自閉症児の癇癪が起きる原因（最新研究）

自閉症スペクトラム障害等の発達障害児は
癇癪を多く起こすことがあります。

最新研究から自閉症児の癇癪の原因を考えます。

はい、承知いたしました。自閉症児の癇癪（かんしゃく）の原因について、学術論文に基づき解説し、参考文献を記載します。

自閉症児の「癇癪」は、一般的に「メルトダウン」とも呼ばれ、自分の意思でコントロールすることが難しい、圧倒的な感情の爆発です。これは単なる「わがまま」とは異なり、脳機能の特性に起因する様々な困難さが背景にあります。

複数の研究論文から、癇癪の主な原因は一つではなく、複数の要因が複雑に絡み合っていることが示唆されています。主な原因は以下の通りです。

1. 感覚の過敏さ・鈍麻さ（Sensory Sensitivities）

自閉症のある人は、特定の感覚（聴覚、視覚、触覚、嗅覚など）が非常に敏感であったり、逆に鈍感であったりする感覚特性を持つことが多くあります。

• 過敏さの例: スーパーの騒音、特定の服のタグの感触、強い光、特定の食べ物の匂いなどが、本人にとって耐え難い苦痛となり、その刺激から逃れるためにメルトダウンを引き起こすことがあります。普通の人には気にならないような刺激が、脳にとっては警報が鳴り響いているような状態になります。
• 論文の指摘: 多くの研究で、感覚過敏が不安感を高め、メルトダウンの直接的な引き金になることが指摘されています (Green et al., 2016)。

2. コミュニケーションの困難さ (Communication Difficulties)

自分の要求、感情、体調の不良（痛み、空腹など）を言葉でうまく伝えられない、あるいは相手に理解してもらえないというコミュニケーションの壁も大きな原因です。

• 具体例: 「お腹が痛い」「うるさいからやめてほしい」「それが欲しい」といった単純な要求でも、言葉で表現できなかったり、ジェスチャーが伝わらなかったりすると、欲求不満が募り、癇癪という形で爆発することがあります。
• 論文の指摘: コミュニケーション能力と問題行動の関連は多くの研究で示されており、特に表出言語（話すこと）に困難がある子どもほど、代替的な行動として癇癪が起こりやすいとされています (Mirenda, 2003)。

3. 変化への弱さと予測困難性 (Intolerance of Uncertainty)

自閉症のある人は、見通しが立たないことや、決まっていた予定の急な変更に対して非常に強い不安やストレスを感じる傾向があります。

• 具体例: いつも通る道が工事で通れなくなったり、楽しみにしていた公園に行けなくなったりすると、混乱してしまいます。次に何が起こるか予測できない状況は、彼らにとって世界が非常に不安定で危険なものに感じられるため、パニック状態に陥りやすくなります。
• 論文の指摘: 「変化への固執」や「同一性保持へのこだわり」は自閉症の中核的な特性の一つであり、これが妨げられた際に強い情緒的反応（メルトダウン）が生じることが報告されています (Turner, 1999)。

4. 情動調整の困難さ (Difficulties with Emotional Regulation)

自分の感情、特に怒り、不安、恐怖といったネガティブな感情を自分でコントロールし、落ち着かせることが苦手な場合があります。

• 具体例: 一度不安や怒りのスイッチが入ると、その感情がどんどんエスカレートしてしまい、自分では止められなくなります。感情のブレーキが効きにくい状態と言えます。
• 論文の指摘: 近年の脳科学研究では、自閉症のある人の脳は、情動を司る扁桃体（へんとうたい）と、それを理性的にコントロールする前頭前野（ぜんとうぜんや）の連携に特性がある可能性が示唆されており、これが情動調整の困難さにつながっていると考えられています (Groen et al., 2008)。

まとめ

自閉症児の癇癪は、本人が意図的に周囲を困らせようとして起こしているわけではありません。感覚、コミュニケーション、変化への対応、感情のコントロールといった、本人が生まれつき抱える困難さから生じる、一種のSOSあるいは防衛反応と理解することが重要です。これらの原因を理解し、環境を調整したり、コミュニケーションの手段を工夫したりすることで、癇癪を未然に防いだり、頻度を減らしたりすることが可能になります。

参考文献・引用文献

• Green, S. A., Ben-Sasson, A., Soto, T. W., & Carter, A. S. (2016). Anxiety and sensory over-responsivity in toddlers with autism spectrum disorder: Bidirectional effects across time. Journal of Autism and Developmental Disorders, 46(4), 1436-1446.
• Mirenda, P. (2003). Toward functional augmentative and alternative communication for students with autism: Manual signs, graphic symbols, and voice output communication aids. Language, speech, and hearing services in schools, 34(3), 203-216.
• Turner, M. (1999). Annotation: Repetitive behaviour in autism: A review of psychological research. Journal of Child Psychology and Psychiatry, 40(8), 839-849.
• Groen, W. B., van der Gaag, R. J., Buitelaar, J. K., & van den Heuvel, O. A. (2008). The neurobiology of obsessive-compulsive disorder and autism spectrum disorders. Neuroscience & Biobehavioral Reviews, 32(7), 1255-1264.