自閉症児が問題を素早くできるために〜ABAの流暢性〜

自閉症児へ家庭療育を行う時に
- ひらがなを読む。
- 簡単な計算をする。
- 数字を書く。
- 単語を読む。
- 学習した問題を繰り返し解く。
等を教えることがあります。
この時
「正解できた」
ことだけを確認していると
一問解くまでに長い時間がかかっていても
できるようになったと
判断することがあります。
例えば子供が「3+2=5」と正解できても
答えるまでに
指を使ったり紙に丸を書いたりして
長い時間がかかる場合と
ほとんど止まらず答えられる場合では
実際の学習状態は違います。
ABAでは正確さだけでなく
正確に素早く行動できることを
流暢性(fluency)として捉えます。
『行動分析学事典』では流暢性について
正確さと速さを組み合わせた
パフォーマンスとして説明しています。
文章を1分間で何語正しく読めたか
計算問題を1分間で何問正答できたか
等が例として挙げられています。
目次
1.100%正解でも同じ習得状態とは限らない
例えば10問の足し算を行います。
- 子供Aは10問中10問正解して短時間で終了した。
- 子供Bも10問中10問正解しているが一問ごとに長く考えていた。
正答率だけを見るとどちらも100%です。
しかし実際に学校で
何十問も問題を解いたり
文章題の途中で計算したりする場合
一つ一つの計算に長い時間がかかると
その後の課題へ進みにくくなります。
『行動分析学事典』でも
正答率だけではなく
一定時間内に正しい反応が
どれだけ起きたかを見ることで
学習者のパフォーマンスを
より詳しく確認できることが
説明されています。
家庭療育でも課題が一度できると
「どのくらいスムーズにできるか」
もチェックするようにします。
2.速ければよいわけではない
一方で解答の速さだけを上げればよい
という意味ではありません。
例えば一定時間に
- 20問答えて20問正解する場合と
- 40問答えて20問正解し20問間違える場合
では、後者の方が
答えた問題数は多くなっています。
しかし正確には答えられていません。
Cooperらは流暢性を確認する時には
単位時間当たりの正反応だけでなく
誤反応も確認する必要があると
説明しています。
3.最初は一問を正確に解けるようにする
ここからは文献そのものの
標準手続きではなく
家庭療育としての私の考えです。
まだ覚えていない課題に対して
最初から速さまで求めることは
お勧めしません。
例えば子供が
新しく「さ」を覚えている途中なら
まず「さ」
と正しく読めることを教えます。
まだ
- 「き」。
- 「ち」。
- 「さ」。
を頻繁に間違える状態で
速く答えることまで求めると
正確さが崩れることがあります。
まず一問を正確にできるようにします。
その後正確にはできるけれど
時間がかかる課題で
流暢性を上げていきます。
以前説明したテクスチュアルでも
文字を見て対応する音声を発することと
スムーズに文章を読むことは
同じではありません。
一文字ずつ正しく読めるようになった後に
読む速さを上げる段階があります。
4.まず一問を解く時間を短くする
私の方法では複数の問題を最初から
速く解かせるのではなく
まず一問を解く時間を
短くしていきます。
例えば「3+2」
を一人で正解できるようになったら
同じ程度の問題を使って
一問を正確に解くまでの時間を
少しずつ短くします。
ここで確認するのは
速く答えたかだけではなく
正答を保てているかです。
一問を十分短い時間で安定して
解けるようになったら
次に問題数を増やします。
一問を解く速さと
複数の問題を続けて解くことは
分けて練習します。
5.一問の速さが上がったら2問から10問へ増やす
一問を短時間で
正確に解けるようになった後は
そのペースを維持したまま
解く問題数を増やします。
最初は2問でそれが同じペースでできたら
少しずつ問題数を増やし
最終的にはプリント1枚程度を
続けて解けることを目指します。
例えば一問ならすぐ答えられる子供でも
5問、10問と続くと
- 途中から止まる。
- 一問ごとの時間が長くなる。
- 間違いが増える。
- 親の声掛けを待つ。
ことがあります。
この場合
一問の答え方を
知らないわけではありません。
一問を素早く解くことと
そのペースを保ったまま
複数の問題へ取り組み続けることが
別の課題になっています。
『行動分析学事典』では
流暢性が高くなることで
一定の速さと正確さを
長く維持する持続性についても
研究されていることが説明されています。
家庭では
- 一問を正確にできるようにする。
- 一問を解く時間を短くする。
- その速さを保ったまま2問解く。
- 少しずつ問題数を増やす。
- プリント1枚程度を同じペースで解けるか確認する。
という順番で進めます。
6.書くことが遅い場合は回答方法を変える
例えば足し算の
流暢性を上げたいとします。
子供はすぐに答えを言えます。
しかし数字を書くことに
非常に時間がかかります。
この場合
一問を解く時間を測ると
計算する速さではなく
数字を書く速さを
測っている可能性があります。
私の方法では計算や問題理解の
流暢性を優先したい場合
書字以外の方法で
回答させることがあります。
例えば
- 答えをタイピングする。
- 複数の答えから選ぶ。
- 正しい答えへ丸をつける。
方法です。
例えば3+2=という問題に
- 4
- 5
- 6
という選択肢を出し子供が「5」へ
丸をつけるようにします。
文字を書く時間を減らすことで
計算して答えを選ぶ部分の
速さを確認しやすくなります。
ただし数字を速く書くこと自体を
教えたいのであれば
タイピングや選択問題へ
置き換えてはいけません。
何の流暢性を
上げたいのかを先に決めます。
- 計算を速くしたいなら書字を簡単にする。
