DTTについて
自閉症スペクトラム障害児の行動を適切に伸ばす方法、ABAには様々な種類があります。今日は代表的な方法のひとつであるDTTについて解説していきます。
目次
DTTの定義
DTTとは、ディスクリートトライアルトレーニング(トリートメント)(Discrete Trial Training/Treatment)のことで、他にはロヴァース法、不連続試行法、断続試行法と訳されます。以下のように定義されます。
自閉症や広汎性発達障害(PDD ) の子どもへの教育方法の1 つであり、合図や刺激に対する正しい反応と、それに続く強化という、はっきり分かれた反復練習に重点を置くもの。1 回の試行は、合図や刺激、子どもの反応、それに対するフィードバックと定義されている( 例えば、[ あなたの鼻を触りなさい] という指示で、子どもは自分の鼻を触る、それに対して教師が「そうです、それがあなたの鼻です」と答える、など)。ディスクリート( 断続)と呼ばれるのは、開始と終了が明瞭だからである。
『自閉症百科事典』P.48
DTTの歴史
DTTはイヴァ・ロヴァース(Iva Lovaas)が中心となって開発されました。DTTの歴史は古く、主に3つの研究の歴史によって成り立っています。ロヴァースの映像は以下で確認できます。
1.1964年の研究
この研究には多くの課題があったとロヴァース自身が述べています。端的に述べると、
①発達に遅れがある子供を日常環境から隔離して教えることを実施した
②1年間のみ高密度の治療(2000時間以上)
③言語の育成をまず最初に実施した
といったことを効果的な治療を実施する上でのキーポイントとして研究を実施しましたが後の研究で全てが間違えだと判明したと説明しています。
2.1973年の研究
1970年からヤング・オーティズム・プロジェクトはスタートしました。 加えて、この研究で判明したことは以下の通りです。
3.1987年のUCLAのヤング・オーティズム・プロジェクト
1970年からLovaasはヤング・オーティズム・プロジェクトをスタートしていました。1987年のUCLAヤング・オーティズム・プロジェクトは1973年の研究の結果から以下のことを改良したと説明されています。
こちらでは以下を目標としています。
1987年のヤングオーティズムプロジェクトの様子はYouTubeにアップされています。
ヤング・オーティズム・プロジェクト自体はこの後も続いており、例えば1999年のヤング・オーティズム・プロジェクトは以下のような結果を報告しています。
このデータを見ると、開始時のIQが高いほど、改善度が高い(中央値のIQ変化が大きい)ことがわかります。
EIBIについて
Early Intensive Behavior Intervention(EIBI)(早期集中行動介入)は、1973年のLovaasの研究を基にした包括的なアプローチです。基本的にDTT=EIBIという考え方で構いません。1987年のヤング・オーティズム・プロジェクトもEIBIとされています。EIBIは
- 週40時間のマンツーマンのセラピー
- 最低2年間のセラピーの継続
とかなりの高密度の訓練を基にしています。EIBIの主な成果は以下の通りです。
VABSはVineland Adaptive Behavior Scalesのことで、適応行動を計測する検査となっています。IQは知能検査です。VABSには一貫性が見られませんが、IQに関しては少なくとも12以上の向上が見られることが分かります。
DTTの特徴
1.着席して教える
DTTの特徴一つ目は着席して教えることです。動作などは立って教えることもありますが、基本的には椅子や床に座ることで教えます。
2.タイムライン
DTTの教える順番は文献によって異なりますがタイムラインとして発表されています。
このように、簡単な音声指示から、○○の上、○○の横といった位置関係のような複雑な問題について段々とステップが上がっていきます。
3.試行の流れ
DTTでは行動を教える時に以下の流れで行動を強化していきます。
①子供の注目を取る
好子を見せる、くすぐるといったことで子供が大人に注目するようにします。
②指示を出す
大人が指示を出します。SD:Discriminative Stimulus(えすでぃー)と呼ばれます。
③子供が適切に行動する
子供が適切に行動します。間違えた場合はまた違う対応になります。
④好子を与える
ほめて好子を与えます(好子による強化)。このことにより適切な行動が増える可能性が高まります。お菓子を食べ終わったら、ビデオやおもちゃは少し遊んだら取り上げ、また①の行程からスタートします。
この一連の流れを一試行(trial)と呼びます。これを不連続で実施していくためDTTと呼ばれます。
この動画では以下のようなやりとりが起こっています。
4.プロンプトを使い行動を教える
DTTでは基本、最初に行動を教える時はプロンプトを使い行動を教えることが多いです。 映像で確認してみましょう。
