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自閉症スペクトラム障害のアイコンタクトトレーニング

https://www.photo-ac.com/main/detail/749212?title=%E6%AF%8D%E3%81%A8%E5%AD%90%E3%80%80%E3%83%AA%E3%83%93%E3%83%B3%E3%82%B07

 ヒトは生まれつき、他人の視線を参照するという能力を持っています。これはしかし、一方で自閉症スペクトラム障害児は生まれつき他者へのアイコンタクトが乏しいという特徴が見られることがあります。これは、生まれつきの問題であるので誰のせいでもありません。ですが、先天的にアイコンタクトの能力を有していなくても、練習によりアイコンタクトの能力を獲得することができます。詳しく見ていきましょう。

アイコンタクトの機能は

 アイコンタクトの機能はどのようなものがあるでしょうか。Baron-Cohenは、他人の目線を探すことを、 視線の検出器(Eye-Direction Detector :EDD) と呼びました。EDDの機能は次の3つです。

1.他者の目を探す
 人の顔で自然に目を探すという行動が赤ちゃんは生後2か月から出現します。これは、人の顔だけに限らず起こります。例えばこの画像。

https://www.photo-ac.com/main/detail/500517?title=%E3%82%A8%E3%82%A4

 このようにエイを下から見ると人の顔に見えてしまうというのもこの機能のせいです。心霊写真の多くもこの機能のために起こると考えられます。

2.視線を探す
  もし視線が自分に向けられていると、人は好子を得ることができるとされています。特に乳児では他者と目が合うことで微笑反応が得られることが多いため、他者とのアイコンタクトが好子となっている可能性が高いです。例えば、自分が描いた絵を子供に親に見せてくる等です。後は、集団が見ている方向を同じように見るといったことが挙げられます。和島功一はあっち向いてホイを試合中に行い、相手をかく乱したことがあります。このような感じです。

3.「見る」「見られる」ことを理解する
 これは例えば、人から見えないように物を隠したり人が見える位置にわざわざ置いたりということが挙げられます。物を隠すということは全盲の子供でもできることが確認されています。後はカフェで勉強するといった行動も他人から参照されていることを理解した上で行動しています。

 一方、私はアイコンタクトの機能と種類を以下のように考えています。

1. 他者に要求(マンド)時のアイコンタクト
 他者に何かをお願いする時にアイコンタクトをします。以下のような例です。

 このように小さな赤ちゃんでもこちらに要求がある時は、自然に相手の顔を見るようになっています。

2. 他者の指示、問い、要求を聞く時のアイコンタクト
 これは指示を聞く時に相手の顔を見るアイコンタクトです。

 相手が指示を出した時に相手の目をきちんと見れていますね。このようなアイコンタクトです。

3.他者の指示、問い、要求に応えた時、またはその後に相手の反応を見るアイコンタクト
 2のような指示中のアイコンタクトに加えてその後もアイコンタクトをして相手の出した指示に答える時のアイコンタクトです。

 このように指示に対して反応している時もアイコンタクトをすることが必要です。

4.他者に共感を求める時のアイコンタクト
 これは、Baron-Cohenの3.「見る」「見られることを理解する」というアイコンタクトのように、いたずらをしてこっちを見るといった行動です。ふざけたり、自分が何かを作ったりした時によく見られます。

5.1~4の場面以外で相手の反応を見るアイコンタクト

相手の顔色を伺うということでのアイコンタクトが想像しやすいです。例えば

  • 何かをする前に大人の顔を見てから実施する
  • お店で店員に怒鳴っている人の顔を見る
  • 外でぶつかってきた人の顔を見る

このようにこのアイコンタクトは「何でそんなことをするの?」「怒られないかな?」「いまどんな顔をしているのかな」というように相手の反応を見る役割があると推測されます。

教えられるアイコンタクトの種類

 全てのアイコンタクトを教えることは難しいことがあります。特に4.他者に共感を求めるアイコンタクトは後天的にはなかなか教えづらいです。ですが、それ以外は教えることが可能です。