- 文字を書くことを速くしたいなら実際に文字を書かせる。
同じプリント課題でも
測っている行動を分けて考えます。
7.同じ時間で何個正しくできたかを見る
一問を短時間で解けるようになり
複数の問題にも
続けて取り組めるようになったら
一定時間内での
正反応数も確認できます。
例えば一桁の足し算なら
- 子供へ同程度の難しさの問題を出す。
- 一定時間取り組む。
- 正解した問題数を数える。
- 間違えた問題数も数える。
とします。
最初より正解した問題数が増え
間違いが減っているなら
正確さを保ちながら
反応する速さが上がっています。
反対に答えた問題数だけ増え
間違いも大きく増えているなら
速さだけが上がっています。
Cooperらも反応率を比較する場合には
どのくらいの時間測定したのかを
明確にする必要があると説明しています。
測定する時間が毎回違えば
単純には比較しにくくなります。
8.親が問題を出す速さを測らない
注意したいのが
親が一枚ずつカードを出して
子供が答える方法です。
例えば親が「3+2は?」と聞き
子供が「5」と答えます。
次に親が「2+4は?」と質問します。
この方法で一定時間の正答数を数えると
子供の速さだけでなく
親が次の問題を出す時間にも
結果が左右されます。
Cooperらも反応する機会そのものが
指導者によって制限される課題では
単純な反応率が適切な測定にならない場合
があると説明しています。
家庭で速さを確認するなら
例えば計算問題を一枚のプリントに並べ
子供が自分のペースで
次々に解けるようにします。
9.難しい課題が遅い時は要素となる行動を見る
例えば三桁の掛け算に
非常に時間がかかるとします。
この場合単純に
制限時間を短くしていくことを目指す
だけでは改善しないことがあります。
三桁の掛け算には
- 数字を読む。
- 数字を書く。
- 掛け算をする。
- 足し算をする。
- 桁を確認する。
等の複数の行動が必要です。
『行動分析学事典』では
複雑な行動を構成する
要素となる行動の頻度を高めることで
複合的な行動の学習が
進みやすくなる考え方が
説明されています。
家庭でも
複雑な問題全体を
何度も解かせるだけではなく
どの部分で時間が
かかっているかを確認します。
例えば九九を思い出すまでに
毎回時間がかかるのであれば
三桁の掛け算ではなく九九の流暢性を先に
上げる方法があります。
数字を書くことが遅いだけなら
計算の練習ではタイピングや選択式にして
書字は別の課題として
練習することもできます。
このように行動が遅くなっていることに
複数の要因が絡んでいる時は
別々に練習するようにします。
10.全ての行動を速くする必要はない
流暢性が使いやすいのは
同じような短い反応を繰り返す課題です。
例えば
- 文字を読む。
- 単語を読む。
- 簡単な計算をする。
- 数字を書く。
等です。
一方で
- 食事をする。
- 歯を磨く。
- 人と会話する。
- 靴ひもを結ぶ。
- 複雑な工作をする。
等は
単純に一定時間で
何回できたかを増やせばよい
行動ではありません。
Cooperらも反応の難しさや複雑さが
毎回大きく異なる場合には
単純な反応率だけでは
評価しにくいことを説明しています。
家庭では速くできることに
生活上や学習上の意味がある行動で
速さを確認します。
実践例
自閉症児が
一桁の足し算を練習しています。
現在「3+2」と出すと
一人で「5」と答えられます。
しかし答えるまでに
時間がかかります。
そこで最初は問題数を増やさず
一問を正確に答えるまでの
時間を短くします。
一問を十分短い時間で
正しく答えられるようになったら
次は2問を続けて出します。
2問でも一問の時と同じようなペースで
解けるようになったら
問題数を少しずつ増やし
最終的に10問程度を
続けて解けるようにします。
数字を書くことに時間がかかる場合は
書く練習とは分けます。
足し算を速く解くことを練習したい場合は
- 答えをタイピングする。
- 選択肢から答えを選ぶ。
- 正しい数字へ丸をつける。
方法を使います。
例えば3+2=4 5 6と表示し
子供が「5」へ丸をつけます。
これによって数字を書く速さより
計算して答えを出す速さを
優先して練習できます。
一問を速く正確に解けるようになった後
2問から少しずつ問題数を増やし
複数の問題でも
同じペースを維持できるかを確認します。
また書字そのものも速くしたい場合には
計算とは別に数字を書く流暢性を
練習します。
家庭では正答率が100%になったら
すぐ次の難しい課題へ進むだけではなく
- 一問を正確にできる。
- 一問を解く時間を短くする。
- その速さで2問続ける。
- 10問程度まで問題数を増やす。
- 書字が邪魔になる場合は回答方法を変える。
- 正答数と誤答数の両方を確認する。
という方法で既にできる行動の
流暢性を上げることも考えます。
参考文献
一般社団法人日本行動分析学会編
行動分析学事典
丸善出版、2019年。
プレシジョン・ティーチングの項目。
ジョン・O・クーパー
ティモシー・E・ヘロン
ウイリアム・L・ヒューワード著
中野良顯訳
応用行動分析学
明石書店、2013年。
第4章「行動を測定する」。
Maria Teresa Martinho
Nichola Booth
Natasha Attard
Karola Dillenburger
A systematic review of the impact of precision teaching and fluency-building on teaching children diagnosed with autism
International Journal of Educational Research, 2022年、116巻、102076。
メルマガをしています。





