自閉症児にご褒美を使用していい?使用する基準は?
基本的にABAは自閉症スペクトラム障害児に対してご褒美を使用して適切な行動を教えていきます。親の中では、沢山のご褒美を使用することに抵抗を覚える方もおられると思います。今回は行動形成に関してご褒美を使用することに対して解説していきます。
目次
自閉症児の好子とは何か
自閉症児に使用されるご褒美は好子(こうし)と呼ばれます。場合によっては強化子(きょうかし)とされます。定義は以下の通りです。
対象者に与えられると行動頻度を増大させるもので、しばしば報酬と呼ばれる。しかしながら報酬は、その行動上の効果が行動を増加させるものである場合に限って強化子となる。
『自閉症百科事典』P.143(明石書店)
つまりそれを与えた結果、行動が増えなければ好子ではありません。例えば、親が子供をほめたとしてもその後その行動が増えなければ好子としては機能していないこととなります。好子に関しての詳細は以下の記事を参照してください。
好子を与えることによって行動が増えることを「行動が強化された(好子による強化)」と説明されます。詳しい解説はこのページを参照してください。
自閉症児に好子を使用するメリットは何か
自閉症児に好子を使用するメリットは何でしょうか。以下の通りです。
1.行動が素早く身に付く
好子を使用すると行動の強化ができます(好子による強化)のでどんどんと行動を教えていくことが可能です。
これは、ABAの手法の一つであるDTTです。このように、様々な課題を好子を使用することで教えていけます。好子は大抵複数種類用意され、モチベーションが下がらないように入れ替えられていきます。
2.様々な課題の練習が可能
好子を使用することで子供のモチベーションが高くなるため、様々な課題にチャレンジさせていくことが可能になります。
ここでは、野菜を食べることをお菓子という好子を使って訓練しています(偏食改善)。このように、子供が嫌いなことであっても好子を足すことで自らチャレンジさせることが可能になります。
3.誉め言葉、笑顔、ボディータッチをご褒美に変える
自閉症児は他人の誉め言葉、笑顔、ボディータッチを喜ばない傾向にあります。ですが、誉め言葉、笑顔、ボディータッチをした後に好子を与えるということを続けると、誉め言葉、笑顔、ボディータッチが好子へと変化します。これは、ペアリング(同呈示)と呼ばれる手法です。例えば、人は自分が好きなことを話すだけで笑顔になります。なぜなら楽しかった過去の経験がよみがえるからです。同様に誉め言葉、笑顔、ボディータッチが好きではなかったとしても、その後に好子を与えることで誉め言葉、笑顔、ボディータッチがあったら楽しいことが経験できると結びつくので好子になるのです。
自閉症児に好子を使用するデメリット
では、次に自閉症児に対して好子を使用するデメリットを考えましょう。
1.好子がない状態で行動がでる保証がない
自閉症児が好子を使用することで様々な課題の練習が可能になりますが、一方で好子が使用できない状態で同じ行動をしてくれるかということに関しては保証ができません。例えば、どんなに好子を使用してご家庭で練習したとしても、同じことが好子がない保育園/幼稚園場面ではできない可能性があるのです。そういった意味で好子はドーピングに例えられます。
2.親が好子と思っているだけ
好子として機能しているのは、その行動が増えている場合のみです。行動が増えていなければ、好子としての機能はありません。子供にお菓子を渡してそれを子供が食べたとしても、好子として機能しているかどうかは別です。ABAのDTTでは子供がご褒美を欲しいという態度をとっていないのにも関わらず、指導者が与えていることがあります。
例えば、この子供はお菓子をあげたら食べるものの、終始指導者の顔を見ておらずボーっとしています。このような状態でお菓子が好子として機能している可能性はゼロです。
3.好子に飽きたら子供が行動しない
好子というのはいつか好子ではなくなる運命の物です。これは好子の飽和化と呼ばれます。特にお菓子等は、使用し続けると好子ではなくなっていきます。ですから、好子による強化がおきるからといって好子に頼っていると、いずれ子供のモチベーションが下がっていき、ついには行動を教えることに困難が生じます。DTTを実施していると、早ければ2か月ぐらいで好子がなくなってしまいます。
自閉症児の好子を考えるポイント
このような自閉症児への好子使用のメリット、デメリットを踏まえるとこのように考えることが望ましいです。
1.子供が欲しがった場合のみ使用する
前述の通り、子供が欲しがっていないのにも関わらずお菓子等を与えてもそれが好子として機能している可能性は低いです。子供が欲しがっている時にのみ好子を使用して課題の練習を実施していきましょう。
このように子供がお菓子を欲しがっている時にのみ課題を実施することで好子による強化を効果的に実施していくことが可能になります。
2.あったらラッキーと考える
自閉症児に好子があるかどうか、それは生まれつきの性質にかかる部分が大きいです。ですから、好子が子供に存在していたらラッキー、なかったら仕方ないと考えることで好子に過大な期待をしないようにすることが大切です。特に、偏食がある子供は普段から好きな物しか食べていないことが多いので、食べ物が好子として機能する可能性が低いです。ですが、この場合偏食を改善すると、食べ物が好子としての機能を持つようになります。ただし、偏食を改善するための好子に食べ物が使えないのでやはり困難が多いです。
3.使用する場面を限定する
自閉症児に好子を使用する場合、何の課題でも使用してよいわけではありません。使用してよい課題は、自然強化される(自然な強化随伴性)課題のみです。自然強化とは、親が好子を使用することを止めても、子供が自然環境下で自ら行動したり、他者と関連することで好子を得ることができる行動です。
このように、自分にとってメリットがある行動は自然強化されますが、勉強等すぐには自分のためには役に立たない行動は自然強化されません。ですから、自然強化されない行動に関しては、好子を使用しない方法で指導していきましょう。
4.好子を使用して好子を作る
好子は、前述の通り誉め言葉、笑顔、ボディータッチをしてからあげるとこれらが好子へと変化させられます。誉め言葉、笑顔、ボディータッチが好子になっていれば、それらを好子として使用することで新しい行動が身に付きます。
このように、誉めたりくすぐったりを好子にして遊びを教えることが可能です。他者との遊びは、バリエーションが幅広く、基本的には飽和化が起きません。ですから、様々な遊びを教えておくことが望ましいです。
5.好子に飽きても教えられるようにしておく
好子はいつか飽和化します。ですから、好子が使えるうちに、好子がなくても課題ができるようにしておくことが重要です。例えば、好子を使用して教えたことを食事やおやつ前に必ず実施するという方法があります。食事やおやつは強力な好子ではありませんが、日常生活を送るうえで必須の好子ですので他の好子が使用しなくても行動を教えることができるようになります。このように、お菓子やビデオを使用しなくても日常的な弱い好子で課題ができるようにしておくと好子の飽和化が起きても問題がありません。
まとめ
このように、自閉症児の好子は非常に効果が高いことがありますが、使い方を間違えると全く意味のないものになってしまいます。子供に好子が使用できたとしても頼りすぎずに指導していくことを目指しましょう。