自閉症児の行動を教えるためのヒント、プロンプトとは?
自閉症スペクトラム障害児を持つ親は、定型発達児に比べると丁寧に教えないといけないと適切行動の獲得が難しいことがあります。今回は自閉症児を指導する時にポイントとなるプロンプトという方法について解説していきます。
目次
プロンプトとは
プロンプト(prompt)とはABAの専門用語であり、以下のように定義されています。
行動の前に提示され, 学習の標的となる行動(適切な行動)が生起する確率を高める補助的な刺激である
『行動分析学事典』P.450(丸善出版)
ABAでは行動をきっかけ、行動、結果に分けて考えます。これをABC分析と言います。詳しい解説は下記ページを参照してください。
プロンプトはきっかけより後の、行動の直前に与えられるイメージです。プロンプトを使用することで、子供はヒントをもらい、適切な行動がとれるようになります。
プロンプトの役割
では、プロンプトの役割は何なのでしょうか。以下の通りです。
1.行動を教える
プロンプトはヒントとして機能しますので、適切な行動を教えることができます。正反応を引き出すための方法がプロンプトの主な役割です。
2.連続失敗を防ぐ
子供が間違えた時に指導者がプロンプトを出すことで連続失敗を防ぎます。これは、連続失敗をすると好子をもらえないため、子供が怒る可能性が高まるからです。ですから、DTTでは、一度間違えるとプロンプトを使用するといった方法がとられます。
3.問題行動を防ぐ
問題行動を起こしそうになった時に、身体プロンプトなどを使用して問題行動を止める方法が考えられます。
プロンプトの種類
プロンプトにはどんな種類があるでしょうか。実はかなり多いです。以下が一覧です。
反応プロンプトとは、子供の反応に直接働きかけるプロンプト(子供の正解を指導者の反応で引き出す)で、刺激プロンプトとは先行する課題刺激に対して働きかけるプロンプト(課題の選択肢を工夫することで子供の正解を引き出す)です。基本的には反応プロンプトが使用されることが多いです。
1.身体プロンプト
フルプロンプトとも呼ばれるプロンプトです。とても強力なので、不正解になることがまずありません。
このように、子供の手足を取ることで、子供の正答を引き出します。必ず正答させることができる一方で、子供が全く反応を見せなくても正答できてしまうので、子供が集中していない時等は全く意味がないことがあります。特に、正解となる体の動き自体が子供にとって難しい場合は身体プロンプトで教えてもその後子供が一人で正しい体の動きを出せることは難しいです。
例えば、上記の動画のようにスプーンですくう行動を身体プロンプトで教えたとしても子供が一人でスプーンですくう行動ができるようになる可能性は低いです。ですから、身体プロンプトは入浴等の指示を拒否する場合等に限定して使用したほうが良いです。
2.モデルプロンプト
モデリング、動作模倣とも呼ばれます。親が手本を見せることで子供に適切行動を教える方法です。
指導者が手本を見せて、子供が適切行動をすることを見守ります。2:00~は最初モデリングだけで教えようとしていましたが、できないので身体プロンプトも使用していることが分かります。
モデリングは身体プロンプトよりも難易度は高いですが、これでできるとプロンプトなしにしても子供一人でできる可能性が高いです。この方法では、親が目の前で手本を見せる他にタブレットやスマホを使って映像を見せて実施させることも可能です。
こちらではどのように会話を始めればよいかが映像によって示されています。この映像を見せてから真似するように促します。親がその場で指導する方法とは違い、行動を覚えて実践しなければならないためより高いスキルが必要となってきます。
3.身振りプロンプト
指さし(ポインティング)やジェスチャーを使用してヒントを与えるプロンプトです。ジェスチャーとモデリングの違いはジェスチャーは行動の一部分だけを見せるのに対して、モデリングは正答となる全ての行動を見せることに違いがあります。
動画では、指さしにより子供に正答を伝え正解に導いています。この方法は初期段階では指さしで触ることによって教えますが最終的には離れた場所にある物でも指さしによって教えることができるようになります。
4.言語プロンプト
直接言語プロンプトと間接言語プロンプトがあります。
直接言語プロンプトはこのように、実施する指示を全て伝えることです。「ちょうだい」と音声模倣させてから実施するのも直接言語プロンプトと呼べるでしょう。
一方、間接言語プロンプトは全ての答えを教えません。動画では「何してる」「お」「泳いでる」のように答えの一部分を教えています。同様に、「ご飯食べる前に何をすればいいの?」と手洗いを促す行為も間接言語プロンプトです。
プロンプトのメリット
プロンプトのメリットは以下の通りです。
