自閉症児のこだわり行動とは?対処方法は?
自閉症スペクトラム障害の子供は時にこだわりと言われる厄介な行動をします。今日は自閉症児のこだわりはどのようなものか、どう対応すべきかを説明していきます。
目次
自閉症児のこだわりの定義
自閉症児のこだわりとは何でしょうか?専門用語では「同一性(の)保持」と呼ばれます。定義を見てみましょう。
同じ状態であることに強く執着する状態を示し、「固執」症状の1 つとして挙げられる。「固執」とは一般に、環境変化などに柔軟に対応できず、同じ行動や状態が固定化したり、反復する状態を指す。こうした行動は自閉症において顕著であることが知られており、カナー(Kanner,L.、1943) も「同一性保持への切なる強迫的要求」という表現で、自閉症の特徴の1 つとして述べている。現在の自閉症診断では、この同一性保持は、DSM-IV-TR の自閉症の診断基準の1 つである「行動、興味、および活動の限定された反復的で常同的な様式」の中で扱われており、自閉症の大きな特徴として位置づけられている。実際の臨床像としては、毎日の一定の生活の流れが変わることに対して強い抵抗を示したり、自分流のルールに従った反復的遊びもこれに含められる。また、家の中の家具や玩具の配置が少し変化するだけでもかんしゃくを起こす。時にはパニック状態に発展することもある。発達障害における同一性保持を含めた固執の原因は、脳器質性障害による過敏性から生じるものであると考えられている。われわれにはなんともないような日常の環境刺激の変化が、不安や苦痛を伴うため、防衛機制として、同一の状態であることにこだわると考えられている。またこうしたこだわりは、認知発達とともにその状態像は変化し、単純反復運動から興味の限局、順序への固執、強迫的質問癖、そしてファンタジーへの没頭へと質的に変化していくといわれている。しかしながら、同一性保持などのこだわり行動は、日常生活や学習活動を進める上で大きな問題となることが多いため、早期からの何らかの介入が求められる。
『自閉症教育基本用語事典』P.179(学苑社)
変化への抵抗。精神遅滞や脳障害の非特異的徴候。もっとも軽いものは、子どもの就眠儀式のようなものだが、重くなると、本棚の本の位置が変わっただけで、長い間かんしゃくが続くこともある。この徴候は自閉症で頻発し、併存している精神遅滞に不相応に重い傾向がある。
『発達障害事典』P.382(明石書店)
このように、定型発達児には見られないような細かいこだわりを同一性の保持の問題として説明されます。
自閉症児のこだわり行動の例
自閉症児のこだわりは以下のようなものがあります。
動画ですが、以下のような例がありました。
食べ物の順番にこだわりがあるようですね。ただ、三角食べというのはできなくてもある程度ほかの物も食べられているので大きな問題はなさそうです。このような家族からのアプローチも説明した動画は大変参考になります。
他の例を見てみましょう。
この男の子はお菓子を机の上で指でつぶしてから食べるという奇妙なこだわりがあります。おそらく、手でつぶす感触が楽しいのでしょう。
このように自閉症児には定型発達児では見られないような細かいこだわりがあることがあります。
自閉症児にこだわりができる原理
では、なぜ自閉症児にこだわり行動が生まれるのでしょうか。以下のようなメカニズムが働いています。
このように、知らぬ間に日常で固定されていた行動パターンを親が止めようとした頃にはこだわりとなっていて止めようとすると激しい癇癪が起きるということが多いパターンです。こうすると、年齢が上がる度にこだわりが増えていくという困ったことになります。例えば、以下の通りです。
このように、段々と食べられるものが減っていき、最終的にはご飯だけしか食べないといったことが起きます。
自閉症児の消すべきこだわり行動の基準は
では、こだわり行動を消す基準はどのように考えたらよいでしょうか?以下のチャートで確認してみましょう。
このように、自閉症児のこだわり行動を消す必要がない場合は
- こだわり行動を制止されても子供が泣かない
- こだわり行動が危険性、破壊性を持っていない
- こだわり行動が他者に迷惑をかけない
の条件を全て満たしている時だけです。こういうことを考えると、ほとんどのこだわり行動は消す必要があります。
自閉症児のこだわり行動の何が問題か
自閉症児のこだわり行動はなぜ問題になるのでしょうか。それは以下の原因からです。
このように、自閉症児にこだわり行動があることで日常生活での弊害が出てきます。また、自閉症児本人もこだわり行動のせいで行動に制限を受けるため、本人の不利益となります。
自閉症児のこだわり行動の根本的な理由は?
自閉症児にこだわりができる根本的な理由は、単純に自閉症児が癇癪を起こして無理な要求を通すということです。「変化が苦手だから」という説明をする人もいますが、これには無理があります。なぜなら
- 偏食は、飽食の時代以外では起こっていたとは考えにくい。例えば、江戸時代にチョコしか食べない子供は存在しない
- 明らかに変更が無理な場合は自閉症児は癇癪を起こさない。例えば、外遊びの時に雨が降ってきたからといって天気に関して癇癪は起こさない
- 変化を嫌うとされているが、お菓子の数が増えるといった自閉症児本人にとってメリットがある変化に関しては癇癪が起きる可能性が低い
ということがあるからです。ですから、こだわり行動は自閉症児の癇癪が強いためわがままを通してしまっている状態と理解したほうが良いです。
こだわり行動に対する対応は?
では、自閉症児のこだわり行動にどう対応していけばよいでしょうか?まず、偏食は年長になる程、直しづらくなっていきます。偏食訓練はかなり難しい方法なので、また別の記事で解説します。こだわり行動を消す前には、要求時に泣いたり怒ったりということがなくなっていないと指導が難しいです(コンプライアンストレーニング)。まずは日常的な癇癪を消しましょう。その上でのこだわり行動の対応は症状によって違います。
- こだわり行動がすでにある子供の場合
こだわり行動がすでにたくさんある子供は、それらをすぐに消すことはできません。まずは新たなこだわりを生まないようにすることに注力すべきです。今までなかったこだわりが出現した場合は、泣いても怒っても一切許さないようにしましょう。これだけで新たなこだわりは防げます。もし、子供が保護者に攻撃してくるようであれば、トイレや別室等に逃げましょう。新たなこだわり行動が出現しなくなったら既存のこだわり行動を消していきます。今あるこだわり行動もいっぺんに消すことは不可能ですので、一つずつ消していきます。こだわり行動がでたらブロックする、もしくはこだわらないように他の物を与えないということをしていきます。最初は大きく暴れると思いますが、将来のことを思って毅然とした態度で阻止しましょう。こだわり行動は一つが消せたら、その後はどんどんと消えるスピードが速くなっていきます。 - こだわり行動が始まったばかりの子供の場合
こだわり行動が最近始まったばかりの子供はすぐにこだわり行動を阻止して構いません。こだわり行動は持続期間が長ければ長いほど対応が難しくなるので初期対応が重要です。特に、昨日まで食べていた野菜を食べなくなったといったような場合は、強制的に食べさせることでこだわり行動が出ることを防ぎましょう。
まとめ
自閉症児のこだわり行動に保護者は従っていればその場の問題はなくなりますが、こだわり行動はどんどんと酷くなっていきます。刹那的な考え方をするのではなく、大変ではありますが将来の自分のため、子供のためにこだわり行動を消していきましょう。また、自閉症児のこだわり行動は全て消して終わりではありません。また新たなこだわりが生まれるのです。自閉症児のこだわり行動は見つけた時点で消すことを目指していけば強まることはありません。保護者から見たら些細なことでも自閉症児にこだわらせないようにしていきましょう。