自閉症児の自己刺激行動とは何か。止めたほうがいいの?
自閉症スペクトラム障害には定型発達児には見られない特徴的な行動があります。様々な特徴はこちらで説明してあります。
今回はその一つ、自閉症の自己刺激行動の説明とその対処方法について説明していきましょう。
目次
自己刺激行動とは
自己刺激行動(じこしげきこうどう)の中で繰り返し同じ行動をする場合は、常同行動(じょうどうこうどう)とも呼ばれます。以下のように定義されています。
持続的、非常に反復的で変化に欠ける動作・癖・連続した行動で、明確な目的がなく自傷的でないもの。手をハタハタさせる、体を揺するといった常同行動を含む。その行動が本人に害を与えれば、自傷行動に分類しなおす。
『発達障害事典』P.425(明石書店)
動作,姿勢, 位置,言語などにおいて, 同じ一定のパターンを一定時間以上繰り返しつづける場合をさして常同
『心理学事典』P.379~P.380(平凡社)
行動または常同運動という。これが病的な行動異常になると常同症とよばれる。ほとんどの常同行動は目的的で
なく, その反復にリズムがみられるので, 律動的運動行動と類似した点が多い。頭をとんとんとものにぶつける
動作を繰り返したり,体を前後に反復して揺すったりする常同行動は, 正常な乳幼児にも比較的多くみられるが,これが出現する期間は短く, 3 歳を過ぎるとほとんど消失する。
自己刺激行動の例
次に、実際の自己刺激行動の例を見ていきましょう。以下が例です。
1.手をひらひらさせる
手を目の前でひらひらさせます。また、物を持ってひらひらさせることもあります。逆に、目を物に近づけてぎりぎりで顔を振るといった行動もあります。
2.体を回す
くるくると回り続けたりします。似たような行動では、その場でジャンプし続けるといったこともあります。自己刺激行動と子供の遊びの違いは自己刺激行動は継続時間が長く、呼びかけても反応がないということがあります。
3.独り言を言う
特異な点は、意味のない言葉を言ったり、前に聞いた言葉のやり取り全てを言ったりします(遅延性エコラリア)。以下が例です。
動画では「Seven」を言い続けています。特徴としては、他者へ一切働きかけていない状態です。
4.笑う
げらげらと笑い続けたりします。笑う行動が多い子供は大声で泣くということも多いですので問題が大きいです。独り言とセットになることもあります。いかが例です。
自己刺激行動の例はこちらの動画が分かりやすいです。様々な行動があります。
自己刺激行動の何が問題になるか
では、自己刺激行動の何が問題になるのでしょうか。以下の通りです。
1.呼びかけに反応しなくなる
自己刺激行動中は、他者からの呼びかけに反応しなくなるため、日常生活の指示場面に支障をきたします。特に集団行動への参加が難しくなります。
2.こだわりになる
自己刺激行動は段々と複雑に、強力になっていくことが多いです。様々な自己刺激行動が組み合わせられるようになります。また、それを止められたら子供が癇癪を起こします。止めると癇癪が起きるため、親は放置し、結果としてまた自己刺激行動が強まるという悪循環に陥ります。
3.周囲の注目を浴びる
自己刺激行動は必ずと言っていいほど言葉が付随します。ですから、静かにしなければいけない場所では特に目立ちます。映画館、図書館等に親は連れて行きづらくなります。
4.癇癪行動と密接な関係がある
自己刺激行動は、話し続ける、体を動かし続けるということが続きますが、そうすると段々と興奮してきていきなり怒り出すことがあります。特に体を激しく動かすジャンプのような自己刺激行動で多いです。さっきまで笑っていたのに気づいたら大声で泣いているということも珍しくありません。
自己刺激行動を消すNGとなる対応
前述の通り、自己刺激行動があることで様々な弊害があるので可能であれば消した方がよいです。ですが、対応を間違えると消すどころか、酷くなってしまう可能性があります。以下がNGとなる対応です。
1.ブロックする
これは、自己刺激行動が出る度に親がブロックする方法です。よく使われることがありますが、ブロックだけでは自発的には自己刺激行動をやめませんし、親がいない時には逆に酷くなる可能性があります。
2.叱責する
自己刺激行動が出たら親が叱責して止めるという方法があります。これをすると、親が見ている間は自己刺激行動が出づらくなりますが、親がいない場面では逆に酷くなる可能性があります。
3.遊びに誘う
自己刺激行動が出ている時に阻止して違う遊びに誘う方法です。1の対応も含まれていることが多いです。ですが、自己刺激行動がある子供は遊びのレベルが低いため、なかなか他者と楽しく遊ぶということが難しいです。また、他の遊びが好きであったらそもそも自己刺激行動には没頭しないはずです。自己刺激行動が好きな子供に楽しい遊びを教えることはプロでも至難の業です。