歯磨きを教える例では、まず身体プロンプトを使用して教えてから、一人で実行させています(プロンプトフェイディングを行っている)。 その後もパズルやヒモ通し等の課題をプロンプトを使って教えようとしています。。
5.間違いを訂正する
DTTではプロンプトを使用してミスなく教えていくことを目指します。ですが、注意深くプロンプトフェイディングやエラーレスラーニングを実施してもプロンプトをなくした瞬間に指示とは違う、間違った行動をしてしまう場合があります。この場合の間違いの訂正は以下の手順を使用します。
このように誤反応が見られた場合は、指示のすぐ後にプロンプトを使用することで正反応に導きます。映像で確認しましょう。
指差しで子供が誤反応を見せた場合は、子供の手を持つプロンプトを使用することで正答を引き出しています。
DTTの長所
1.対象とする課題が多い
DTTでは色々な好子を使って行動を教えるので様々な課題を対象にすることができます。DTTで教えられる課題は以下のようなものがあります。
- 音声模倣
- 動作模倣
- アカデミック課題
- 日常生活スキル
- 概念学習
- 物の名称の学習
- 自助スキル
これらをDTTでは有効に教えることができます。
2.実施順番が明確
DTTは方法がしっかりと確立されており、タイムラインで確認できるように行動を教える順番が明確です。このことは実施方法さえ間違わなければ多くの人で効果的な療育を実施できることを意味しています。これは大きなメリットです。
3.セラピー方法が簡単
DTTは他のABAの手法に比べると、方法が簡単です。それは以下の理由からです。
- 様々な好子を使うので子供の注目が取りやすい
- 着席させるので、子供の行動を制止しやすい
- 単純な試行の繰り返しなので子供が集中しやすい
これらにより、DTTの実施は他の方法より簡単になっています。セラピー方法が簡単なため、DTTを実施するセラピストは多いです。
DTTの短所
1.日常生活の変化が乏しい。
DTTのタイムラインを確認していただくとわかりますが、日常生活でよく使う要求言語や友達との遊びといった課題が初期で教えられることが目指されていません。これは基本的にDTTで実施することは発達検査の練習となっているからです。よって課題がある程度できるようになっても日常の様子は変化しないことが多いです。例えば、見本合わせ(マッチング)の課題を習得したからといって保育園や幼稚園の先生は気づきません。このことは親がセラピーを継続するモチベーションを著しく下げます。
2.課題を教えて習得させても忘れることが多い
これは短所1の日常生活で使うスキルを教えていないことが関係しています。つまり、課題を習得したとしてもそれを使う場面がないため忘れてしまうのです。
DTTが進んでくると課題①の習得→課題②の習得→課題①の復習(課題①を忘れている)→課題②の復習(課題②を忘れている)と無限のループにはまってしまうことがあります。これを私は穴が開いたお風呂に例えています。お風呂に課題という水をたくさん注ぎますが、入れた傍から穴から水が抜けて行ってしまい水(知識・技能)が一切貯まらないのです。
子供によっては教えた課題を忘れずに日常生活で勝手に使うケースもありますが、ASDの子供の多くはそのようにはなりません。ですから、動物の名前や、色等は自然に覚えたものでなければ忘れてしまう可能性が高いため無理して教える必要はありません。
3.教えた課題を日常生活で使うかどうかが分からない
DTTではカード等を使い、物の名称等を教えます(テレビ等の家電製品、お寿司等の料理、犬等の動物の名前)。これらを教えたからと言って日常生活で犬を見かけて「いぬ」と言うかはわかりません。これは行動を好子を使った不自然な形で「これ何?」といった質問によって引き出しているからです。同様にDTTで「ちょうだい」といったマンドを教えたとしても、日常生活場面で「ちょうだい」が使えるかは未知数です。
この短所はDTTの短所①、②と密接に関係しています。日常生活であまり必要としない行動を教えているから生活に変化があまりなく、日常生活で使わないスキルを教えているから課題をすぐに忘れ、日常生活にかけ離れた方法で課題を教えているから行動が広がりにくい(般化しにくい)のです。
DTTでも日常生活で使用するような試みがないことはありませんが、パッケージとしてはしっかりと決められていないので応用が弱いです。
4.好子を使い果たす
DTTでは着席をしてどんどんと試行を行うためにお菓子やおもちゃ等の様々な種類の好子、ほめ言葉、笑顔、ボディータッチを存分に使います。こうすると最初のうちは凄まじいスピードで学習ができますが、すぐに子供が好子に飽きてきます。これは好子を与えすぎることにより好子の飽和化が起こっている状態です。よく使われている方法はどんどんと新しい好子になりえる物を増やしていきますが、この方法でもあっという間に好子がなくなってしまいます。 好子を使い果たすと、学習スピードが極端に遅くなります。
