用して教えている方法です。
これも有名な動画です。チャーリーとチョコレート工場の1シーンなのですが、一部のCGを除きリスにABAの理論を使用して演技を教えています。詳しくはこちらのページで解説してありますが、素晴らしい指導技術です。
このような動画をのせると、「ABAは子供を動物と同じように扱うのか」という批判がくるのですが、違います。「動物でも理解できるような簡単な方法だから自閉症児にも応用が可能」なのです。私も時折犬のトレーニングの依頼が来ます。私もドッグトレーナーではないですが、日頃の技術を応用して指導することが可能です。
なぜ自閉症にABAは有効と言われるか
前述の通り、ABAはそもそも自閉症に特化した方法ではないです。それでも自閉症に効果があるとされているのは、自閉症児者にとって他の方法での行動の獲得が非常に困難だからです。
例えば、定型発達児であれば、ほめる、おだてる、叱るといった方法でも行動を伸ばすことが可能なことがあります。教室などでも多くの先生は叱ることによって行動を制御しています。
ですが自閉症児の場合、ほめても叱っても行動の獲得ができずにABAを使用してより緻密に教える必要があります。ですから、「自閉症児にはABAが効果的である」というよりは「自閉症児にはABAしか効果が出せない」ということが正しいです。
ABAの主な理論について
ABAには様々な理論があります。代表的な物を見ていきましょう。
1.強化
強化は以下のように説明されます。
強化は行動に後続して生じた環境の変化で、将来同じような場面で その行動が生起する確率を高める効果をもつものである
自閉症教育基本用語辞典P.64
強化は特定の行動の後に子供にとってご褒美となるものを与えたり、嫌がることを取り去ることで直前の行動が増えることです。強化の理論を使用して、発語等の適切な行動を増やしたり強めたりします。詳しくは以下のページを参照してください。
2.弱化
弱化は以下のように説明されます。
弱化は行動 に後続して生じた環境の変化で、将来同じような場面でその行動が生起する確率を低める効果をもつものである。
自閉症教育基本用語辞典P.64
弱化は特定の行動の後に子供にとってご褒美となるものを取り去ったり、嫌がることを与えることで直前の行動が得ることです。弱化の理論を使用して破壊行動や危険行動等の不適切な行動を減らしたり弱めたりします。詳しくは以下のページを参照してください。
3.シェイピング(行動形成)
シェイピングは以下のように説明されます。
シェイピング(shaping ) とは、標的行動が、既存の行動の中に見いだせ
自閉症教育基本用語辞典P.104
ない新しい行動である場合、標的行動それ自体を強化することができないた
め、漸次的接近を分化強化 して、新しい行動を形づくることをいう。
新しい適切な行動を教えようとする場合、まだ出現しない行動のため強化の原理は使用できないため、新しい適切な行動に少しでも似ている行動を強化します。例えば、「ちょうだい」という言葉を教えたい場合、「ちょうだい」という行動はでないため、「おーあい」「あ」といった似た言葉を強化していくことを目指します。
4.消去
消去は以下のように説明されます。
ある行動を持続させていた強化を行わな いことで、その行動を減弱させたり消失さ せたりすること。行動がもう強化されないとなると、その行動はやがて弱まっていく。
自閉症百科事典P.64
消去は強化をしないようにすることで、今まで強化されていた行動が段々と弱まっていく原理です。望ましくない行動を弱めるために使用されます。
5.環境調整(先行条件操作、先行刺激操作等)
環境調整は以下のように説明されます。
自閉症スペクトラム障害児・者が障害を克服し,社会に適応していくことは必要である。しかし、一方で、状況をつくりだしていくことも大切 な視点である。音やにおい, 色などの調整, 構造化された表示, 整然とした施設環境など, 自閉症スペクトラムの特性に配慮した環境づくりが効果を上げている。
自閉症スペクトラム辞典P.27
環境調整は適切な環境を用意することで問題行動を防いだり、適切な行動が出やすい状況に調整することです。子供が階段を登らないようにベビーガードを付けるのもこの理論を使用しています。
ABAの長所、短所
ABAには長所、短所があります。
1.ABAの長所
ABAの長所は以下の通りです。
特に問題の解決が早いというのは素晴らしく良いことです。例えば、泣く行動に対処する場合は①自我が目覚めたから泣いている②要求が増えることはいいことというような成長を待つような方法ではなく、即座に減らしていくことが可能です。
2.ABAの短所
ABAの短所は以下の通りです。
特にABAセラピストの少なさは深刻です。これが他の全ての問題に関連しているとも言えます。私は、日本だけではなく、海外からも依頼が来ますのでこれは日本に限ったことではなく世界的に人手不足であるとということです。以下の記事も参照してください。
公的療育でABAを提供しているところはほぼありません。公的療育は経過観察をしているところですので、積極的に子供の能力を伸ばしたりすることは嫌がられる風潮があります。よって、公的療育の心理士にABAは敵視されることが多いです。
また、料金の高さは大きな問題です。専門家に指導してもらうには大学の相談機関に行くか、一般企業かといった選択肢しかありません。よって費用が割高になっています。一般企業の場合、一時間5000円~8000円が平均のようです。アメリカで行われているような20時間~40時間の療育を日本で実施しようとすると大体年間で800万円ほどかかります。 実際に以下の本では金銭的に大きなダメージがあったことが説明されています。
3.ABAの短所を補うために
ABAの短所を補うためにいかのような案が考えられます。
最大の問題である、ABAセラピストがそもそも見つかるかという問題ですがこれは頑張って探すしかありません。ですが、最近は昔に比べるとABAを実施している事業所も増えました。その分、ちゃんとしたABAを指導していないセラピストも増えた印象です。
ABAという名前を毛嫌いする人もいるので(特に公的療育の心理士)、家でABAを実施しているといったことは伝える必要はありません。むやみに伝えると「ABAなんて効果ない」「ABAを実施しているから公的療育で機嫌が悪い」といった嫌味を言われてしまうことがあります。
費用が高いのは問題ですが、ABAの費用は医療費に回せる可能性があります。療育手帳を取得している、医師の療育指示書をもらっているといった条件はありますが、確定申告で申請してみる価値はあります。許可が出るかどうかは市町村の判断になりますので何とも言えません。
ABAは効果が証明されているか
ABAは様々な研究によってその効果が証明されています。”Association for Science in Autism Treatment“ではABAから派生する2つだけが自閉症に対して効果があると説明されています。
まとめ
ABAは自閉症だけではなく、様々な分野で使用されています。少しずつ認知度は上がってきていますのでこれからは欧米のように保険適用できるような方法となっていく可能性もあると思います。