強化
自閉症スペクトラム障害児(以下、自閉症児)に行動を効果的に教える方法がABAです。自閉症、ABAに関する解説は以下のページを参照してください。
今日はABAで適切行動を増やすときに必須となる強化の原理を説明していきます。
目次
強化とは何か
強化(きょうか)(reinforcement)の定義は以下の通りです。
今後増加する蓋然性のある行動に引き続いて、ある刺激を与えたり取り除いたりす ること。
自閉症百科事典P.142
簡単にまとめると、特定の行動の後にご褒美を与えたり、嫌がることを取り除いたりすることで特定の行動が増加することです。強化には大きく分けて、好子による強化と嫌子による強化の2種類があります。
好子による強化とは
好子による強化(こうしによるきょうか)は、強化子による強化(きょうかしによるきょうか)、正の強化(Positive reinforcement)とも呼ばれます。好子による強化は以下のように定義されます。
正の強化とは、行動の後に刺激を与えてそ の行動の増加を引き起こすことである
自閉症百科事典P.142
行動の後に行動するものにとってご褒美となるもの(好子)を与えることによって行動が増えたり、強まったりする原理です。好子に関する解説は以下のページを参照してください。
好子による強化には2種類があります。
①好子出現による行動の強化
行動の後に好子が得られることによって行動が増える原理です。例を見てください。
動画をABC分析した者が上の通りです。ABC分析に関しての解説は以下を参照してください。
このように、行動した結果、好子を得られることでその行動が強化されます。残念なことに、これはよい行動だけではなく、問題となる行動でも起こります。以下が例です。
このように、泣いたり暴れたりといった癇癪行動でも好子出現による強化が起きます。
②好子消失阻止による強化
今持っている好子が無くなることを阻止するために行動の強化が起きることです。以下が例です。
子供がそもそも使っていたパズルのピース(好子)を取り上げることによって子供は大声を出して抵抗しました。大人は子供に音声模倣させてからピースを返しましたが、残念ながらこの場合強まるのは子供が大声で叫ぶ行動です。
このように、もともと持っていた好子を取り上げることにより好子消失阻止による強化は起きてしまいます。日常的な例は以下の通りです。
子供が持っていたリモコン(好子)を大人が取り上げると、子供が大声で泣きます。そうすると大人はリモコンを子供に返します。これにより子供はリモコンで遊び続けることができるため、好子消失阻止による強化が働きます。同様に公園から帰る時に泣いている子供は好子出現阻止による強化によって行動が強められている可能性が高いです。厄介なのは、最終的に好子を大人が取り上げたとしても少しでも好子を得られている時間が長くなれば、好子消失阻止による強化は起きてしまいます。
嫌子による強化
嫌子による強化(けんしによるきょうか)は、弱化子による強化(じゃっかしによるきょうか)、負の強化(ふのきょうか)(Negative reinforcement)とも書かれます。以下のように定義されます。
負の強化とは、行動の後に刺激を除去し、その行動の増加を引き起こすことである
自閉症百科事典P.142
嫌子による強化は、行動する者にとって嫌なこと(嫌子)が取り去られることで行動が増えたり強まったりする原理です。2つの種類があります。
①嫌子消失による強化
今存在している嫌子が行動の後に無くなることによって行動が強まることです。以下が例です。
このように、耳をふさぐことにより耳に入ってくる大きな音(嫌子)を避けることができます。ただし、この場合、結果は観察できることではないので予想になります。後は、頭痛がする時に頭痛薬を飲むことにより頭痛(嫌子)が無くなるといったケースがあります。
②嫌子出現阻止による強化
今存在していない嫌子が行動の後に将来的に出現しないようにすることで行動が強化されます。以下が例です。
日焼けによって後で肌が痛むこと(嫌子)を、日焼け止めを塗ることで好子出現阻止による強化が起きています。好子消失阻止による強化と同様で、この行動も最終的に嫌子が避けられなかったとしても少しでも嫌子が出現するまでの時間が遅延されると嫌子出現阻止による強化が起きてしまいます。
この動画のケースですと、男の子が特定の場所に行こうとすることを寝転んだり大声を出したりすることで抵抗しています。最終的には親が連れて行っていますが、座り込みをしたりした時間分、嫌子を避けられると嫌子出現阻止による強化が起こってしまいます。
2種類の強化が同時になることもある
好子による強化と嫌子による強化は全くの別ではなく、一つの行動で両方とも働く可能性があります。例えば、以下のケースです。
動画の場合は子供をベビーベッドから出しませんでしたが、もしベビーベッドから出してしまった場合は、①母親と一緒にいられるという好子出現による強化と、②一人でベビーベッドで寝るという嫌子消失による強化の2種類が働くことになります。このような行動の場合、強力に強化されるため非常に強くなりやすいです。他には、テレビを見ている時にお風呂に誘うといった行動の場合、①テレビを見続けるという好子消失阻止による強化と、②お風呂に入るという嫌子出現阻止による強化の2種類が働いています。
強化が起きているかはどう確認するか
強化が起きているかどうかはその場ではわかりません。以下の例を見てください。
このケースの場合子供が笑顔になっているため一見、好子(親のほめ言葉とハグ)による強化が働いているように思えます。ですが、これで好子による強化が働いているかどうかは次に同じような場面に直面した時にしかわからないのです。
次回以降の似たような場面で強化が起きているならば、片付ける行動は増えたり強まったりしますが、強化が起きていない場合は、頻度には変化がないか、減ったり弱まったりします。このように強化が起きているかどうかは後々にわかることです(連続で出せるような行動であればすぐに強化されているかが判明します。
このように、発語を強化していくことを狙っていく場合、すぐに次の行動が出現するので好子による強化が働いていることが分かります。
自閉症児指導時の強化の役割
自閉症児指導時に、強化は大きな役割を果たします。要求言語等の要求方法を教えると好子による強化が働くようになります。一見、嫌子による強化は使用しないように思えますが、よく使います。例えば、体調不良を訴えたり、宿題が終わったら自由になったりすることを教えたりすることで嫌子による強化は働きます。
強化の注意点
強化は行動の後に好子を得られたり、嫌子を避けられたりすることで起こります。重用なのは、行動者が好子を得られた、嫌子を避けられたと思えば強化が起きてしまうことです。特に知的障害がある者にこの誤解は怒りがちです。
こののように、子供が大声で泣く行動は食事の提供とは全く関連がないのですが、子供が「大声で泣いたから食事が出てきた」と考えれば好子による強化は起きてしまいます。
このように子供が大声で泣くことによって子供が洗髪が終わったと勘違いすることにより嫌子による強化が働いてしまいます。赤ちゃんが親が離れると泣くというのもこの原理により強められています。
まとめ
強化はABAの中心的な理論です。好子による強化と嫌子による強化をうまく使いこなすことで自閉症児の指導はうまくいきます。