1.行動をスモールステップで教えられる
プロンプトを使用すると、行動をスモールステップで教えることができます。これにより、複雑な行動の獲得が容易になります。
2.好子を渡す機会を作る
DTTに関しては、プロンプトを使用することにより正解を導き出すことができるため、好子を渡す機会を作ることができます。
このように、間違えた後にすぐ身体プロンプトを使用することで子供は好子を渡す機会を得ています。こうすると、子供が連続失敗を起こして課題に対してモチベーションが下がってしまうことを防げます。
3.問題行動を防げる
問題行動を起こしそうになった時にプロンプトを使用することで防ぐということができます。これは、「それしたらダメだよ」といった声かけや、問題行動を起こしそうになったら手を持って適切行動をとらしてしまう(例えば、食事中に手を使ったらスプーンを持たして食器で食べるように促す等)
プロンプトのデメリット
一方、プロンプトのデメリットは以下の通りです。
1.プロンプトに依存してしまう
高頻度でプロンプトを使用していると、行動を全く覚えなくなってしまうという可能性があります。これをプロンプト依存と呼びます。プロンプト依存は特に2択の行動でよく起こります。
例えば、この動画では、「持ち上げて(up)」「下して(down)」ということを遊びながら教えることを目指していますが、子供は「Up, down」と要求言語(マンド)を連呼しているので、全く覚えていません。このように、間違えるとプロンプトですぐに教える行動は、正解をすぐに導き出せる一方で、子供が行動を覚えなくても強化してしまうという欠点があります。
2.子供が怒らないように多用されがち
プロンプトを使用するとご褒美(好子)を渡せるというメリットがあります。子供の中には学習していて好子がもらえないとすぐに怒り出す子もいます。
例えば、この動画のケースではすぐにおかしがもらえないと大声を出し始めるので、すぐに指導者が身体プロンプトを使用して要求のジェスチャーを教えています。これを繰り返しても、この行動を獲得できる可能性は低いです。なぜなら、子供は怒ったらプロンプトによりお菓子をもらえているので、怒ることのみが強化されるということが起こりやすいです。
3.使用できない行動がある
例えば、音声模倣はプロンプトを使用しても必ず発音できるとは限りません。か行、さ行、は行は発音のみで子供が聞き分けて発音しなければ行動が獲得できません。また、手先の行動を教える場合に身体プロンプトを使用して教えることは無意味です。このように、プロンプトは目には見えない部分にある行動や微細な運動スキルを教えるには向いていません。
プロンプトを使用するポイント
プロンプトを有効活用するためにはどうすればいいでしょうか。以下がポイントです。
1.身体プロンプトは使用場面を限る
身体プロンプトはよく使用されることが多いですが、使用場面を限らなければプロンプト依存を起こしやすい厄介なプロンプトです。身体プロンプトは、行動を拒否する時などの場面に限りましょう。特に使用してはいけない場面は微細運動、粗大運動を教える時です。
例えば、縄跳び、ハサミ、鉛筆、洗濯物たたみといった行動は身体プロンプトを使用して教えてはいけません。
この動画では、髪の毛にブラシをあてることを身体プロンプトを使用して教えようとしていますが、これは微細運動になりますので、使用すべきではありません。使用すべきなのは、モデリングか音声指示、ポインティングです。
2.段々とプロンプトを足していく
プロンプトは「最大から最小へ」と言われるように、身体プロンプトから段々と減らしていく方法が推奨されています。ですが、私は、反対で「最小から最大へ」を推奨しています。なぜなら、最大のプロンプトから使用してしまうと、不必要にプロンプトによる手助けをしてしまう可能性があるからです。これもエラーレスラーニングや癇癪のコントロールのために行われている可能性が高いです。可能であれば、プロンプトは全く使用せずに行動のスモールステップだけで習得をめざしていくほうが指導効果が高いです。また、アイコンタクトの課題等は待つ以外のプロンプトは使用せずに教えていくことで子供の試行錯誤を促していきます。
3.コンプライアンストレーニングを実施する
コンプライアンストレーニングを実施しないと、子供は一度間違えただけで癇癪を起こしたりします。もし間違えた時に怒らないのであれば、プロンプトを使用せずにできるまで試行錯誤を促すことが可能になります。よって、プロンプトを定期的に使用して正解させなければいけないような気づかいをしなければならない場合は、まずは日常の癇癪行動を消していくことを目指していきましょう。
まとめ
プロンプトは大変役に立つ方法ですが、使用方法を間違えると行動の習得に支障をきたします。使用ポイントを守り、無理に使用しないようにしましょう。