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好子(正の強化子)

 自閉症スペクトラム障害児(以下、自閉症児)の効果的な支援方法であるABAではご褒美を使用して行動形成していきます(好子による強化)。詳細はそれぞれのページを参照してください。

https://abahaffy.com/update/13423
https://abahaffy.com/update/13509
https://abahaffy.com/update/13572

 今日は自閉症のご褒美がどのようなものかを解説していきます。

自閉症児のご褒美である好子とは

 好子(こうし)とは、強化子(きょうかし)、正の強化子(せいのきょうかし)(Positive reinforcer)とも呼ばれます。

正の強化子は対象者に与えられると行動頻度を増大(強化)させるもので、しばしば報酬と呼ばれる。しかしながら報酬は、その行動上の効果が行動を増加させるもの(強化)である場合に限って強化子となる。

自閉症百科事典P.143 ( )内は坂本が補足

 つまり、ABC分析で行動の結果に与えると行動が増えるものは好子とみなされますが、行動の結果に与えても行動が増えないものは好子と見なさないということです。ABC分析の解説に関しては下記を参照してください。

https://abahaffy.com/update/13553

 このように、今後親がお菓子を持っている時にアイコンタクトが素早くできたり、アイコンタクトの頻度が増えたりすればお菓子は好子として機能しているとみなされます。

 一方、好子が機能していない場合、行動頻度は変わらないか、もしくは減ります。
 ただし、この場合、
・アイコンタクトをすれば強化されるということが子供が理解できていない
・お菓子に飽きてしまった(飽和化)
という可能性もありますので注意が必要です。

好子の種類

 好子には色々な種類があります。代表的な物を説明していきます。

1.一次(性)好子
 一次(性)好子(強化子)(いちじきょうかし)、無条件性好子(強化子)、非学習性好子(強化子)は以下のように定義されます。

一次強化子(好子)は、生理的に、あるいは生物学的に快い刺激である。

発達障害事典P.403 ()内は坂本が補足

 一次好子は、生理的欲求と書き換えてもよいです。一次好子の例は以下の通りです。

 一般的に、一番強力な一次好子は食餌性好子です。お菓子や食事、水分などが好子として機能します。性的刺激等も一次好子に含まれます。明言はされていませんが、睡眠も一次好子とみなして問題ないでしょう。

2.二次(性)好子

 二次(性)好子(強化子)、条件(性)好子(強化子)、学習性好子(強化子)の定義は以下の通りです。

もともとは強化の機能をもたない中性刺激であるが,他の無条件強化子や条件強化子との対提示(レスポンデント条件づけの手続き)を通じて,経験的に強化の機能を獲得した刺激である

行動分析学事典P.56

 つまり、一次好子と同時に提示されることにより、好子に変化したものが二次好子です。二次好子の例は以下の通りです。

 二次好子は成長に伴って増えていくもので、多くの大人にとって大きな好子は般性条件性好子であるお金です。自分の好きな好子と交換することが可能です。

子供に使用する好子の種類は

 自閉症児の指導に使用しやすい好子は以下の通りです。

 子供に最もつか和得る好子はお菓子です。その他にはくすぐることやタブレットといったことが使用されます。

好子を効果的に使用するためには

 好子を効果的に使用するためにはいくつかのポイントがあります。 

1.強力な好子を選ぶ
 子供にとって一番強力な好子はどうやったらわかるでしょうか。単純な方法ですが、大人が好子を選ぶのではなく、多くの中から子供に好子を選ばせたらよいです。

 このように好子を並べて好きな物を子供が選ぶと、現時点で一番強い好子を使用することができます。この手法はトイレトレーニング等で使用されます。

https://abahaffy.com/update/13228

2.好子を欲しがっている時にのみ使用する
 好子を子供が欲しがっている意思表示をしている時にのみ使用します。

 好子はこのように子供が自分から欲しいと意思表示をした時のみに使用するべきです。こうすると子供は集中しており学習が効率的にできます。

3.好子は日常で使うものとは分けること
 好子は日常的に使用している物とは分けなければなりません。例えば、牛乳が好きで毎日牛乳が飲んでいる子供は、牛乳を好子して使用することはできません。同様に、普段見ているビデオ録画等を好子として使用することは無理です。こういった場合は、大好きなお菓子は日常的に使用せず好子として使用する、大好きなビデオは好子として使用するといった使い分けをしていきましょう。

3.好子は必ず飽きるということを念頭に置くこと
 基本的に、好子はいつか好子として機能しなくならなくなります。好子の飽和化(こうしのほうわか)と呼ばれる状態です。飽和化は以下のように定義されます。