アイコンタクトを教えることのメリット

 自閉症スペクトラム障害児に他者とのアイコンタクトを教えることによるメリットは何でしょうか。以下の通りです。

1.指示や課題に集中できるようになる
 他者とアイコンタクトをしないという状態は常に気が散っている状態です。専門用語ですと、自己刺激行動に没頭している状態です。この状態で指示を出しても集中力がなく、上の空で聞いている可能性が高いです。例えばこのような状態です。

2:29~2:41

 女の子がボーっとしてしまっているのがわかると思います。このような状態ではよい学習ができているとは言えません。
 反対に他者とアイコンタクトをすると課題に集中させ、自己刺激行動を制止できます。これだけでも学習効率が飛躍的に上がります。

2.音声模倣の上達が早くなる
 他者とアイコンタクトをすることは相手の顔を観察することとと同義です。言葉の指導が必要な自閉症スペクトラム障害児の場合、音声模倣によって言葉を指導することが多いです。音声模倣で言葉を似せるために重要なことは相手の口の形を真似することです(口径模倣)。これによりきれいな発音がだせるようになります。

3.自然に人の真似ができるようになる
 自閉症スペクトラム障害児の場合、他者と同じような行動ができないというのは深刻な悩みです。アイコンタクトをすると自然に他者を参照することが増えるので他者の真似が増えます。他児の遊びを真似したりということが多くなることが期待できます。

4.ある程度表情理解ができるようになる
 自閉症スペクトラム障害児の場合、他者の表情を理解することが苦手ということがあります。以前、私は自閉症スペクトラム障害児が先天的に表情を理解することが欠損していると考えていたのですが、違いました。表情を見る機会が少なかっただけなのです。現にアイコンタクトトレーニングが完了した子供ですと、親が怖い顔をしていたらしていたことをやめる等、親の表情を頼りに行動することが増えました。また、子供によってはセラピストが怖い顔をしている時に「先生笑ってください」といってきたりという行動が見られました。

アイコンタクトを教えるデメリット

 自閉症スペクトラム障害児にアイコンタクトを教えるデメリットは一つだけです。それは、相手の表情を頼りに課題を解くことが増えることです。課題の選択肢で迷った時は指導者の顔を見ながら選択したりということが増えます。この場合、指導者は正答を見ないようにしたり、ポーカーフェイスをしたりする必要があります。

アイコンタクトを教えられる条件

 自閉症スペクトラム障害児にアイコンタクトを教える場合、日常的に激しい癇癪が見られないことが必要です。

 例えば、この女の子のように手を勝手に洗いに行くことを制止してアイコンタクトして要求をさせようとすると奇声を上げる子供にはアイコンタクトの練習ができません。まずは怒ることを無くすことが必要です(コンプライアンストレーニング)。

アイコンタクトの教える順番

 アイコンタクトは以下の場面の順番で教えていきます。

  1. 遊び場面
    遊びの中でアイコンタクトを教えていきます。
  2. 要求場面
    お菓子やおもちゃ等を欲しがった時にアイコンタクトを教えます。
  3. 日常の中での避けられない要求場面
    「いただきます」の場面やお風呂から出る場面等、日常生活の避けられない要求場面でのアイコンタクトを教えます。
  4. 課題場面
    勉強場面でのアイコンタクトを教えます。
  5. 要求以外の日常場面
     他者とあいさつをするといった要求以外の日常場面でアイコンタクトを教えます。

アイコンタクトを教える上での注意点

 自閉症スペクトラム障害児にアイコンタクトを教える時に重要なのは、自発的に自然な環境で目を合わせることです。ですから、

  1. 「目を見なさい」と大人が言ってから子供がアイコンタクトをさせる
  2. 物を大人の目の横に持ってくるなどして子供にアイコンタクトさせる
  3. アイコンタクトしやすいように子供の顔の動きに合わせて大人が顔を動かす

