療育の正しい順番はあるか
自閉症スペクトラム障害等の発達障害児に対して支援を行う場合、正しいステップはあるのでしょうか。
支援のステップですが、一つの指標があります。 少し古い調査ですが、アメリカの国立研究協議会(National Research Council: NRC)による自閉症スペクトラム児(Autism Spectrum Disorders: ASD)に対する調査結果(2001) では自閉症スペクトラム障害児に対する介入効果があった方法にみられる共通点として以下のステップでの介入が見られたと報告しています。
- 機能的、自発的コミュニケーション(有効な要求方法の形成)
- 多様な状況における他者との関わりに関する教育(他者との交流)
- 子供間の相互関係に焦点を当てた遊びスキル(遊びのスキル)
- 自然な環境における技能の習得、維持、および般化(自然な強化)
- 問題行動への対処のための機能的評価と積極的行動支援(問題行動の未然防止)
- 子供のレベルにあった機能的学習能力(学習保障)
順番に見ていきましょう。
1.機能的、自発的コミュニケーション
ここでは自発的に他者に対して要求をすることを学ばせます。ここでのポイントは、話し言葉だけに限らず、ジェスチャーや絵カードといったものでも機能的コミュニケーションに含まれることです。例を見てみましょう。
男の子がウサギ、ボール、シャボン玉のカードの中から自分が遊びたいシャボン玉のカードを選んでいます。その後に音声模倣を促しています。
こちらはiPadを使用して機能的コミュニケーションを教えています。要求の練習というのは子供のモチベーションが高くでき、なおかつ頻繁に使うスキルなので教えやすいのです。
2. 多様な状況における他者との関わりに関する教育(他者との交流)
これは、様々な場面で他者と交流することが含まれています。具体例が何かを忘れてしまいましたが、おそらく集団行動といったことでしょう。
3. 子供間の相互関係に焦点を当てた遊びスキル(遊びのスキル)
これは追いかけっこやかくれんぼ等の子供同士の遊びを教えることです。これにより子供同士での遊びがうまくなります。定型発達の子供に遊びを一緒にしてもらうことをピアトレーニングと言います。以下のようなものです。
このように遊びを教えることで子供同士で遊べるスキルを教えていきます。
4. 自然な環境における技能の習得、維持、および般化(自然な強化)
1~3のスキルは特別な環境でしか出現しなければ行動は広がっていきません(行動が般化しない)。よって、教えたスキルが日常生活で使用できるように指導していきます。この段階が非常に大事で、せっかく教えたスキルも日常で使用しなければ消えていきます。ですから、このステップをクリアして初めて子供はスキルを身に付けたといえるでしょう。
5. 問題行動への対処のための機能的評価と積極的行動支援(問題行動の未然防止)
この段階になると問題行動の予防がメインとなってきます。つまり、それだけ問題が緩和されていることを意味します。PBSと呼ばれる手法が用いられたりします。
6. 子供のレベルにあった機能的学習能力(学習保障)
この段階になって初めて学習に関しての項目が出ます。支援級、普通級で授業についていけるように学習保障することが求められます。
これらが効果があるステップとして調査結果として挙げられていますが、私は少し違った意見を持っています。まず初めにしなければいけないことはコンプライアンストレーニングです。コンプライアンストレーニングをしなければ、
- それぞれ新しいことを教えようとすると癇癪が起こる
- 日常での暴れる、泣くという行動が消えないため家族の日常生活の大変さが変わらない
- 子供が怒らないようにビクビクして過ごす
ということが継続し続ける可能性が高いです。要求手段を教えることと泣く等の問題行動での要求行動を消すことはいっぺんにできませんので、まずは癇癪を消しその後1→6に向けて行動を形成していくことが望ましいと考えます。癇癪が残ったまま要求を教えようとすると大抵失敗します。
この男の子は一見言葉での要求を習ったように見えますが、泣き叫んだ後に相手の言葉を模倣すれば要求が叶うと考えることが自然です。このように癇癪がある時点で行動を教えることは困難になりますのでまずは癇癪を消すコンプライアンストレーニングを実施することが求められます。