刺激に対する馴化によって強化子(好子)の効力が弱まる現象であると説明される。また, 馴化においては自発的回復(自然回復)が生じることが知られている。すなわち,ある刺激に対して馴化が生じた後に.その刺激を提示しない時聞があると,再び刺激に対する反応が強まる。

行動分析学事典P.167 (好子)は坂本が補足

 飽和化は次の2種類があると考えられます。
①一時的な飽和化
 おなか一杯の時にお菓子が使用できなかったり、眠い時に遊ぶことが使用できないという状態があるように、時と場合によって好子は好子ではなくなります。こういった場合は、前述の通り、経過時間とともに自然回復します。
②永続的な飽和化
 好子に慣れすぎて好子として機能しなくなることは多々あります。「再び式気に対する反応が強まる」と説明されていますが、基本的には元の強さには戻りません。例えば、昔大好きだったビデオでも飽きたら一生その好子の強さは戻りません。子供のころ好きだったお菓子を大人になっても同じ頻度で食べている人はほとんどいないと思います。

https://www.pakutaso.com/20130455112web-2.html

強力な好子がない子供の特徴は

 お菓子やビデオ等の物を子供が欲しがらないケースはなぜ起こるのでしょうか。次の3つが関連していると考えられます。

1.生まれつき
 生まれつき好子が少ない子供は存在します。特徴として、ボーっとしていることが多かったり、自己刺激行動が多く声をかけても無反応なことが多かったりする場合です。このような子供の場合、日常の中で要求が少なく癇癪は少ないですが自ら好子を得るために行動することも少ないという特徴があります。

2.偏食
 偏食がある子供は、食事のレパートリーが少なく好子となるような食べ物を日常的に食べてしまっているため食餌性好子がないことが多いです。

3.DTTを実施している
 ABAの手法の一つであるDTTは、好子を大量に使うため好子がどんどんと飽和化していきます。2か月ぐらいであらかたの好子を使い果たしてしまいます。

好子が無くなった場合や、無い場合のNG行動

 好子の飽和化や、好子がそもそも存在しない場合にNGとなる行動は以下の通りです。

1.欲しがってもいないのに物を渡す。

2:30~2:42

 例えば、この女の子のケースだと、子供がお菓子を欲しいという意思表示をしておらず、一方的にお菓子をあげているだけになっています。このような場合、お菓子が好子として機能している可能性が低いです。現に、この女の子の場合は、ボーっと違うところを見ています。これでは効率的な学習はできません。好子は子供が欲しいという意思表示を強くしている時にのみ機能しています。「渡したら食べる」という程度では好子として機能しません。こういった場合、無理にお菓子等をあげることに指導者側が拘泥してしまっているだけで行動の強化には何の意味もありません。

2.次の好子を探すこと
 機能していたお菓子やビデオ等の好子が飽和化してしまった場合、他のお菓子を探しても最初に使用していた好子を超える効力を超えることはほとんどありません。あてなき好子探しの旅に出ることはやめましょう。

好子を頼らずに効果的に指導するためには

 好子が存在しない場合、いつか好子が飽和化してしまうことを考えると好子に頼らず指導することはどのような子供でも必要になります。好子なしで指導するための具体的な方法は以下の通りです。

1.好子を使用して好子を増やす
 お菓子などの好子が機能している内に、他の物・事を好子にする方法法です。例えば、ほめ言葉、笑顔、ボディータッチをお菓子などの好子の前に提供すると、ほめ言葉、笑顔、ボディータッチが好子として機能するようになります。

0:38~0:59

 このように適切な行動ができた時に褒めてからお菓子等の好子として機能する物を渡すと、ほめ言葉も強力な好子に変化します。

2.活動性好子を増やす
 鬼ごっこや、かくれんぼ、お絵描き、折り紙といった活動性好子は基本的には飽和化が起こりません。また、これらの遊びは他者とのコミュニケーションをとるためには重要なツールとなるので積極的に教えていく必要があります。このような遊びにつきあってくれないような子供の場合は、まずは楽しくなくても相手の遊びに参加できるようなスキル(コンプライアンス)を鍛えていく必要があります。

3.日常的な好子を使用する
 おやつ、食事といった日常的な好子は効力が弱い代わりに飽和化が起きづらいという特徴があります。食べることが大好きといった子供であれば食事の前の課題をモチベーション高く実施することが可能です。また、テレビも同様に使用できます。

まとめ

 前述の通り、お菓子やビデオ等の好子は生まれつきの好みが大きく関連しています。よって、このような種類の好子は使えたらラッキー、使えなかったらしょうがないと考えるようにしましょう。飽和化はいつかはおきるので好子頼みの指導方法はやめていきましょう。強力な好子がなかったとしても、前述の通り効果的な指導ができますので安心してくださいね。

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