5.子供が課題に集中しない
DTTの短所五つ目は子供が課題に集中しないということです。これは短所④の好子を使い果たすが密接に関係しています。好子を使い果たす→好子がないので子供が課題に取り組むモチベーションが低下する→それでもDTTを継続しようとする→効かない好子を無理矢理使うので好子がさらに聞きづらくなるというのが一連の流れです。子供が課題に集中しないとミスを繰り返す、達成率が悪くくなるという悪循環が発生します。
6.子供の自発反応を育てにくい
DTTは基本的に大人の指示に従うことで行動を身に付けます。ですから「これ何?」「○○して」といった指示は得意で取り組みますが、自分から「お菓子ちょうだい」「おもちゃ貸して」といったマンドを出すことは教えることが難しいです。こういった場合、音声模倣という形では教えられますが自分から要求する自発性を強めることが難しいプログラムになっています。
例えば、この動画では「クッキー」と言うことを教えています。クッキーと音声模倣させて、その後子供が「クッキー」と言って要求するようになっていますが、言語訓練が必要な子供はこのように教えただけで言葉が使えるようになることは稀です。
7.遊びを教えづらい
DTTの短所⑦は遊びを教えることには不向きだということです。前述の通り、DTTでは指示に従うことで行動を教えることがほとんどです。よって、遊びのように自発性が必要とする遊びを教えることには向いていません。
また、お菓子やおもちゃなどの物の好子を使うことが前提になっていることも遊びを教え辛い一因です。遊びでお菓子等を使ってしまう場合は、お菓子を使わなければ遊びを止めてしまいます。
こちらでは型はめの遊びを教えていますが、どうしても課題っぽくなってしまっていますね。
7.学習時間を重視し過ぎている
DTTのプログラムでは必要な時間数を設定しています。EIBIでは20時間~40時間を1週間に行うと効果的とされています。ですが、時間数は効果的な療育を考える上では重視すべきではありません。重要なのは何時間やったかではなく、子供が何度プロンプトなしで正解したかです。漫然と時間数が長いセラピーをしても効果は薄いです。特に日本ではセラピストに必要時間を全部賄ってもらうことが不可能に近いため、保護者が毎日3時間程度子供と向き合わなければならなくなります。そうすると「今日はあと何時間必要」とノイローゼのようになってしまうことが多々起こります。
DTTをどのように使用することが望ましいか
以上のようなDTTの長所・短所を踏まえるとDTTの正しい利用方法が見えてきます。
1.年少児には無理に使用しない
連続で教えていくことを基本にしているので集中する時間が短い年少児(0~3歳)に関してはあまり向いていません。就学準備が始まる年中、年長になったら勉強を教えるために使用するといった使い方が良いでしょう。
2.タイムラインにこだわらない
DTTのタイムラインはその順番でなければ教えられないような絶対的な発達段階を示したものではありません。ですから今必要とされる行動を優先して教えていきましょう。
3.教えるスキルは日常で使うものに限る
日常で使用しないスキルは教えても消えてしまう可能性が高いため無理して教える必要がないです。例えば、以下のようなスキルです。
- 比較の概念(大きい/小さい、固い/柔らかい、高い/低い等)
- グルーピング(動物、食べ物、野菜などを分類する)
- 物の名称(動物の名前、食べ物の名前)
これらのスキルは一度教えて忘れてしまうのであれば再度教える必要はないと思います。
4.子供が好子を欲しがった場合にのみ実施する
親が一方的に好子をあげる方法ですと、子供はすぐに好子に飽きてしまいます。ですから、好子を子供が欲しがった場合のみ実施していくようにしましょう。1回あたり、課題は1個できるまでで構いません。
5.着席と課題は分けて実施する
着席させることと課題を実施することを同時にしてしまうと長時間の着席が困難になったりすることがあります。ですから、着席する練習と課題をすることは分けて実施していくようにしましょう。また、日本のセラピストは机上での課題にこだわってしまう傾向がありますが、アメリカのように椅子を使用しないでも実施するほうが年少児には実施しやすいです。
このように床に座ったりして実施したりする形で構いません。また立ってでも実施はできます。
7.自分から話すトレーニングは別に行うこと
DTTは受け身のトレーニング方法ですので自分から他者に働きかけるといったスキルを教えることが難しいです。自発的に相手に話すトレーニングは別に行っていきましょう。例えば、
- (自分から)挨拶する
- (自分から)言葉で要求する
- (自分から)言葉で助けを求める
といったスキルを教えることが必要になります。
まとめ
DTTは古くからある方法でとても有用な方法ですが、使い方によっては効果的ではないこともあります。DTTにだけ頼るのではなく、他の方法と組み合わせて長所を生かしていけるようにしましょう。