自己刺激行動への正しい理解
では、自閉症児の自己刺激行動をどうかんがえたらよいでしょうか。以下が説明です。
1.消しても適切行動は身につかない
自己刺激行動を消しても、自閉症児が適切な遊びをする訳ではないです。自己刺激行動というのは、子供が好きな遊びで自分で選んでやっているので、一つの自己刺激行動が消されたら類似した自己刺激行動が出現する可能性が高いです。
2.自己刺激行動のせいで自閉症な訳ではない
子供が自己刺激行動をしていると、親が「自閉症っぽいから」という理由で慌ててブロックすることがあります。ですが、自己刺激行動があるから自閉症と診断される訳ではありませんし、自閉症だから自己刺激行動が出ている訳でもありません。自己刺激行動を止めても、自閉症の診断はおりることがありますし、自己刺激行動が出ていても自閉症と診断されないケースもあります。ですから自己刺激行動をそんなに嫌悪しなくてよいです。
3.消えるのを待つだけではダメ
自己刺激行動は放っておいたら自然に消えていくから放っておくのがよいと主張する方もおられますが、いつ消えるかを断言できないのでやめた方が良いです。激しい自己刺激行動では一刻も早く改善が目指されるべきです。
4.消すのではなく、コントロールできるようにする
自己刺激行動を消しても新しい自己刺激行動が出る可能性が高いですので、自己刺激行動は子供が意図して止められるようにしたほうが良いです。そうすれば新たな自己刺激行動に悩まされることがないですし、自己刺激行動による問題も改善していきます。ただし、危険な自己刺激行動は完全に消さなければなりません。例えば、口に手を突っ込んでわざと吐く、目を指でつついて白内障になってしまうといった行動が挙げられます。
自己刺激行動を改善する方法
では自己刺激行動を改善していく方法を説明していきます。以下の通りです。
1.自己刺激行動が出現したら好きなことを取り上げる
自己刺激行動が出現したときに子供の好きなこと(好子)を一旦取り上げることで自己刺激行動を子供がコントロールできるように教えていきます。例えば、ビデオを見ている時に子供が飛び跳ねる自己刺激行動をしてしまった場合は、即座に一時停止をし子供のジャンプが止まったらビデオを再生します。
2.自己刺激行動が出ていない時にご褒美を要求させる
これは、自己刺激行動が出現していない時に要求を練習する方法です。自己刺激行動は、課題に集中すると止まるという特徴があります。ですから、要求言語を練習する、音声模倣を練習するといったことで自己刺激行動をコントロールできるようにします。慣れてきたら要求時の課題数を増やしていくことで子供がより長時間自己刺激行動を我慢できるようにしていきます。
3.着席/起立で静かにする練習をしていく
自己刺激行動の多くは言葉や大きな音で構成されています。ですから、着席/起立で一定時間静かにする練習をしていくとそれだけ子供の自己刺激行動のコントロールがうまくなります。2と組み合わせて、要求時に着席/起立課題を付随させていくこともよいでしょう。
自閉症児の自己刺激行動がコントロールできている例
では、実際に自己刺激行動がコントロールできるようになった例を見てみましょう。まずは自己刺激行動がコントロールできていない状態から。
最後のほうで出てくる「ばばば」というのは自己刺激行動の独り言ですね。無発語状態であったためこのような自己刺激の独り言も最初はアイコンタクトがあれば要求言語として強めていきます。
一見、何の変哲もない動画ですが、自己刺激行動のコントロールが含まれています。指導者に名前を呼ばれるまで、子供はげらげら笑う、大きな声を出すという自己刺激行動が出現していますが、課題に入ったら自己刺激行動が一切出なくなりました。このように子供が自己刺激行動をコントロールできるようになってきたら自己刺激行動は大きな問題にはならなくなります。
まとめ
自己刺激行動は厄介な行動ですが、コントロールできるようになるとさほど問題になりません。確かにおかしな行動ではありますが、絶対に停めなければいけない行動ではないと考えましょう。また、セラピーを続けていくと、子供の親への指示への応答がよくなる(コンプライアンスが高くなる)ので、そうしたら親が子供に適切な遊びを教えることが容易になります。本読みや、ブロック等、他の遊びが見つかれば自己刺激行動に戻る可能性は低くなりますので、自己刺激行動は消すことを目的にするのではなく、コントロールできることを目的とし、他児との遊びをゴールとしましょう。