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自閉症児はなぜ他者の言葉を繰り返す?

自閉症スペクトラム障害等の発達障害児は
他児の言葉を繰り返すことがあります。

これはなぜ起こるのでしょうか。

最新研究論文を元に解説します。

自閉症児のエコラリア(反響言語)は、かつては無意味な反復行動と見なされていましたが、最新の研究では、それが多様な原因と機能を持つ重要な行動であることが明らかになっています。エコラリアは単なる「オウム返し」ではなく、コミュニケーション、言語発達、認知処理の観点から多角的に理解されつつあります。

1. コミュニケーション手段としての機能

近年の研究で重視されているのがエコラリアが持つコミュニケーションの意図です。

自発的発話が難しいのでエコラリアは他者とやり取りをするための方法となります。

  • 応答・肯定: 「おやつ食べる?」と聞かれて「おやつ食べる?」と返すことで、「はい」という肯定の意思を示す
  • 要求: 以前に「ジュースが欲しい」と言ってジュースをもらえた経験から、ジュースが欲しい時に文脈と関係なく「ジュースが欲しい」と発話する(遅延性エコラリア)。
  • 会話のターン維持: すぐに答えが思いつかない時や理解ができない時に相手の発言を繰り返す。

このように、エコラリアは言葉の意味を完全には理解していなくても、その場のやり取りを維持し、自分の意思を伝えようとする適応的な試みであると捉えられています (Stribling et al., 2007; Pascual et al., 2017)。

2. 言語学習のプロセス

定型発達児は単語を一つずつ覚えて文を組み立てます。

自閉症児の中には、文章やフレーズを塊(ゲシュタルト)のまま記憶し、それを再利用することで言語を習得していくタイプがいると考えられています。

  • ゲシュタルト処理: アニメのセリフや歌の歌詞などを正確に記憶し、似たような状況でその塊をそのまま使うことで、コミュニケーションを図ろうとする。これは、言語を分析的に処理するのではなく、全体として捉える認知特性の表れと考えられる。
  • リハーサル機能: 発話する前に、頭の中で言葉を練習(リハーサル)する手段としてエコラリアが使われることがある。相手の言葉を繰り返すことで、音声やリズムを確認し、自分の発話の準備をしている可能性がある。

エコラリアは、言語発達のユニークな道筋であり、より柔軟な言語使用へと至るための一時的な段階である、という見方が強まっています (Prizant, 1983; Cohn et al., 2022)。

3. 認知・神経学的な要因

エコラリアの背景には、脳機能の違いが関係しているという研究も進んでいます。

  • 自己調整・自己刺激: 不安やストレスが高い状況、あるいは感覚的な刺激が強い環境で、聞き慣れた言葉や心地よい響きの言葉を繰り返すことで、自分を落ち着かせようとする機能。これは、安心感を得るための自己調整行動と解釈される。
  • 情報処理の時間稼ぎ: 相手の言ったことを即座に理解し、応答を組み立てるのが難しい場合、相手の言葉を繰り返すことで、意味を処理するための時間を稼いでいると考えられる。これはワーキングメモリへの負担を軽減する方策とも言える。
  • ミラーニューロンシステム: 近年の神経科学的研究では、他者の行動を模倣する際に関わる「ミラーニューロンシステム」の機能の違いが関連している可能性も指摘されている。

まとめ

自閉症児のエコラリアは取り除くべき問題行動ではなく、その子なりのコミュニケーションの試み、言語学習の戦略、そして認知的な困難さに対処するための工夫であると理解されています。

したがって、エコラリアそのものをやめさせるのではなく、その背景にある意図や機能を丁寧に読み取り、「こういうことが言いたいのかな?」と意味を補いながら適切な言葉に言い換えて示すなど、より豊かなコミュニケーションへと繋げていく支援が重要とされています。

参考文献

  1. Cohn, E., PROFESSIONAL, S. L. P., & Elron, E. (2022).Functional echolalia in autism speech: Verbal formulae and repeated prior utterances as communicative and cognitive strategies. Frontiers in Psychology, 13, 1010615.
  2. Prizant, B. M. (1983).Language acquisition and communicative behavior in autism: Toward an understanding of the “whole” of it. Journal of Speech and Hearing Disorders, 48(3), 296–307.
  3. Sterponi, L., & Shankey, J. (2014).Rethinking echolalia: Repetition as interactional resource in the communication of a child with autism. Journal of Child Language, 41(2), 275–304.
  4. Valentino, A. L., Shillingsburg, M. A., & Conine, D. E. (2012).Treatment of echolalia in individuals with autism spectrum disorder: A systematic review. Focus on Autism and Other Developmental Disabilities, 27(4), 232-241.

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