といったことは全て禁止になります。あくまで自発的にアイコンタクトするまで待つだけです。

アイコンタクトを教える方法

1.遊び場面
 遊び場面では遊びながら名前を呼んで目があったら遊びを続けるといったことを実施していきます。

 このように名前を呼んで大人の目を見れたら遊びを続行していきます。
 ただし、この方法はそもそも大人と楽しく遊べない自閉症スペクトラム障害児にとっては難しい方法です。その場合は、 名前を呼ばなくてもよいので自発的に大人の顔を見れたらお菓子をあげたり、くすぐったりおいかけたり高い高いをしたりといった方法でアイコンタクトを教えましょう。

2.要求場面でのアイコンタクト
 要求場面でのアイコンタクトは教えることが比較的容易です。子供が大人の目を見れたら要求に応じます。

 例えば、このようにアイコンタクトができたらお菓子をあげるといった方法で教えていきます。

 上の動画のように、子供が要求をして手を引っ張ってくる場合は、アイコンタクトができたら子供についていってあげましょう。

 要求場面は子供のモチベーションが高いので比較的うまくいきやすいのですが、前述の通り、自閉症スペクトラム障害児の中には要求時にアイコンタクトを待っている間に怒ったり泣いたりと癇癪を起こす子供もいるのでその場合は使用できません。

3. 日常の中での避けられない要求場面
 1や2の方法は問題があります。それは、子供がお菓子に飽きたり、遊びをしない日はできないことです。つまり、子供のモチベーションに大きく左右されてしまうのです。また、大人が常に気を使って時間を取らないとできないという問題もあります。

 この図のように、お菓子や遊びのアイコンタクトは一日の回数が非常に安定しづらいです。ですから、1や2の方法である程度アイコンタクトができるようになったら日常生活の要求場面で必ず実施していく方法に変更していきます。この方法を使用すると安定して日常生活でできるので、効率的にアイコンタクト能力を伸ばしていくことが可能になります。日常で避けられない要求場面というのは

  • 食事前
  • トイレから出る前
  • チャイルドシートのロックを外す前
  • お風呂から出る前

このような場面です。これらは、大人の手伝いが必要、もしくは大人が制御しやすい場面となっています。これらをいっぺんに実施しようとすると大人にも子供にも負担が大きくなるので、2週間毎に1回ずつ回数を増やしていくようにしましょう。上記のように場面を段々と増やしていく方法は使えますが、頭打ちになることが多いです。その場合、一つの場面を分割して何回も使用していきます。例えば食事場面ですと

①席について食事を目の前にした時
②食器をもらう時
③おかわりをする時
④ごちそうさまをして離席をする時

のように回数を増やしていくことが可能です。こうすることで日常生活の中で無理なく要求場面を増やしていくことが可能です。このように日常のイベントを使用して教えていくことを機会利用型学習法と呼びます。

4.課題場面でのアイコンタクト
 3の方法は、日常生活でのアイコンタクトを習慣化できますが、自分に利益がない場面ではアイコンタクトをしない等、使用場面が限られてしまいます。そこで、お勉強中等、自分に特にメリットがない場面でも子供が大人に対してアイコンタクトをすることを教えていきます。最初はアイコンタクトをし続ける課題だけを実施するとその後、2分くらいは継続してアイコンタクトし続けられるようになります。

 この男の子の場合、アイコンタクトトレーニングは完了しており、複合課題として音声模倣を実施しています。課題中は一度もキョロキョロしていないことが分かります。このように、課題中にアイコンタクトをし続けられると課題に集中して取り組むことができます。

5. 要求以外の日常場面
 4の課題場面でアイコンタクトをできるようになったら、日常生活の中で子供にとってメリットがない場面でのアイコンタクトを習慣化していきます。代表的なものが他者との挨拶です。このような場面で自発的にアイコンタクトができるようになることを目指します。

アイコンタクトの改善例

 実際にアイコンタクトトレーニングを行うと素晴らしい改善が見られます。

 セラピー開始時にはほとんど相手の目を見れませんでしたが、最終的には回答する度に相手の顔を見るといったことが可能になっています。生まれつきアイコンタクトをする習慣がなくてもここまでよくすることができます。自閉症スペクトラム障害だからアイコンタクトができない訳ではないのです。ですから、アイコンタクトが苦手な子供には適切なアイコンタクトを教えてあげましょう。

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