自閉症児の一人でできる部分を見つける〜ABAの多重機会法〜

自閉症児へ家庭療育を行う時に
- 上着を着る。
- 手を洗う。
- プリントを連絡袋へ入れる。
- 玩具を箱へ片付ける。
等を教えることがあります。
子供が途中で止まった時に
親が残りを全部済ませてしまうと
どの部分を子供ができるのか
分からないままになることがあります。
例えば、ファスナーの下を
つなぐことは難しくてもつないだ後なら
自分で上まで引き上げられる
かもしれません。
途中の一つができないことと
その後の動作もできないことは別です。
細かく分けた一連の行動について
子供ができなかった部分は
大人が代わりに行い
その先の行動も
一つずつ確かめる評価方法を
多重機会法といいます。
行動分析学事典の467ページでも
一連の行動を構成する各部分の
習得状況を評価する方法として
説明されています。
ここからの家庭場面や記録の書き方は
文献の評価方法をもとにした
家庭療育としての私の提案です。
目次
1.課題分析で分け、多重機会法で確かめる
行動分析学事典の466ページでは
複雑な行動を、意味のあるまとまりの
細かな行動へ分けることを
課題分析と説明しています。
上着を着る場面なら
例えば次のように分けます。
- 上着の向きを整える。
- 片方の袖へ腕を通す。
- もう片方の袖へ腕を通す。
- ファスナーの下の左右をつなぐ。
- つまみを上まで引き上げる。
このように
必要な動作と順序を整理した上で
各部分をどこまで一人でできるか
調べる方法の一つが多重機会法です。
同書の467ページでも
課題分析した行動の習得状況を
評価する方法として説明されています。

2.止まったところだけで評価を終えない
最初からどこまで一人でできるかを見て
間違いや無反応が出たところで
評価を終える方法を
単一機会法といいます。
最初から続けてできる範囲を
確認する時に使います。
ただし、ファスナーの下をつなぐところで
評価を終えた場合上まで引き上げる動作は
まだ確かめていません。
多重機会法では
親がファスナーの下をつなぎ
次の動作ができる状態にします。
その後、親は手を離し
子供がつまみを持って
上まで引き上げるかを確認します。
そこでできれば
下をつなぐところは親が行ったが
その後の引き上げはできたと分かります。
引き上げられなかった場合も
その部分を親が済ませ
さらに後の動作があれば
同じように確認を続けます。
確認する前に
どの状態になれば一つの動作が終わりか
動き始めるまでどれくらい待つかを
決めます。
待つ時間は子供の普段の様子を参考にし
毎回すぐに親が手を出して
行動する機会をなくさないようにします。
3.トータルタスク法との違いは、評価するか教えるか
多重機会法と
トータルタスク法は
途中で手助けをしながら最後まで進む点で
似て見えることがあります。
しかし、目的と
できなかった部分への対応が違います。
行動分析学事典の471ページでは
トータルタスク法に当たる全課題提示法を
最初から最後まで各動作に取り組ませ
一人でできない部分には
プロンプトを出しながら
教える方法として説明しています。
多重機会法は
各部分がどこまでできるかを調べるため
できなかった部分を親が代わりに行い
次の動作を評価します。
トータルタスク法では
できなかった部分も子供の練習対象です。
必要なヒントを使い子供自身がその動作を
行えるように教えます。
例えば、ファスナーの下をつなげない時に
親がつないで引き上げる動作を
確かめるのが
今回の多重機会法による評価です。
トータルタスク法で教えるなら
つなぐところでも見本を示す等の
手助けをし、子供がつなぐ練習をします。
一回の練習で、袖を通すところから
ファスナーを閉めるところまで取り組み
必要な部分を助けながら
一連の動作の習得を目指します。
親ができない部分を全て代行して
上着を着せ終えるだけの対応
とは分けます。

4.親がした部分と、子供がした部分を分けて記録する
最後に上着を着られたとしても
全てを子供が行ったとは限りません。
各部分について
- 子供が追加の手助けなしで行った。
- 指示や見本を追加すると子供が行った。
- 親が代わりに行った。
- 今回は確認していない。
を分けて残します。
親が「つまみを引っ張って」と伝えたり
つまみを指さしたりした場合は
行動を助けるプロンプトが
使われています。
確認の途中で指示や見本を加えた場合は
加える前と後の結果を分けます。
教えた後にできても
最初からできていたとは記録しません。
例えば記録には
ファスナーの下をつなぐ部分は親が実施。
引き上げる部分は追加の声掛けなしで実施。
と書けます。
この記録から分かるのは
親が下をつないだ状態からなら
子供が引き上げられたということです。
また、途中で確認を終えた場合は
その先を未確認として残します。
試していない部分まで
できないと決めつけないようにします。
5.確認した結果から、練習する部分を決める
ファスナーを引き上げることはできて
下をつなぐところだけで止まるなら
次に練習する候補は下をつなぐ動作です。
さらに
- 差し込む位置を合わせる。
- 差し込み口を支える。
- 金具を奥まで差し込む。
のどこで止まるかを見ます。
引き上げる練習を繰り返すだけでは
下をつなぐ動作を
練習したことにはなりません。
できなかった部分は
見本を示す等の方法で教え
その後に子供だけでできるかを
確認します。
また、一度の観察で動かなかった理由は
動作が難しかったのか
次に何をするか分からなかったのか
まだ分かりません。
個別に指示すると動けるか等も確認し
動作を教える必要があるのか
次の動作へ進む練習が必要なのか
を分けます。
練習後は別の機会に
最初から続けて取り組んでもらい
親が代わりに行う部分が
減ったかを見ます。
実践例
プリントを半分に折り
連絡袋へしまう場面です。
今回は、半分に折ると入る大きさの
ファスナー付きの袋を使います。
確認する動作は
- プリントを半分に折る。
- 袋の口を開ける。
- プリントを袋へ入れる。
- 袋の口を閉める。
の四つです。
子供が紙を折るところで止まると
親が折って、そのまま袋に入れ
口まで閉めてしまいがちです。
今回は次のように確認します。
- プリントと連絡袋を、子供が使える位置に置く。
- 子供が指示を聞ける状態を確認し、「プリントを連絡袋にしまって」と伝える。
- まず子供が自分で取り組む様子を見る。
- 決めておいた基準で紙を折れなかった場合は、親が折るところだけを済ませて戻す。
- 子供が袋を開け、紙を入れ、口を閉めるかを一つずつ確認する。
- 他の部分でもできなかった時は、その部分だけを親が行い、残りの動作を確認する。
- 子供が行った部分と、親が行った部分、追加した指示を記録する。
例えば、紙を折る以外は
追加の声掛けなしでできたとします。
この場合、確認できたのは
折った紙が用意されていれば
袋を開けて入れ、閉められることです。
次は紙を折る部分を取り出して練習し
その後、折っていない紙から始めても
袋へしまうところまでできるか
を確認します。
参考文献
日本行動分析学会編 2019年。
行動分析学事典
丸善出版。
課題分析、466〜469ページ。
単一機会法と多重機会法の説明は467ページ。
各行動の遂行状況を分けた評価は466〜468ページ。
連鎖化:応用、470〜473ページ。
全課題提示法の説明は471ページ。
資料とリンクの確認日 2026年9月16日。
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